誕
化け物の手が私に触れると同時に、玄関の扉が開く音が聞こえた
微かな金属音と共に化け物の動きが止まる
数秒後、首がストンと落ち、黒い血が噴水のように噴き出した
私は呼吸を忘れ、瞬きもせずに硬直していた
崩れ落ちた化け物の向こうには見たことの有る黒服の人物が立っていた
自分の中で「紅さん」と勝手に名付けた、怜の連れていた男だ
手には聖柄の日本刀を持っている
「遅れてごめんね、茜」
唐突に背後から声がした
なんとか振り返ると別れたときのままの格好で何も変わらない怜がいた
優しく抱き締められる
「ごめんね、あとで話すから、今は眠っていて」
私は訳のわからないままゆっくりと瞼を閉じ深い眠りに落ちた
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急がなくては
茜からはいつも少しだけ甘い臭いがしていた
花でもお菓子でもない臭いだ
それは鬼の臭いだった
今日みたいな満月の夜は鬼が出る
15体目の鬼を殺す、指示された分は終わった
「紅丸、来て」
後始末を皆に任せて、坊主の黒服を連れて茜の家に向かう
薄汚れたアパートに到着し、扉を開ける
良かった、茜じゃない
背後にいた紅丸が鬼の首を落とすと同時に、茜に近づく
「ごめんね、遅くなって」
ゆっくりと振り返る
訳が分からないといったかんじでこっちをみている
出来るだけ優しくハグをする
「ごめんね、後で話すから、今は眠っていて」
そう言ってから茜の意識を落とさせる
紅丸が鬼の死体を片付けている
「ごめんね、仕事増やして」
「問題ない」
無愛想に返しながらも正義感の強い彼のことなので、きっと苦には思ってないだろう
「運ぶか?」
「お願い」
ハグしたまま寝ている茜を任せる
紅丸は所謂るお姫様抱っこの形で茜を運ぶ
アパートを後にする
電話を掛け、車を寄越してもらう
あとはそのまま家に帰るだけだ