12.ベルベット(3)
「シガン様、世界ってなんて美しいんでしょう」
「…………」
「シガン様、背嚢が欲しいのでしたよね? 買い物しに行きましょう」
「……ああ」
シガンは中学生を抱いたことに自己嫌悪していた。
もちろんこの世界では違法ではない。
むしろ14歳で結婚していて子供がふたりくらいいるのも珍しくない世界だ。
とはいえシガンの常識をゆさぶる出来事だったと言っても良かった。
「《俺は悪くない》」
言霊はシガンには効果はない。
罪悪感は消えないままだった。
元気のないシガンを見て、ベルは昨晩の情事ではご満足いただけなかったのでしょうか、と反省していた。
初めてだったから、痛かったしシガンを気持ちよくさせるために何ができたわけでもない。
ベルは女としての自分を磨こう、と決心したのであった。
ベルの内心はともかく、シガンはウェストポーチを購入した。
背嚢ではせっかくのスカジャンの竜虎が見えなくなるのが嫌だったのだ。
この世界のウェストポーチは十分な容量があるので、魔石や銅貨を入れるくらいなら丁度いい。
これを刀を差している反対側の右腰と、背中側にそれぞれ装着した。
またズタ袋を背中のウェストポーチにしまい、荷物が増えたときの控えにすることにした。
「これでシガン様も冒険者らしく……なりましたね?」
「なんだ最後の間と疑問系は」
スカジャンにジーンズのシガンは目立つ。
この世界の普段着にはTシャツもジーンズもスニーカーもないのだ。
ましてやスカジャンは派手すぎる。
ウェストポーチをふたつつけたくらいで、この世界の冒険者らしくは見えないのだ。
「そういえば、シガン様は防具はよろしいのですか?」
「動きが鈍るようなものは身につけたくない」
「そうですか……では革鎧なども駄目ですかね」
「よくないな。革は硬いだろ?」
「ええ。シガン様が怪我をしたら私が魔術で癒やしますから、そこはいいのですが。一張羅が傷ついたらこの街の一番の針子でも直せませんよ?」
「この服は勝手にほつれを直すから気にするな」
「ええ!? 魔法の服だったんですか!?」
通りで見かけないデザインだ、とベルは納得した。
こうしてその日は一日、買い物や食べ歩きをして楽しんだ。
冒険者ギルドの男たちは、その夜、盛大な宴というかやけ酒を煽る会を開いたとか。




