19.アティ
「しかしたったふたりでは危険だよな……」
「シガン様! それが分かっていながらなぜ依頼を受けたんですか?!」
実はシガンは、ゴブリンの奇襲を言霊でどうすればいいのか、ずっと考えていた。
その答えがこれだ。
「大丈夫。《俺たちに優秀な斥候が仲間になる》から」
「そんな都合よく……」
ベルが呆れた顔で言ったと同時に、
「ああ! シガンさまだ!」
と女の子の声がした。
見れば孤児院の幼児のまとめ役をしているアティだ。
ただし、遠く100mほどの距離がある。
この雑踏の中で100m先のシガンたちを見つけたのである。
凄い視力であった。
「……まさかな」
「ええ、まさかですよ」
ダッシュして来たアティは見る間に100mを詰めて、シガンに抱きついた。
なおアティの年齢は12歳。
これには14歳のベルも黙ってはいられない。
「ちょっと、シガン様に気安く触らないで!」
「え? でもシガンさまは孤児院にたくさん寄付してくれるから、サービスしておきなさいって院長先生が言ってたよ。ほらほらぐりぐり」
アティは小さな胸をシガンに押し付ける。
Tシャツごしに弾力のある硬い感触を感じて、シガンは慌ててアティを遠ざけた。
中学生のベルですら罪悪感があったのに、ギリギリ小学生のアティにまで言い寄られたのではシガンの精神がもたない。
「そ、それでアティ。今日はどうしたんだ?」
「うん……実は私、孤児院を出て働こうと思うの」
「へえ、どんな仕事だ?」
「私、冒険者になりたい! それでシガンさまみたいに一杯稼いで、孤児院に寄付するの!」
シガンとベルは「あちゃぁ」とした顔を見合わせた。
夢を見せた責任はシガンにある。
「ちなみにアティは何ができるんだ?」
「私、すっごく目がいいから弓を持つつもり!」
「へえ……? 他には?」
「えへへ、内緒だよ? 実は鍵開けもできるんだ。あ、悪いことしていたのは浮浪児の頃だからね?! 孤児院に入った今はやってないよ?!」
「ほほう。詳しく」
「んー? スリとか空き巣とか、そういうのが得意だったかな……さすがに孤児院を出て泥棒にはなれないよね」
「ベル。どうやら優秀な斥候が見つかったようだぞ」
「え、まさか」ベルが目を見開いてアティを見る。
「アティ。よければ俺たちのパーティに入らないか? 見ての通り、人数が少なくて困っていたんだ。アティが入ってくれればすごく助かる」
「え? シガンさまのパーティに……もちろん入ります! 誠心誠意、働きます! なんなら夜伽に呼ばれてもがんばります!」
「そこは頑張らなくてもいいの!」ベルがキレ気味に言った。
かくして都合よく優秀な斥候を得たシガンとベルは早速、アティの冒険者登録をしたのであった。




