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「お嬢様、この後はどうされますか?」

「お父様とお母様は何をしているの?」

「旦那様は狩りに出かけられ、奥様は裁縫をしています」

「うーん…我が家の花を見に行くわ」

「いいですね」


貴族の仕事は意外と大変そうだった。漠然と優雅にワインを傾けているイメージだったが、日が昇って少し経つと同時に目覚めて祈り、簡素な朝食。その後すぐに執事と執務室に篭って何やらお話中。午後は片手で食べられるサンドイッチを昼食にしながら書類だったり住民の御用聞きだったり狩りに出かける。狩りとはいっても、領地の見回りがてらだ。お母様も午前中は執務室に入って手伝っていたりもするし、外交用ドレスの刺繍なんかを午後にやる。

夜にやっと仕事が終わる感じで豪華な食事を食べ、読書などをしてベッドに入る。


毎日忙しいようだけど、これはうちが公爵家だからなのだろうか。


この国、ゼフィランサスには7つの公爵家が存在する。

王家のゼフィランサス。

宰相のクンシラン。

騎士のイキシア。

学者のアルストロメリア。

商人のプルメリア。

断罪人のアゲラタム。

そして、末席に位置するのが我が家の、民のセントポーリア。


この7つの公爵家をひとまとめに「古の華の貴族」と呼ぶ。それは王国誕生の神話に由来したものだ。


その昔、広い大地を眺めていた太陽神は、ここに国を作り我が子に統治させようと思いつく。

大地に7つの花の種を植えると、すぐに育ち花ひらき、花びらから人が生まれた。

まずセントポーリアの花びらが「民」を作り、

民の統制が取れるようアゲラタムが「断罪人」を作り、

物を豊かに発展させるためにプルメリアが「商人」を作り、

暮らしを発展させるためにアルストロメリアが「学者」を作り、

敵から身を守るためにイキシアが「騎士」を作り、

皆がより良い判断をつけられるようクンシランが「宰相」を作り、

ゼフィランサスが全てをまとめあげる「王」を作った。


それぞれの貴族が、花言葉を色濃くうつした性格を持っている。ヒロインは7つの公爵家の男性と恋愛をするというわけだ。

あ、うちは今のところ私しか子供がいないけど再来年になったら義弟が出来る予定だから。


神話は3,000年前とされているけど今の技術が中世ヨーロッパより少し進んだあたりで止まっているのは国の歴史に関係があるんじゃないかと思ってる。


極端に少ないんだよね、戦争が。最後の戦争は600年前でそれも不可抗力だったらしいし、今じゃ世界協定も結ばれていておそらく戦争は500年先無いんじゃないだろうか。

良くも悪くも飛躍的に技術を発展させる戦争が起きないから、ものすごくゆったりとしか文明が栄えていないのだろうと勝手に解釈した。

医学だけはすごく進んでいるように見えるけど。


まあ国単位の戦争はほぼない、ってだけで国内での革命なんかはちょこちょこ起きてたみたいだけど。

ザッと見た歴史書ではこのくらいしか分からなかった。


アリーサにもこの世界のことを色々聞いていたが、勉強熱心に思われてまた感動された。



やばいくらい良い人しかいなさそうだなー、この世界。

ていうかあれなのかな、元いた「世界」がやばい人ばっかしかいなかった………、みたいな?

両親からこんなに愛されるのも初めてだし、平和そうだし、なんかもうあれだね、何も考えずに楽しく生きてりゃいいんじゃねーのかな?


ああ、ただ、ヒロインと攻略キャラに関わると面倒なことになりそうだから…よし!徹底的に避けておこう!


そうすれば断罪イベントも回避余裕なはず。おそらく。きっと。多分。



さーてさて!そうと決まれば第二の人生、謳歌しようじゃないですか!



ユーメリー・セントポーリア6歳(前世享年24歳)、ここに人生をトコトン楽しむことを決意します!








