01.風鬼
新連載です!
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狂ったように風が吹く。
シガンは右手で帽子を顔にきつく押さえつけるようにして正面から吹き荒れる風に耐え、行く。
Tシャツの上に羽織った、スカジャンの背中に刺繍された竜虎が激しくはためく。
シガンはジーンズのベルトに挟んだ腰の刀に左手を添えると、逆手に握って鞘から一息に抜いた。
風の音で何も聞こえない。
スニーカーの足音も、本来ならば刀を抜いた際の、シャランという金属音すら掻き消されて聞こえない。
シガンは左手の刀をくるりと手元で回転させて、順手に持ち替えた。
吹き荒れる風は歩みをすすめるごとに強さを増し、ゴウゴウと耳をつんざくような音を立ててシガンの行く手を阻んだ。
シガンはそれでも前へ、前へと進む。
途端、風が止んだ。
ピタリと。
シンと。
――――音が消えた。
シガンは右手に刀を持ち替えると、半身になって正面を見上げた。
そこには大きな大きな怪物がいた。
身の丈はシガンの二倍。
額に巨大な角があり、片目は大きな傷跡で閉じられている。
シガンが一年前につけた傷跡だ。
もう片方の目は、シガンを恨めしそうに睨めつけている。
シガンは行った。
銀閃が鬼の首を狙う。
しかし鬼とて無抵抗で死ぬわけにはいかない。
そう、鬼は首を斬られれば、人のように死ぬのだ。
シガンはそうとは知らないが、そうだと信じて刀を振るう。
鬼は仰け反りながら刀を回避すると、大きく息を吸い込んで吐き出した。
ゴウゴウと吹き荒れる風が再び、シガンの視界を閉ざす。
帽子はあっという間に吹き飛んでどこかへいってしまった。
だが刀はある。
シガンは両目をつぶり、瞼の裏にある残影を目掛けて斬りつけた。
浅い手応え。
シガンはがむしゃらに刀を振るう。
鬼に足はない。
足は最初の五年前に壊したからだ。
「俺とお前の縁も今日限りだ。足掛け五年、長い付き合いだったが、――お前の顔も見納めだな」
風にシガンの言葉が消える。
刀を振るった。
今度は重い手応え。
左手を添えて力任せに引き斬った。
「ギィアアアアアアアアアアアアアアア」
断末魔の声は鬼のものだ。
風はいつしか止んでいた。