16.ゴブリン殲滅作戦(1)
シガンは宿の部屋で、ベルに斥候の必要性を相談していた。
「ゴブリンの斥候に奇襲されるのは痛かったですね。私も矢で怪我をしましたし……」
「ああ。あんなに上手く奇襲されるとは思ってもみなかった。俺たちにも斥候が必要だと思うんだ」
「ううん、そうですねえ。でも優秀な斥候は大抵、取り合いになりますから……もう既にどこかのパーティに入っていると思いますよ?」
「そうなのか?」
「ええ。特にアドリアンロットは大きな街なだけあって、冒険者も多いんです。でも斥候は希少なので……」
「なるほどな、しばらくは二人で奇襲を警戒しながら行動しなければならないか……」
シガンは言霊でなんとかならないものかと思案を巡らせる。
奇襲も現象だ。
しかしどうやって防いだらいいのか、シガンは思いつくことができなかった。
領主の名でアドリアンロットの冒険者が集められた。
ゴブリンの集落襲撃のためにだ。
シガンとベルも当然、それに参加することになった。
地図は簡単なものだが、写しを主要なパーティに渡されていく。
シガンたちはたった二人のコンビなので地図はもらえなかった。
地図を作った張本人なのだが……とシガンは思ったが、確かに二人パーティに地図を渡しても仕方がない。
それにゴブリンの集落に近づくにつれて増える奇襲に対抗するには、斥候を擁するパーティが先導しなければならないとも思った。
地図通りに進み、数々の奇襲を退けてアドリアンロットの冒険者たちはゴブリンの集落にたどり着いた。
そこからは一気に攻めることになる。
乱戦だ。
ゴブリン自体は大した実力をもっていないため、個々のパーティでなんとでもなる。
「いいか、ゴブリンの女赤子も容赦なく殺せ。奴らは凄い勢いで増えるからな」
今回のリーダーを任されている冒険者が言った。
ベルは硬い表情で頷いている。
思えばベルの仲間四人を殺したのもゴブリンだ。
何か思うところはあるのだろう。
シガンはとにかくゴブリンと見たら殺せ、と頭にインプットして、攻撃に参加する。
「よし、行くぞ! 進め!」
リーダーの合図でパーティがぞろぞろと集落に侵入していった。
しかしゴブリンの集落には、あまりにもゴブリンが少なかった。
奇妙に思っていると、あばら家の屋根の上から、矢をいかけられた。
大量の矢の雨だ。
「しまった、罠か! くそ、ゴブリンのくせに!」
知恵者がいる、という話は通じているはずだが、正面から攻めたのは失策だった。
人数のいるパーティから突撃したため、幸いなことにシガンとベルは無事だったが、被害は少なくない。
「ベル、魔法で屋根の上の射手を撃ち落せ」
「はい! 〈ウィンド・カッター〉!」
集落の屋根から死角になる場所から魔法で攻撃する。
シガンに出来ることと言えば、なにもない。
……いや、言霊がある。
「《ベルの魔法がゴブリンどもを殺しまくる》」
効果はてきめんだった。
ベルの魔術が百発百中になったのだ。
ベルの〈ウィンドカッター〉がどんどんゴブリンを撃ち落としていく。
「今日は絶好調らしいです、シガン様!」
「そのようだな」
屋根の上の射手を掃除した後、リーダーは再度攻撃の指示を出した。