庭に出ると、門までの道の両脇に数え切れないほどのセントポーリアが咲き乱れている。

多種多様な色を待つその花は、他の古の華が人の手が入らないと中々育てられないのに対しどの季節・地域でも強く咲き乱れる。

10月の収穫祭には神への捧げものとして7つの公爵家の各領地で、公爵家の花を神へ手向ける。

公爵家の花は公爵家のみが栽培しているので、庶民はその花を購入して捧げるが、領主にとってそのお金は大事な収入源になる。

税金みたいなものだ。我が家も花はもちろん育てているが、丈夫なセントポーリアの花は道端にも咲いているので庶民は教会へ行く道中で手に入れている。

庶民は花代を節約して暮らしを豊かにし、余裕があれば教会へ寄付してね、って感じだ。そのお陰で教会への寄付は庶民からも集まりやすく施設投資なんかに役立てているみたい。

災害時なんかはみんな教会に集まるから敷地は広い方がいいし、病人を置くベッドも多ければ多い方がいい。


爵位持ちの家はうちへのご機嫌とりも含めてわざわざ購入してくれるようだが。

うちの家系は「小さな愛」という花言葉と、「民のセントポーリア」という別名のとおり領地に住まう者をとても大切にしているようだ。

他の領地では花代以外にもパンの焼き窯を領主の敷地内にしか作らず、庶民が使用するたびにお金を取っているらしい。ここら辺は元の世界の中世ヨーロッパと同じ感じだ。

対して我が家はそういった規制は特にない。焼き窯のない家は教会の窯を借りて焼いている。もちろん無料で。

要するに、セントポーリア家は物凄い庶民へのお人好し。他の領地に比べて公爵家に対する庶民からの人望も物凄く厚い。

まあ、その代わりに爵位持ちの家々からは若干下に見られている。公爵家の末席に位置していることと庶民からの税金も多くはないために(他と比べれば)質素な生活を余儀なくされていること、道端でも強く花が咲くことから「雑草のセントポーリア」という蔑称で言われることも。


これは一昨日来た商人が曲がり角にいる私に気付かずにした独り言を聞いて知った。


商人が帰った後にすぐお父様へ告げ口したが、「雑草ほど強い植物はないんだよ。我が家もぜひそうなりたいものだね」とニコニコしながら返された。

つまりはお咎め無し。絶対舐められてるよ、お父様…。だけれど嫌いにはならないし、この家の一員になれてよかったと思う。


超が着くほどのお人好しでいつも笑顔に溢れた家庭。その顔は家族のみならず、奉公に来ている使用人達にも及ぶ。

地位の差はあれど人間の差はあらず。その言葉を体現しているこの家が、この人たちが、この家系が既に私には誇りにすらなっていた。





「いつ見ても綺麗ね」

「ええ。見事です。お嬢様は深緑の髪をお持ちですから、セントポーリアの花を髪へ留めれば本当に咲いているように見えますね」

「ありがとう。アリーサにはきっとこっちの白が似合うわ!」

「わ、私は大丈夫です」

「あ、そうね。セントポーリアじゃなくてペチュニアの方がいいわよね」

「いえ!そんなことはないですが、恐れ多いです」


白、紫、赤、ピンク…様々な色合いの花を咲かせたそれは、本当にいつ見ても綺麗だ。


「お父様、今日は狩に成功するかしら」

「き、きっとされますよ」

「そう?私は今日も収穫がないように思うわ」

「信じて差し上げてください…」


週に3度ほどは狩りに出かけているが、収穫は今のところ見ていない。

前に大きなコオロギがリビングにいた時、驚きで体を大きく仰け反らせた父が椅子に腰を打ちつけると同時に母が素早く紙ナプキンで潰していた。


お母様の方が運動神経良さそう。

そして再度考えてみたが今日も収穫はないだろう。





案の定、なんの獲物も持たぬままニコニコと帰ってきた父と、収穫が無い前提で用意された食事を共に食べた。



次回は4時間後の16時更新

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