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つつがなく平和な日々を送っていたが、数人の男が絵画のようなものを家に入れているのを見た。

ずいぶんでかい額縁だなー。1mほどはありそうだけど布がかかっており何が描いてあるのかは分からない。


そういえば最近両親が2人で考え込んでいたなぁ。

顔見せとか、まだ早いとか、せめて顔だけ、とかなんとか言っていた。



その男たちはとある一部屋にそれを運び、また出て行った。

休息日でもないのに珍しくゆっくりしている父に聞きに行こうとして、名前を呼ばれた。


「メリー、こっちに来てくれ」

「はい」



父の後ろをついていくと気になっていた部屋に招かれる。


部屋の壁には所狭しと風景画や人物画が飾られており、飾れないものは立てかけてある。

気になっていたものはどうやら既に壁に掛けられてはいるものの、まだ布がかかったままだ。


「メリー…今まで言っていなかったが、君には婚約者がいるんだ」


きたーーーーーーー!はいきたーーーーーーー!!


「こん…やくしゃ?」

「将来、メリーの旦那様になる人だよ。今日はその方の絵を持ってきてもらったんだ」


父が布に手をかけると、するりと綺麗にはらけて絵が露わになる。


美しい青空と、白い花に囲まれて真ん中にいるのは………うん。第4王子ですね。


「この方はアデラール・ゼフィランサス王子。この国の第4王子だ」


金髪がきらっきらしてんね。心なしか目もきらっきらしてる気がする。絵の具にラメでも混ぜてるんじゃ?


「金色の髪が…素敵ですわ」

「そうだね。本来なら君にも、僕とサラのようにお互いに想い合える相手を見つけてから婚約して欲しかったんだけど…クンシラン公は我が家をいたく気に入っていただけているから…、あぁ、すまない。大人の事情は関係ないね」


クンシラン公爵家は我が家をお気に入りなのね。第1王子はおそらく他国の姫でも取るだろうし、第2、3王子の相手に私をしたかったものの、結束を高めるためにより上の公爵家の娘をあてがいたいという思惑もありボツになったのかな?


そして余った…って言うのはちょっとあれかもしれないけど、残っていた第4王子と婚約させた、と。しかも同い年だし、ちょうどいいやって感じですかね。


「メリーももうすぐ7歳だ。8歳になれば王子とお会いする機会が設けられるから、そろそろ家庭教師も付けないといけないね。

メリー、不甲斐ない父を許してくれ。ただ、あの王の子ならメリーも王子のもと、きっと幸せに暮らしていけるよ。

我が家はいつでも君の味方だ」


腰を下ろして真正面から抱きしめられる。まあその王子様もおよそ10年後には、私以外の女を気にいることになるんですが。







それから3か月経ち、9月。私は誕生日を迎え、晴れて7歳となった。

家族のお祝いパーティーも済み、2日ほど過ぎた頃。私の家庭教師が新たに我が家へ加わった。


ところで、貴族の誕生日といえばさぞかし豪華絢爛なプレゼントが……と思ったけど全く違った。

自分が生まれたことを神に感謝し祈り、次に両親へ感謝の言葉、使用人たちへお菓子を配る日だった。

幸せのお裾分けってことらしい。あ、でも食事は豪華だったね。見たことない果物とか出てきたし。



「ユーメリー。この人が家庭教師のジルトレ・リアトリスだ」

「ユーメリー・セントポーリアですわ」

「ジルトレ・リアトリスと申します。ジル、とお呼びください、お嬢様」


長めの黒髪の向こうに意志の強そうな目が見える。年は20歳の手前ほどだろうか。

長身な彼が頭を下げても私の顔より下になることはなかった。

しっかし、美形だなあ。


「彼はうちの親戚筋でね。血縁は近くはないけど、全く無関係の人間でもない。ゆくゆくはメリーの執事もやってもらおうかと思っているから、きちんと教えを守るんだよ」

「はい、お父様」


美形なのはうちの血も入ってるからってことなんだろうか。


「では私は街に出てくるから。ジルトレ、後は頼んだよ」

「お任せください、旦那様」



ドアが閉まり、部屋には私とジルトレだけだ。アリーサは私が7歳になるのと同時に、これからの社交界や嫁ぎ先なんかも考慮してドレスの着付けからメイクの方法、王宮に入っても恥ずかしくないようにと外部からの講師に指導をされており前ほど付きっ切りではなくなった。

ごめんねアリーサ、王宮には行かないのに無駄な苦労をさせてしまって…。


「お嬢様。旦那様からはすぐにでも勉強を始めていいと言われておりますが、お嬢様もまだ知らぬ人間とは気が休まらないでしょう。本日は共に相手を知る、という勉強はいかがでしょうか」


