3,スーパーガール
危険地帯から、平和な日本へ戻ってきた少女。
それでも物騒な事は起こるもので・・・
奈緒が出会いの記念にと、自分のスペアヘルメットを提供してくれた。咲良は着ていないライダージャケットを、景光はグローブ、相馬は使っていない防水リュック、三郎は予備で持っていた、ライダー用のレイングッズを、それぞれシュシュにプレゼントした。
戦場帰りの少女は、みんなに笑顔で礼を言う。
「みんな、ありがとう!嬉しい!」
「朝と帰りは、俺の後に乗って行きなよ。シュシュんとこ近いし」
三郎のガレージハウスと、シュシュの住んでる児童施設は、歩いて直ぐの距離だった。
「いいの?それじゃあ、お言葉に甘えて」
次の日から、タンデムシートにシュシュを乗せての通学は、三郎にとって楽しみの1つになった。
待ち合わせの交差点近くなると、シュシュが見えて来る。その横顔は、少し不安そうにうつむいていた。
(俺は、シュシュを置き去りになんかしない)
何年も、恐怖や孤独と闘って来た少女。俺が、いや俺達が守るからと、三郎は誓う。
こちらを向き、サブローのバイクを見つけると、満面の笑みで大きく手を振るシュシュ。
「おはようシュシュ!」
「サブローおはよう!」
三郎の登校用バックを、相馬から貰ったリュックに入れ、シュシュが背負う。
タンデムステップをセットして、バイクに彼女がまたがり「OK」の合図変わりに、横腹を2度軽く叩く。
ウィンカーを右に出し、後方確認のため後ろに振り返ると、三郎はアクセルを開いた。水冷直列4気筒のエンジンが、力強く静かにバイクを発進させる。
学校に着くと、三郎のスマホに携帯メールが届いた。
「学力テスト!?」
2年生になって1週間。なんとか進級出来た三郎には、頭が痛くなる話だ。
「ふ〜ん、テストか」
スマホも携帯も持っていないシュシュが、三郎の肩越しに余裕の表情で画面をのぞいている。
大間井高校は、偏差値が低い方ではない。帰国して数ヶ月で入試をクリアしてきたシュシュは、相当地頭が良いのだろう。
「オハよ。テストだって?」
「花見どころじゃないな」
「サブローハウスで合宿ね」
咲良、相馬、奈緒が登校してきた。
「1年の総復習でしょ?楽勝でしょ!」
景光がバイクブーツを、上履きに履き替えている。
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計画していた花見は、勉強会へと変更になった。
「えっと、Xを代用してだ」
放課後。早速、学力テストに備えて、三郎宅に集合した。
「総復習だと間に合わない。目標は各科目70点以上だな」
相馬はヤマを張るのが上手い。勉強時間は三郎と変わらないが、赤点を取った事はない。40点以下は赤点となり、追加補習と再テストが待っている。
一度、自分の部屋に戻っていたシュシュが、分厚いバインダーノートを取り出した。
「シュシュ、すごい!。何、この文量!?」
ビッシリと、手書きで書き込まれた学習ノートを見て、優等生の咲良が驚く。
「とりあえず教科書を丸暗記して、授業で先生に聞く、質問内容をまとめたの」
平然と言ってのけるシュシュ。
「教科書を丸暗記!?スゴイなんてもんじゃないぞ!」
毎回テストでは上位組の景光も、さすがに驚いている。
「そう?参考書買うにもお金かかるから、私は図書館とか本屋さんで立ち読みしてるけど」
皆が持ち合った、問題集や参考書の山を、シュシュが一瞥しながら言う。
「ちょっと貸して」
分厚い参考書を手に取ると、すごいスピードでページをめくって行く。
「何か、問題出してみて」
挑戦する様な目つきで、参考書を奈緒に手渡すシュシュ。
「えっと、じゃあこの問題は?」
試しに、奈緒が古文の問題を読み上げると、即座に答えを言う。
「265ページの5番目ね。答えはあけぼのね!」
「正解!」
こんなやり取りが数回続き、皆はシュシュの絶対記憶能力を認める。
「て、天才デスカ?」
「学年首位の座が!」
相馬も景光も青ざめている。
速読で参考書と問題集を、読み漁るシュシュ。景光や咲良が、答えられない大学入試問題まで解いて見せた。
