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そのままジルと屋敷まで戻るとアリーサが走ってくるのが見えた。


「お嬢様!今朝方ぶりです。ようやく今日の指導が終わったので参ったのですが………その方は?」

「今日からメリー様の家庭教師となりました、ジルトレです」

「さっきジルと池まで行ってきたのよ」

「そう…でしたか。しかしお手を繋がれているのはどういった了見で?」


メラァ…ってなんかアリーサの背後に何かが見えるんだけど。まさかジェラってるの?そうなの?ジェラシーなの?


「メリー様は活発でいらっしゃいますからね、エスコート慣れしていただくためにもこうしているんですよ」

おいジルお前ドヤ顔やめろ。逆効果でしょうにそれ。

「しかもメリー様などと…お家はどちらで?」

「準男爵のリアトリス家ですが…よもや旦那様も気にされていないお家柄を、いち使用人のあなたが気にするというのですか」

「…いいえ!そんなことはありません!しかし公爵家の第一子たるお嬢様のお手に気安く男性のあなたが触られるのはどうかと言っているのです」

「旦那様は全面的に私の行動を認めると言っていただけていますからあなたに言われても…ねえ」


なぜ油を注ぐのか。ていうか楽しんでるよねこいつ。性格悪いなー。

アリーサが怒りすぎて自分の行動御せなくなってきてるしやばいって。なんで初日にお嬢様の侍女に喧嘩売ってんだよこいつ、本当に頭いいのか?むしろ悪くない?


「はい!じゃあアリーサも手をつなぎましょう!」

「え、」


有無を言わさず空いている左手でアリーサの手を握る。愛されすぎも問題ってことなのね。


「じゃあこのまま私の部屋まで行きましょう」

「お嬢様……!」


さっきの怒りはどこへやら、アリーサの顔は感動気味に表情がほころんでいる。


「ジル、あまりアリーサをいじめないで」

「……それは承知しかねますね」

「お嬢様、旦那様に家庭教師を替えていただくように進言しましょう。この男は悪影響を及ぼしかねません」

「心外ですね、セントポーリア家に仕える者としてそのようなことはしませんよ。メリー様も旦那様に劣らず素晴らしい方のようですし」

「そんなことは分かりきっていますから言わずともいいんです。お嬢様は将来きっと素晴らしい方になられますたとえあなたがいなくても」

「おや…旦那様が人選を誤ったと言うのですか。主人の判断をはっきりと間違っていると。あなたはそれでも使用人ですか、失礼にもほどがあると思うのですが」

「あの」

「失礼なのはあなたです。本来ならば私たちのような者がセントポーリア家のお嬢様と一緒に居られること自体あり得ないのですよ。それなのに気安く触るばかりか、ユーメリー様を…メリー様だなんて呼ばれて…謙虚という言葉はご存じ?」

「これでも学園の高等教育以上の勉学はしていますのでね。ああ、つまりあれですか。自分ですらメリー様と呼んだこともないのにぽっと出の男に呼ばれて悔しいのですね?呼びたかったら呼べばいいじゃないですか。メリー様はすぐに快諾していただけましたよ。あ、でも私だから快諾していただけただけ、かもしれませんが?」

「ちょっと」

「ユーメリー様はお優しい方です!もちろん私にだって許可を出していただけます!けれど使用人としての立場を弁えているのです。今までそういった呼び方をしているのは旦那様と奥様以外にはいらっしゃいません。そんなことも考えずにあなたは不躾に許可を取ったのですね。はあ、家庭教師が聞いて呆れます」

「ならば私も言わせてもらいますが………」



ダメだこいつら声が届かない。まわりの使用人たちからだいぶ生暖かい目で見られているけどそれすら気づいてないし、ていうか主人を無視して言い争いってお前らどっちも使用人失格だぞ。

もう一周回って仲が良いんじゃないかとすら思う。はー屋敷の廊下って長いなー。自分部屋が遠く感じるー。






「あ…」

「着きましたね…」

「そうよ。着いたわよ。一旦休戦したらどうかしら」


部屋の扉の前でようやく我に返った二人はそれでもまだお互いに言い足りない、といった様子でむくれている気がする。


「…そうですね。今日はこのくらいにしておきましょう」

「お茶を持ってきます…」


やっと終わったか。どんだけ言い争いに夢中になっていたんだか。アリーサがお茶を取りに部屋からまた出て行った。


「ところで勉強って、まず何からするの?」

「悩みどころではあるのですが…まず貴族録の暗記からいたしましょう」

「貴族録?」

「爵位持ちの家々の記録簿です。メリー様ももう7歳、来年は社交界デビューもあるでしょう?そのためには貴族との挨拶も欠かせませんし覚えていただかなくてはならないのです」


ふーん、確かに。


「それと一緒に各家家の花はもちろん、花言葉も覚えていただきます。失礼のないようにしないといけませんから」


なんだそれめんどくさいな。


「じゃあ私も、お父様みたいに朝食後は勉強をずっとすることになるのかしら?」

「ある程度の休憩は挟んでいきますが、基本的には朝食後から午後3時まではお勉強になります」


結構長いな。逃げたくなるわ。


「そう…今までみたいに遊べるわけではなくなるのね」

「ええ。しかし私はメリー様と一緒に居る時間が長いので光栄です。あの侍女にばかり独り占めはもう出来なくなりますしね?」


いたずらっ子のようににやりとジルが口角をあげるのが見えた。意外と君もあれだね、私大好きなようだね。


「そんなことはさせませんわ」


廊下で聞いていたらしいアリーサが割って入ってきた。お茶セットを持って、慣れた手つきで紅茶の用意をしてる。

今日は何かしらね、ミントティーは苦手だからそれ以外で頼む。


「あなたはメリー様の侍女としての侍女教育があるでしょう?その間は私がメリー様とご一緒しますから、安 心 し てあなたはあなたの勉強をなさってください」

「ぐ…!私にも休憩はありますから!休憩のたびにお嬢様に会いに行きます。あなたと二人きりにさせるのはなんだか不安な気がしますもの」


言い合いながらも滑らかな動作で目の前に紅茶カップが置かれた。おっとこれはレモンティーですね!当たりの日ですわ。


「何を言いますか。これから立派な公爵家の女性にするべく、私が手取り足取り毎日教えていくだけだというのに」

「まあ!まさかまたお嬢様に触れようとしているのではありませんか?なんと危険な人でしょうね。やはり別の方に替えていただかなくては」

「なぜ今の言い方でメリー様に触れると思ったのですか。一体何を想像したのですかあなたは。侍女がこのようなふしだらなことを考えてしまう方が私はどうかと思いますね、侍女こそどなたかと交代してもらっては?」

「な、なにを…私はただお嬢様の身を案じているだけです!どちらの方がふしだらかなんて分かりきっています。純粋なお嬢様にあなたのような人間が近づいていいはずはありませんから」

「私も純粋ですが」

「反吐が出るほどに嘘しか言わないのですねあなたは」


ふう。優雅だ。

優雅に使用人二人の言い争いをBGMに、窓から差す太陽をぼんやり眺める。


今日も実に平和だ。



次回更新は4日の12時です

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