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亀更新。完結させたい。

夢を見た。


いや…夢、というにはあまりにも生々しく、それに呼応する感情はいつまでも荒ぶり続けていて"妄想ではない何か"だというのを証明しているような気がした。

1人の人間の人生を極限まで圧縮して脳みそで解凍したような。1つ1つの映像が頭に流れる度、処理が追い付かず軋むように頭が痛くなった。

痛みを緩和しようと、血管が限界まで膨らみながら脳みそへ血液を運んでいるのが分かった。


詰め込まれた情報は膨大ながらも、懐かしさを感じえて痛みもそのままに身を任せた。




しかし、ズキン!という頭の鋭い痛みで思わず顔をしかめ、うっすらと目を開けると明るい部屋が見えてきた。


あれ…カーテン開けっ放しだったか…。




「お嬢様!!ああ…ユーメリーお嬢様!お目を覚まされたのですね!すぐに旦那様がたとお医者様を呼んで参ります。今一度ご辛抱くださいませ」


私の脇に立っていた優しげな女性は、目が合った瞬間に早口でまくし立てて走っていってしまった。




「知らない天井だ……」


まさかこんなところで人生で1度は言ってみたかったセリフを言えるとは。ってそんなこと考えてる場合じゃない。

頭が痛い上にボーッとして思考がまとまらない。ベッドの上にいるみたいだけど、ここはどこだろう?

上の天井は遠く、まるで小人になった気分だ。

ああ、多分熱があるのかも。そう思い、自分の手でおでこを触ろうとして気付いた。




……手、小さすぎない?




「ユーメリー!!起きたのかい?具合はどうだい?」

「ずっとそばに居てあげられなくてごめんね。今、お母様が来たから。もう大丈夫よ」


ひどく心配そうな顔をした男女2人が扉から入ってきた。心配さ故か青い顔はしているものの、2人ともまるで絵画から出てきたような美人だ。

そんな人が今、なんて言った?

"お母様"?



「あなた…お医者様は?」

「離れにいるのをアリーサが呼びに行ったよ。直に来るはずだ」

「よかったわ…。どうしたの?もしかして…声が出ないの?」


じっと見つめていた私を不審に思ったらしい"お母様"が尋ねる。


「…いいえ…あたまが、痛くて…」


「ああ、そうよね。ゆっくり寝ていていいのよ」

「今、お医者様が来るからね」


男性の大きな手で撫でられる。


全く知らない人のはずだけれど、なぜだか安心してそのまま眠りに落ちた。












1週間経ち、分かったことがある。

私はどうやら、ユーメリー・セントポーリアという名の6歳の女の子だ。

ある時謎の高熱に見舞われ、3日間ベッドの上にいたらしい。

医者も原因不明でお手上げな状況だったようだ。

そんな中、奇跡の生還&記憶が蘇った私には既視感があった。ここは、最近ハマっていたマイナー乙女ゲーム「ゼフィランサスの愛を」の中ではなかろうか。


マイナーながらもしっかりとした王道で、ヨーロッパの世界観をイメージした貴族階級の男性とあれやこれやの学園恋愛を楽しむものだ。

特徴的なのは、登場人物の姓が全て花の名前であること。


それぞれの持つ名字の花言葉がその人物の人格に関連していて無駄に花言葉に詳しくなった。

プロポーズも自分の姓の花を贈ったりとなかなか面白く、気に入って思わず全員攻略し尽くした。

まあ、元々このゲームをやろうと思ったのは男性キャラよりも女性キャラが好みだったからだけど。

ゲームの絵師さんの絵柄がとにかくドツボで、主人公はもちろんのこと、友達や敵キャラなんかも可愛くて可愛くて…、なんとか攻略できないものかと思ったほど。

噂によれば女性キャラを攻略できるギャルゲー開発があるとかないとか…。


とか検索し尽くしているうちに午前2時を過ぎて慌てて布団に入り、眠たい目をこすりながら古びたアパートの急な階段を降りようとして………、


足を滑らせたのだ。


浮遊感の中思ったのは、「ああ、もう少し幸せな人生を歩みたかった」



我ながらなんとも情けない死に方…。

けれど神様は見ていたらしい。こうやって"強くてニューゲーム"をさせてくれたのだから。

強い、とは語弊があるかもしれないけれど。前世の私はしがない営業ウーマンだったし、身につけたスキルも多少人の顔色が分かりやすい程度。まあ記憶を引き継いだ時点で強いってことにしよう。


疑問に思うのは、なぜ乙女ゲームの世界へ?

これ、まさか生前最後にやっていたゲームの世界にたまたま飛ばされたってことなの?