「ヤバイ!俺も頑張んないと!」
焦る三郎は、問題集に喰らいつく。
学力テストが終わり、三郎の点数は平均点以下だったが、なんとか補習を免れる。
いつもの6人で話しをしていると、シュシュが言い出した
「三郎、なんかバイトないかな?」
施設から通学していたシュシュは、自分のお小遣いと、一緒に暮らす子供達のために、アルバイトを始めたいと思っていた。
(シュシュが困っているなら、少しくらいは助けられるかも)
三郎は、純粋にそう思った。
自分は、親から毎月生活費が貰える。
光熱費や携帯代は、親が払ってくれているので、かかる費用は食費とバイクのガス代くらいだ。普通に暮らすには、十分過ぎる程の額が、口座に振り込まれる。
だが、そんな申し出は、シュシュには失礼であろう。自分よりも年上で、過酷な人生を歩んで来た強い娘。
ここは自分の人脈を使って、条件の良いアルバイトを紹介するべきだと思った。
「わかった。今、思いつくのは、中国語と英語の社会人向け教室の教師補助と、スポーツインストラクターの助手かな」
どちらも、親のやっている不動産事業のテナントで、日本にいない両親に変わり、更新手続きなどを三郎が請け負っていた。
「いいね。私にピッタリ。紹介してくれる?」
「いいよ。どっちにする?」
「どっちも!」
「両方やる気?」
「そうよ。楽しそうじゃん!♪」
そうして、シュシュは、学校帰りと土曜日にアルバイトをする事になった。
「お疲れ様シュシュ」
「遅くなっちゃった。ごめんね三郎」
学校帰りにシュシュをバイト先に送り、夜の9時過ぎに迎えに行く。
シュシュがバイトをしている所の社員が言うには、正規のインストラクターや、塾の講師でも、十分やって行けると好評だった。
その日は大雨が降り、電車でのお迎えとなる。
この地域は、最近物騒になっていて、愚連隊や暴走族が街中を闊歩する様になっていた。念のためと、送り迎えを三郎が買って出たのだ。
2人並んで駅へと歩いていると、三人組のチンピラ風の男達と、見覚えのあるトサカ頭の男が、言い争いをしている。
目の良いシュシュが、クラスメイトを見つける。
「あれ、ソーマじゃない?」
「ほんとだ。絡まれてるみたいだな」
こちらは女子連れ。何かあったら困る。
警察を呼ぼうと、三郎がスマホを取り出しているうちに、ツカツカとシュシュが近づいて行く。
「ちょっと、あんた達!」
止める暇もなく、チンピラ衆と相馬の間に割って入るシュシュ。
「ナンだぁ?こいつの連れかよ!」
「可愛い顔してんじゃん」
シュシュの顔に触れようと、男の1人が手を伸ばした瞬間、目にも止まらぬ速さで、光る何かが相手の首元にあてられた。
「アタイの父は医者でね。よ〜く切れるメスとか。ガキの頃からオモチャ代わりにしてきたんだ。試してみるかい?」
ドスの効いた声で、冷たい視線を向けて、男を威嚇する戦闘女子。
「ま、待て。わかった」
「何が、わかったんだい?」
凍りついて、成り行きを見守る男達。
「た、助けてくれ。悪かった」
「いいだろう。アタイらに、またチョッカイ出したら、承知しないよ!」
光物をポケットにしまうシュシュ。チンピラ連中は、逃げる様に行ってしまった。
「おい!シュシュ。危ない真似しやがって!」
喧嘩慣れしている相馬も、少女の行動には唖然としていた。
「まぁ、丸く収まったじゃない」
平然としているシュシュは、ポケットから出した金属片を、三郎達に見せる。
「何これ?」
「メスなのは本当よ。刃は潰しているけど、お父さんから預かってるの、いつか再開したら返すわ」
いつか果たせる日が来ると、三郎は思った。
「やれやれ。とりあえず礼は言っておっておくよ。相手が引かなかったら、どうする気だったんだ?」
相手が3人では、空手有段者の相馬も確かに不利な状況ではあった。
「その時は、一目散に逃げ出すわ。私、足は速いので」
三郎と相馬は、お互いの顔を見て笑い出す。
「シュシュ、アタイって何?」
「今時、言わねぇよなぁ」
一気に緊張感が抜け、ゲラゲラと笑う2人に、赤面した少女が言う。
「2人とも笑いすぎ!」