13.蟹狩り
翌日。
冒険者ギルドがやけに空いているのに疑問をもったシガンだったが、特に興味ないので問うことはしなかった。
「今日もゴブリン退治の依頼ですか?」
「少し目先を変えた依頼がいいんだが、何かいいものはないか?」
「そうですね……シガン様なら街中の猫探しも楽勝そうですが……」
「刀を使ったものがいい」
「ですよねー」
ベルとシガンが依頼を眺めていると、受付嬢が「ふたりがデキたって本当だったのねえ」などと呟いた。
さて依頼だが、ベルの探し当てた『ジャイアントクラブ狩り』に決まった。
ジャイアントクラブとは、文字通り巨大な蟹で、非常に美味な存在である。
ただし魔物であり、巨大なハサミは人間をねじ切るほどのチカラがある危険であるため、駆除を兼ねた討伐依頼があるのだ。
「シガン様、ジャイアントクラブはまるごと持ち帰ることが推奨されています。ポーターを雇いましょう」
「ポーターっていうと、荷物を運ぶあの?」
「はい。大抵は孤児院の子供たちですね。報酬は現物、つまりジャイアントクラブ一体が相場です」
「なるほどな。いいぞ、それで」
「はい。じゃあ受付に行きましょう」
カウンターではニマニマと笑みを浮かべる受付嬢がいた。
「あなたたち、随分と距離が縮まったのねえ」
「そうか?」シガンはその辺りに気を止めていなかった。
「あわわ、からかわないでくださいよ」ベルは顔を真っ赤にしてしまった。
「ごめんなさいね、からかって。それで依頼は……ああ、ジャイアントクラブね。その剣で大丈夫?」
「俺の刀は特別性だから、問題ない」
「そう。じゃあポーターも雇うけど、これはいつも通り孤児院に頼むわね?」
「ああ、頼む」
依頼を処理してもらい、シガンとベルは浜辺に向かった。
もちろん露天でお弁当を買うことを忘れない。
ウェストポーチが重くなることを嫌ったシガンは、結局お弁当をベルの背嚢に入れてもらうことにした。
後衛魔術師は荷物を多く持ち、前衛の負担を軽減するのも仕事のうちだ。
さて浜辺に着くと、巨大な赤い蟹がうろうろしているのが見える。
あれが全部、魔物だというのだから街の傍にいたら危険だろう、とシガンは思った。
だから全て狩り尽くすことにシガンは決めた。
「よし、ベル行くぞ」
「はい、シガン様!」
シガンは走って試しに一閃する。
問題ない。
蟹は真っ二つになって死んだ。
「凄い……普通の剣だと甲羅で弾かれてなかなか倒せないのに……」
「そうだな。俺の刀は普通じゃないからな」
マヨイガに置いてあった刀だ。
修復能力だけでなく切れ味も最高なのである。
「死体は置いておけばいいのか?」
「はい。孤児院の子供たちが持っていってくれます」
「よし、じゃあどんどん狩るぞ」
「はい!」
言葉通り、シガンは蟹を斬りまくった。
探すまでもないため、シガンは胴体を真っ二つにしていく。
そのジャイアントクラブの死体を、孤児院の子供たちが冒険者ギルドへ持っていくのが見えた。
真っ二つにしたお陰でひきずることなく、持ち上げて運ぶことができるようだ。
「なんだ、荷車でもあればもっと楽だろうに」
「そうですね。しかしそれすら購入できないほど困窮しているのが孤児院の運営だとか」
「へえ、そうなのか。多少は寄付してやってもいいかもな」
「シガン様……素敵」
「唐突に褒めるなよ……」
肩をすくめたシガンは、巨大蟹狩りに精を出した。
結果、狩ったジャイアントクラブは一日で40匹にもなった。