バイオハザードとかやってなくてよかったわ。本当によかった。万歳、前世の私。クリスに生まれ変わったとしても開始5秒で死ぬ自信がある。


そこまで考えて問題点がある。私、ヒロインのいじめっ子だ。


ユーメリー・セントポーリア。花言葉は、「小さな愛」。

姿見の前に立ち、己を見つめる。深緑の髪の毛は風になびいて形を変えているが、直線を描くストレートの髪はとても美しい。目の色は深い黒で、肌の白さを強調させている。すっと通った鼻筋と切れ長の目のせいか、子供らしい可愛さはあまりないものの、将来有望なことを示唆しているようだ。


このゼフィランサス国では8歳から社交界デビューし、10歳で王都の学園へ。

5年間の基礎教育を終えたのち、2年間専門分野の学習をする。日本でいう、高校と大学が一体になったような感じだ。


基礎教育後の高等教育になるとある程度の時間の自由がきくためゲームのスタートもここから。

準男爵のヒロインは晴れて基礎教育を卒業し、進級祝いのパーティで攻略キャラに会う。

パーティで出会うキャラは最初から攻略できるが、高等教育中に出会うキャラは2週目にならないと攻略対象にならない。


そして私はヒロインの隣のクラスになる。第4王子の許嫁で、王位継承権4位の王子はある程度の恋愛が許されているため、王子がヒロインに惹かれていくのを目の当たりにしていじめっ子になってしまう。


まあ…いじめるといってもドレスにワインを少しかけたり、悪口を書いた紙をそっと机に忍ばせたり、ヒロインが王子に話しかける前に王子を連れ立って歩き出したりと大変可愛らしいものなんだけど。

それでも温室育ちのお嬢様にはキツイらしく、王子ルートの場合は断罪されて婚約破棄される。


他のキャラルートへ進んでも王子の心はヒロインにあり、ヒロインを想う王子の姿を見るたびにユーメリーは涙を浮かべる。

人前で泣くまいとしながらも強気な目には涙が溜まっていって………、…………何度抱きしめたいと思ったことか!!!



「お嬢様?どうしました?」

「あ…なんでもないわ」



姿見の前で固まっている私を気にかけてか、侍女のアリーサに声をかけられた。

セントポーリア家の分家の娘であるアリーサ・ペチュニアは、花言葉のとおり心安らぐ人だ。

12歳ほど年上なのも関係あるかもしれない。


「あら、御髪が乱れていますね。櫛を通しましょう」

「ほんと?お願いするわ」


お嬢様言葉はまだ慣れないが、不信を抱かれて病院に幽閉されても困るので我慢する。

元々汚すぎる口調なのでボロが出ないように必死である。


「今朝の食事は残されていましたね。体調はまだ優れませんか?」

「んーー…芋、飽きたんだもの」

「飽き…ますかね?」


貴族の一日の食事って、朝はじゃがいもとスープ、昼はパンとハムやベーコン、夜はパーティだったりお食事会だったり、豪華な食事。


うちは田舎にあるからパーティはないけど、3人では食べきれない量の食事が置かれる。なんか…静かに質素ながら品数の多い……そう、和食のようなものが食べたい。


芋、飽きました。日本って、飽食だよね。


じきに慣れるのを待ちますか。順応性の高さも日本人の美徳でしょう。郷に入れば郷に従え、ってね。



アリーサの手で優しく髪を持ち上げられ、そっと櫛を通される。

心地よさで寝てしまいそうになるのを感じながらどうにか意識を手放さないように思考を巡らせる。


「お嬢様はもうすっかり字をお読みになられるのですね。いつの間に練習したのですか?」

「ん?あー…アリーサが毎晩、本を読んでくれるじゃない。それで覚えられたの!ありがとう」

「まあ…!私の読み聞かせで?この上なく幸せです!」


後ろにいるので表情は分からないがとにかく嬉しそうな声を出すアリーサにしばし罪悪感を覚える。

すまねえ、前世では24歳成人女性だったんだ。読み書きそろばんくらいならお手の物なんだ。


目が覚めた日、異世界なので、言葉は通じるが文字はどうだろうと思い適当に本を持ってきて欲しいとアリーサに頼み、表紙を開いたところで思わず「読める!読めるぞ!!」とムスカさながらの台詞を言ってしまったのである。


いやまさかモロ日本語だなんて思わないじゃないですか、感動ものですよ。


割と低い声で叫んでしまったが、アリーサは文字を読めるようになった私にいたく感動し、両親が帰ってくるなり満面の笑みで報告した。


もちろん、2人からはベタ褒めされた。


幼子って…楽ね。



次回は4時間後の12時更新

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