10.ゴブリン退治
翌日、シガンとベルはゴブリン退治を受けることにした。
受付嬢からは心配されたが、十体のゴブリンを瞬殺したシガンの剣技をしきりにベルが褒めるので、しぶしぶ受付嬢は依頼を処理した。
またあの山へ舞い戻る。
いい話ではないが、ゴブリンは儲かると知ってしまったシガンを止められるはずもない。
ベルと行きがけの露天でお弁当を買うと、そのまま山へ向かった。
弁当はベルの背嚢に入れられている。
シガンもリュックサックが欲しくなった。
スカジャンのポケットには限りがあるのだ。
「さて、山に入ったがどうやってゴブリンを探すんだ?」
「え? テキトーに歩き回って探すんですよ」
ベルの非効率的な発言にシガンは頭を抱えたくなった。
なので「これは家伝の魔術だから、絶対に人には言うなよ」と言いながら棒きれを用意した。
「《この棒が倒れた先にゴブリンがいる》」
パタリ、と倒れた棒を見て、ベルは目を丸くしていた。
そんな魔術、聞いたことも見たこともないからだ。
子供の遊びじゃないのだから、これに効果があるとは到底、思えない。
「あの……それ、本当に?」
「本当だ。まあいいからついて来い」
「はい……シガン様がそうおっしゃるなら」
しばらく歩くと、ゴブリンに遭遇した。
ベルは驚いて、魔術の準備に失敗したが、シガンがあっという間に近づいて刀で一閃して殺した。
「…………」
「…………」
ふたりは黙りこくって、死んだゴブリンの死体を眺めている。
ベルは非常識な魔術が本物だったことに驚いて。
シガンはどこに魔石があるのか分からなくて困って。
「《俺はゴブリンの魔石を取り出した》」
仕方なくシガンは言霊に頼る。
するとぽっかりとゴブリンの心臓に穴が空き、ポケットに魔石が入ったのが分かった。
……なるほど、心臓にあるのか。
だが解体用のナイフもなしに刀で抉る気にはなれない。
今後も言霊で魔石を回収しようと、心に決めたシガンだった。
「あ、あの……シガン様。ごめんなさい」
「は? 何がだ?」
「シガン様の家伝の魔術を疑って……それにゴブリンが出たのに魔術の準備を怠ってしまい……」
「たった一匹のゴブリンに魔術とやらは必要か?」
「……いえ、シガンさまの敵ではありませんでした。でもそうすると、私は何のためにシガン様とご一緒できているのでしょうか?」
「俺にできないことをしてもらうためだ」
シガンはポケットの魔石をベルの背嚢に入れてもらうと、もう一度、棒倒しを始めた。
ベルはもう、自分が情けなくて泣きそうになっていたが、シガンがそんなことに気づくほど気の利く男ではないことは明らかであった。




