02.マヨイガ
「シガン、お前はどうしてそう無茶をする」
幼い少女が背後からため息まじりに呟いた。
「うるせぇ。俺の人生だ。勝手にやらぁ」
「お前の人生じゃが、●の楽しみでもあるのじゃがのう」
「知ったことか。鬼は殺した。俺はここを出ていく」
「それは最初に決めた約定通りじゃ。自由にせい」
幼い少女が背後からため息まじりに消えた。
この場所にはシガンと鬼しかいない。
時折●が現れるが、それも年に一度か二度のこと。
食事も水もあるし、風呂にも入れる。
鍛錬のための庭もあれば雨風凌ぐ家屋もあった。
ここは幽世にあるマヨイガ。
内部の時間は経たないし、消耗品も勝手に補充される夢のような楽園だ。
五年の歳月を修行と鬼との戦闘に明け暮れたシガンは、ようやくマヨイガから出ていくことができるようになった。
鬼は強かった。
最初はどうすれば勝てるのか分からなかったから、とにかく体格の差を縮めようと足ばかり狙った。
それが功を奏して、鬼は動けなくなったのは良かった。
しかしそれで鬼が本気になったのは、――まあどうせ今際の際には本気を出さざるを得ないだろうが……。
「おっと、もう鬼は死んだんだ。今更、考えても仕方のないことだったな」
シガンは迷いない足取りで、マヨイガを後にする。
――時は西暦2020年。
東京オリンピックの開かれる年だというのに、真剣もってチャンバラをする男、シガンは五年ぶりに娑婆に戻った。