ほほう。なかなか良いではないか。


「ええ、それでいいわ、ジルトレ」

「ジル、でよろしいですよ。差しでがましいかもしれませんが、私もメリー様とお呼びしても?」

「許すわ、ジル」

「ありがとうございます」


口は笑みを浮かべているが、なーんとなーく薄っぺらい気がするんだよねえ。

実は子供嫌いとかなのかしらねえ。


「じゃあジルに私のお気に入りの場所を案内するわ。こっちに来て!」

「え、お嬢様?」


ジルの手を取り、早足で部屋を出る。くっくっく、このすまし顔にあれを見せたら一体どんな反応になることやら。



「まだ進むんですか?」

「もう少し先に池があるから、そこまでよ」


家の裏を歩き出して数分。200mほど離れた場所に小さな池が見えてきた。


「到着よ!ちょっとそこで待ってて!」

「はい」


えーっと、確かこの木のカブのあたりに……、あったあった。

私は"それ"を両手で持ち、後ろ手に隠しながらジルへと近寄った。


「ふっふっふ…」

「どうされました?」

「あ、ちょっと屈んでちょうだい。そう、そこそこ。てえい!」


ばっ!と目の前に差し出したのは、両手いっぱいのい も む し 。

さあ!ビビるがいい!そのすまし顔から恐怖の声を出すがいい!



「………」

「………」

「………」

「………」






あれ?




「お嬢様…。仮にも公爵家の第一子である女性が笑みを浮かべて両手に虫を乗せるとは、どういった了見です?」


これがアニメならきっと、ピキィって音と一緒にこめかみに青筋が入ってる。やべえ。超怒ってない?


「あれ…驚かないのね…」

「ええ、私の家はしがない兼業農家の準男爵家ですからね、この程度の虫は平気なんですよ。それよりも…分かりますよね。どんな神経してたら10個上の男をビビらせようとするんですか正気ですか。一度頭の方をお医者様に見てもらった方がいいくらいの神経をしていますね。それとも今から連れて行って開頭手術でもやってもらった方がいいんじゃないですか?もういっそ50年前に禁止されたロボトミー手術でもしてみますか?多少はその神経も直るってもんですよね?血液全部交換とかしてみますか?ていうかあれですか?毎日毎日豪華なご飯ばかり食べてるんで脳みそまで豪華な花でも咲き乱れているんですかあなたの頭は。ぜひ見てみたいものですね、やっぱりお医者様のところへ行きますかその脳みそかっぴらいてどうなってるか見に行きますかそうしますかさあ行きましょう」

「ああああああやめてえええええええ」


やばいやばいやばいこいつ怒らせたらやばい人だった失敗した。ていうか7歳の少女に大人げなくない!?

まあ10歳上ってことは17歳だしそれならまだ子供って感じだから仕方ないか…いや仕方なくない。私の脳みその危機が迫っている。

顔は相変わらず涼し気のまま笑っているけど目が笑ってないよ目が。そのうえ声はドスの利いた低い声出してるもんだから恐怖が倍増だよ。ごめんなさい許してください。まずは強く握られすぎた右手が痛いので話してくださいもうしませんから。    一週間くらいは。




「ジル!ジル!手が痛い!」

「ああすみません。思わず我を忘れました」


割とすんなり聞いてくれたようだが手は握られたままだ。傍から見るとほほえましいでしょう?


これ連行されてるだけですから。


「……ごめんなさい」

「!…ご自分から謝れるのですね」

「そりゃあ、私が悪かったと思うもの」

「メリー様もやはりセントポーリア家の人間ですね。伯爵以上の爵位を持っている家の人間はたとえ悪いと思っても、下の階級の者には謝らないものですよ」

「お父様はいつもコーヒーをこぼしてはメイドさんに謝っているわ」

「旦那様はその……幸せな方ですから」


ドジすぎる、って言葉を濁すとそうなるのか。


「ジルって17歳なの?」

「ええ、そうですよ」

「リアトリスの花が名前なのよね。見たことないのだけど、どんな花?」

「そうですね…つくしの茶色の部分に色をつけてそのまま大きくした感じの花です。大体冬以外は咲いてますし、家の近くなら道端でも咲いている花ですよ」

「あら、じゃあうちの花と同じね」

「まさか。セントポーリア家の花とうちの雑草のような花は一緒ではありませんよ」

「尚更一緒よ。お父様が言ってたもの。雑草ほど強い花はない、我が家もそのくらい強くなりたいって」

「………」

「花言葉はなに?」

「向上心、ですね」

「頭がよさそうだものね」

「私の家はしがない準男爵家ですが、勉学が好きな私のために父が旦那様に掛け合って教師をつけてくれました。成績もいいからと、お嬢様の家庭教師にも選んでいただいて。他の領地ではたとえ優秀であろうとこうはいきません。本当に旦那様には頭が上がらないんですよ。ただのありふれた準男爵家の言葉を聞いてくれる方なんて、なかなかいませんから」

「やっぱりお父様って最高ね」

「そうですね」


パパまじ聖人。



「ねえジル」

「はい」

「ここの人たちはとっても優しいよね」

「そうですね」

「あんなに私に強く言ってきた人はジルだけよ」

「私は仮にも家庭教師ですからね。間違っていれば正しますよ」

「うん。でもジルなら怒ってくれそうだからやったの。ほかの人にはあんないたずらやったことないわ」

「……」

「ジルみたいなお兄様が欲しかったかも」

「…もったいないお言葉です」


少し上を見ると太陽に照らされその横顔の表情は読み取れないが、耳が少し赤くなっている気がした。




…可愛い。



次回は4日の10時更新

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