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「………なんなのよ…」

「…いくらやってもやっても……」

「…………手が、字を書きすぎて…もう感覚が…」




土曜日の談話室の一角。


丸テーブルを堅い椅子3つで囲い、各々が赤かったり青かったり白かったりする顔色で目前を見つめていた。


「…っあーーー!課題多すぎなのよ!!」

「ちょっ…!ヘザー、声大きい…!しーっ!!」

「す、すみません、すみません」



まばらにいた生徒たちにうるさいとばかりに怪訝な顔をされて、慌ててヘザーを窘めた。ドロテーアも私たち2人の代わりに慌てて周りに頭を下げている。

言いたい気持ちを代弁してくれたのは結構だが、声の大きさはもう少し抑えてほしい。抑えられないほど鬱憤があるのは分かるけれど。


授業が始まって1週間が経った。3人とも自分で作成した時間割を見ながら、講義へ赴いたが課題の多さにくらくらしてしまう。

基礎教育と違い、専門的な内容になったのはもちろんだがこの課題に対する持論を2か月後までに原稿用紙30枚ほどにまとめろ、とかいうのが結構ある。

前世じゃ高卒だったからこういう課題には全く慣れておらず2人と一緒に頭をかかえている。

幸いにも私を含めて3人とも、課題は絶対納期前に終わらせる主義なのでひとまず放置…なんてことはしない。

…しない結果、こうして土曜日に頭を抱えているんだけど。


「講義、入れすぎちゃいましたかね…」

「最低限だけ受ければよかったかも…」

「そ、そんなこと言わないでよ。2人とも、学生時代にしかできない勉強を思いっきりしたい!って言って講義入れたんじゃない。これも今しかできないんだから、ね?」


若干後悔しかかっている2人を励ましてみたが、私もやり切れる自信はあまりない。

論文とか、書いたことないし…今まで若干楽してきた分なんか辛いな…。


「…ソファ座りたい」

「ヘザー…。絶対にだらけるから椅子に座るって言ったでしょ」

「確かにそうだけど」

「…あの、もう11時も過ぎましたし…一旦休憩も兼ねてお昼にしませんか?」

「ナイスアイデア賛成行くわよ!」

「早い早い、ヘザー、早いって」


休憩となったとたん明るくなるんだから、ヘザーはすごい。置いて行かれないよう、ドロテーアとわたわたと資料をまとめて歩き出した。


「どうする?街に行く?」

「もう少し論文進めたいし、すぐ帰れる食堂がいいわ」

「そういえば今日の日替わりランチはプルメリア産のAランクステーキらしいですよ」

「決まりね!食堂に早いとこ行きましょ」


2人とも侍女は付いているが、私が侍女を連れていないのを知ると自分も自立したい欲求が出てきたらしく、週に3日は侍女にお休みをあげるようにしたらしい。

今後はさらに休みの日を増やしていくようだ。


「あ…シラス雲ね。火曜日あたりは雨かしら」

「え、天気が分かるんですか?」

「少しだけね。お母様に教わったの」

「メリーのお母様って謎よね」


うん、謎。れっきとしたお貴族のお嬢様なのになんで知っているんだか。深く突っ込んだこともないから余計に分からない。






「美味しそうですね」

「ええ…文字を見すぎていたせいか、食べ物見てるだけでもなんだか癒される…」

「食べたらもっと癒されるわ。さ、食べましょ」


12時前ともあってか、食堂はいつもの休日の昼時よりまばらだ。2人はステーキを頼んでいたが私は魚メインのランチにした。

どうにも、レアの肉が苦手だ。焼くなら焼くできっちり全部焼いとけや、と思ってしまう。ステーキより白身魚と旬野菜のオリーブオイルソテーが私には美味しく見える。


「ユーメリー様ってお魚好きなんですか?」

「というより、メリーはあんまりお肉食べないわね」

「うーん。そうね…ほら、うちの領って農作物メインだし。単純に野菜の方が好きっていうのもあるんだけど」

「体にいいし、いいことですね」

「だから肌がきれいなの?」

「えっ肌?」

「確かに…できものもないですよね」

「どうしてそんなにすべすべなの…」

「できものは…思春期だもの、いずれ治るわよ。それに、ストレスで頭皮にできものが出来る体質みたいで…」

「見えないとこで羨ましいですよ…私なんて、お菓子食べるとすぐあごに出来ちゃって」

「私もおでこに…」

「そういえば。お母様ができものには馬油が良いって言ってたかも…試してみる?」

「試す試す!」


キャッキャッと女の子同士で盛り上がっていたところ、視界の端に見覚えのある姿が目に入った。

ふわふわの薄紫色の髪をゆるく巻き、異性にはとても魅力的に見えるだろう笑顔を振りまいている彼女。


「ユーメリー様?」

「…あ、なんでもないわ」

「あれ、リーズ・カトレアね」


自然、彼女を見つめてしまったらしく二人に見ていることがバレてしまった。


「一緒にいるのはラルフ様ですね」


彼女の向かい側の席、短髪オレンジ頭の彼はラルフ・イキシア。公爵家の騎士だ。

確か彼との出会いは…初めての授業を受ける際に迷子なのを助けてもらうところ…だったかな。頭は固いけど正義感が強くて曲がったことは大嫌い。ヒロインを守る騎士として色んな場面に出てくる。

もちろんユーメリーを断罪する際にも。


「メリー、あの子気になるの?」

「ううん?ちょっと目に入っただけよ」

「あまりいい印象は受けませんね」

「…そうなの?」


まだ彼女が"開花"してから数週間しか経ってないのに既に敵を作っているというのか。これがヒロイン力ってやつ?

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