4,好戦的な少女
バレーボールの、クラス対抗戦で活躍を見せた御屋敷守珠。
他校の嫌がらせにキレた少女は、暴走するバイクに立ち向かう。
体育のバレーボールクラス対抗戦で、奈緒と守珠は代表に選ばれた。
対戦チームには、中学時代にバレー部のキャプテンを努めた猛者もいる。女子とは思えない、力強いサーブを放つ。
「ナオ!」
相手の放つ重いサーブをシュシュが受け、味方チームのチャンスとなる。トスを繋いで、長身のナオがレシーブを放つ。
「ナイス、アタック!」
一進一退が続くクラス対抗戦。
奈緒や守珠以外のメンバーを標的にされ、セットポイントとなったが、なんとかジュースに持ち込み、あと1点で勝てる所まで来た。
スポーツ万能な奈緒が、皆に檄を飛ばす。
「勝つよ、みんな!」
「オシ!声出して行くよぉ〜!」
気合の入った張りのある声で、守珠はチームメイトを見廻す。
「オオオォ!!」
守珠がクラスメイトになり、皆はまとまりがある様になった。
物静かだが、あまり協調性のない高校生達が、入学して3週間足らずの守珠に引っ張られている。
体育の授業とは思えないほど白熱した試合に、2つのクラスの生徒達がコートを囲んでいた。
男三人衆も、試合の様子を観戦している。応援合戦も盛り上がりを見せる中、三郎、相馬、景光の3人は、コート脇から少し離れた場所にいた。
「次で決まりだ」
「しかし、よく追いついたな」
「シュシュもナオも、女子生徒のまとめ役みたいなもんだけど。即席チームにしては、よくやる」
皆が見守る中、サーブを放つのは、今や校内で話題をさらっている守珠だ。
「シュシュさまぁ〜!!」
「ソ〜レ!!」
女生徒から黄色い歓声が上がり、力強いジャンプサーブが放たれる。
「変化球!」
「スゲー!」
「おいおいマジか!」
空中でS字を描いた球は、相手コートのラインギリギリに着弾した。
「ピィーーー!」
ホイッスルが鳴り、体育教師が判定を告げる。
「ラインイン!この勝負1組の勝ち!」
「オオオォ!!」
割れんばかりの歓声と拍手。女子生徒達は抱き合い、相手クラスとも健闘を称え合う。
守珠は、運動神経の良さと学力の高さで、一目置かれる存在になっていた。
年齢が上というのもあるが「守珠のお姉様」と、学年問わず女学生の憧れの的になっている。
「おつかれ、シュシュ、ナオ!いい試合だったね!」
体育の成績はまぁまぁだが、身長差でクラス代表から外された咲良が、エースの二人をねぎらう。
「ありがとうサクラ。いや~、すごい変化球サーブだったねシュシュ」
「なんのなんの。ナオの時間差レシーブはお見事だったよ!」
奈緒達の後ろから、クラスメイトが追いついて来て、束の間のガールズトークがはじまる。
女性陣3人と、三郎達男子3人。いつも一緒のメンバーを傍から見れば、誰と誰が付き合っているのか?と当然のように話題になる。
「ええっ!私達?特にそういうのではないけど・・・」
守珠がメンバーに加わる前から、女子生徒達から、耳タコで聞かれた質問だ。
「サクラは年上の彼氏いるでしょ?んで、カゲミツもソーマも他校に彼女さんいるし。私の相手がサブローじゃぁねぇ~」
と、切り返すのが、ナオの常套句になっていた。
サクラの彼氏は大学生で、なんでも親が決めた許嫁だそうだ。彼女自身も、一流大学に通うスポーツマンの彼氏を自慢していた。
「俺達がどうしたって?」
三郎達が歩いてくる。
「なんでもないよ!女子トーク中は男子禁制!」
奈緒に怒られて、男子3人は首をすくめる。
クラス対抗戦の功労者、守珠が奈緒の横に並んで歩く。
「でも、実際のところ、ナオはサブローの事好きでしょ?」
少し顔を赤くして、長身女子が驚いた顔でシュシュを見る。
「誰にも言わないよ。私、そういう勘だけは鋭いの」
「なんか、ほっとけなくてさ。ダメ男なのに、なんでだろう?」
「だが、それもいい。恋せよ若者ってね」
笑顔でウィンクして見せるシュシュ。
グランドには、桜の花が風に舞っていた。
着替えにクラスに戻り、咲良を交えてガールズトークの続きが始まる。
「ところでサクラ。三郎はやっぱり三人兄弟なの?」
守珠が、前から気にしていた事だった。三郎の家も複雑そうなので、本人には聞きづらい。
「私達も同じ事聞こうとしたの。でもカゲミツに、デリカシーがないって怒られて」
「どうしてまた?」
「あの2人は、付き合い長いでしょ。三郎のすぐ上のお兄さんは、何年か前に亡くなったのよ」
咲良は、運動着を脱ぎながら小声で言う。
「ん?。でも、2人兄弟って事?」
「長男もいたんだって、一郎って名前じゃなかったらしいけど、何年も行方不明なんだって」
今度は、奈緒が景光から聞いた話をした。
「それで、三男坊だからサブローか。両親は海外だってだけ、私には教えてくれた」
フクザツな事情と言うのは、色んな所にあるものだとシュシュは思った。
翌日。ちょっとした事件が起こる。
オン!オン!オォォオン!!
授業中に、校庭からバイクの爆音が鳴り響く。
「なぁ、なんだぁ!」
春の暖かい昼下がり、机に教科書を広げ、ウトウトとしていた三郎は飛び上がった。
クラスの生徒が窓の外を見ると、4、5台のヤンキー仕様の単車が、校庭を走り回っている。
「またか。暇な奴らだね、しかし」
景光は呆れ顔で、自分の机に戻った。
「こんな事、何度もあったの?」
守珠には、初めての体験だ。
「大北高のヤンキーよ。前に、卒業した先輩達とやりあってから、うちを目の敵にしてんの」
奈緒が事情を説明する。しばらくすれば、教師が呼んだパトカーが来て、騒ぎは収まると平然としている。
「それでいいの!?うちらのテリトリー荒らされて、私なら我慢出来ない!」
何故か守珠は、本気で腹を立てている様だ。怒っている彼女を初めて見た三郎は、少々ビビリながら言う。
「おいおいシュシュ。まさか、奴らとやり合う気か?」
「当然でしょ!サブロー、単車の鍵貸して!」
「シュシュがやるってなら、俺も手を貸すぜ」
元々、喧嘩っ早い、相馬が立ち上がる。
「しゃあない。先輩達の守った学校だ。俺らも頑張りますか!」
普段は沈着冷静な、景光までやる気になってしまった。
こうなると、三郎1人残る訳にも行かない。
「やるの?私達も手伝うか?」
咲良や奈緒も乗り気だが、今日の奈緒はスカート姿だし、咲良に喧嘩は無理だ。
「ナオは、スマホで上から見た状況を教えてくれ。サクラは作戦指揮官だ」
うなずく2人に後の事を任せて、景光はバックからグローブとブルゾンを取り出し、イヤホンマイクを耳にはめる。
教師も生徒も、窓の外に釘付けになっている間に、三郎と景光、相馬、守珠の4人は、そっとクラスを抜け出した。
「シュシュ、無理すんなよ!」
正門へ辿り着いた相馬が、オフロードで先陣を切る。バイクを滑走させウィリーすると、ヤンキーバイクに乗っていた男に側面から前輪を喰い込ませる。吹き飛ぶ様に倒れるバイクと大北高の生徒。
「やるじゃんソーマ!サブロー、私らも行くよ!」
スピードの速い、ヤマハに乗る景光が、敵を混乱させ引きつけている間に、2人乗りのCBは後方から近づく。立ち乗りした守珠が、相手に飛びかかった。
バイクが転倒して、状況が掴めず地面に転がるヤンキーの顎へ、守珠の蹴りが入る。
「モロに極まってるよ。やるな姉さん」
オフロードバイクを反転させて、背中から鉄パイプを取り出した相馬は、相手のバイクに追いつくと、回転する後輪へパイプを突っ込んだ。
ガッシャン!
凄い音がすると、ヤンキー単車が乗っていた男ごと旋回して倒れる。
三郎のホンダは、突っ込んで来る単車の正面から、斜めにスライドさせたバイクの後輪タイヤを接触させ、相手を転倒させた。
ガラガラ、ガッシャン!
校庭の桜の木に単車はぶつかり、轟音と共にパーツが飛んでいく。
「ああ、もったいない」
ヤマハの景光とスズキの相馬は、校庭にあったロープの両端を持ち、片手でバイクを操ると、走行して来るヤンキーバイクを挟み込む。運動していた他校の生徒は、単車から後方へ投げ出された。
「これで全部か?」
「警察が峠を登って来る。引くぞ!」
スマホをグループ通話にして、イヤホンをセットしていた景光が、三郎と相馬に指示を出した。守珠を乗せて、3台のバイクは校庭から脱出した。
放課後。担任に呼び出された三郎達は、やっぱり停学かなと腹を決める。全員がフルフェイスメットで、ブルゾンを羽織っていたが、よく見れば顔ぐらい判別出来る。
「まぁ、なんだ。バイク通学は禁止だが。知ってるな?」
女教師は、呼び出した4人を指導室に座らせる。
「ハイ、知ってます」
反省しているフリをして、4人は項垂れて見せた。
「シュシュの運動神経が良いのは、先生も知っているが、走るバイクに飛びかかるのは、少々無茶だ。以降、危ない事は慎め、いいな!」
「ハイ」
4人が口を揃えて答える。
「それと、あくまで先生の個人的な意見だが、4人とも良くやった。これであいつらも懲りただろう」
「ハイ、えっ?」
顔を上げた三郎達に、女教師は笑顔を向ける。
「よし、お説教はこれまでだ。行ってヨシ!他の先生には、お前らじゃなかったと伝える。他人のそら似ってやつだ。お前ら3人はあの時間に、騒音で気分の悪くなった、御屋敷守珠を担いで保健室に連れて行った。そうだな?」
「は、ハイ、そうです!」
「保健室で、担任の私がお前らからシュシュの容態を聞いた。そうだな?」
「ハイ、そうです!」
笑顔で4人は、お互いの顔を見回す。
アフガン帰りの戦闘少女、守珠。
学業では、学年首位クラスの景光。
財閥のお嬢で、表向きは優等生の咲良。
腕っぷしの強い、影の番長?相馬。
スポーツ万能な奈緒と、万年最下位の三郎とのデコボコチーム。
この後も6人は、学校や大間井市を巻き込んでの、一大騒動を起こす事になる。