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五話「悪謀巡らす夾竹桃」

今日一日、奏者の様子がおかしかった。

六七君の事を話してからずっと暗い雰囲気で、一緒に帰ろうと誘っても一人で帰ると言って先に帰ってしまった。仕方ないので明と美樹の3人で帰ることにし、美樹の用足しが終わるのを教室で待っていた時だった。

「ねぇ、今日やばかったよねー」

「昼のやつ??」

「そそ、六七君と美樹ちゃんの言い合い。」

「いつもは奏者君、何も言わずについてくもんね。たまたま美樹ちゃんがいたから代わりに反論してたけど。」

「ぶっちゃけいじめられてんでしょ?奏者君って。」

「さぁ…でも、なんか嫌な言い方とかするよね六七君。悪人顔って感じだし胡散臭いし…」

「それなぁ、なんか怖いんだよね。パーツはイケメンなのに雰囲気が地雷くさいっていうか…」

「ガキ大将みたいな感じだよね、俺がトップだーとかそういう所は見せないけど、自分が主導権握ってるーていうか。」

同じくクラスに残っていた子が六七君に対する陰口を言っている。やはり彼はクラス内でもあまり評判は宜しくないようだ。

言い方が悪いっていうのはたしかに自分も感じた。自分のやった事に罪悪感を持たず、そこを責めてもそんなこと言ってないやってないの一点張り。当人達がそれを見たとしても、善し悪しを判断する先生がそれを見てない限りは態度を改めないだろう。弄れた正論を混じえてくるのもタチが悪い。

…けど、そういった陰口を本人が居ない中で言うのは少し罪悪感がある。

嫌いなら嫌いと、本人にいえばいいのに…そう思ってた時だった。


「ガキ大将ねぇ…別にそんなつもりないけどな。」

教室の後ろ入口。

いつの間にか、六七君が立っていた。

「陰口ってのは本人が居ないと確認してからするもんだぞ。

実は居ました、で聞いてました、ってのが関係を悪化させる一番の要因って自覚、あるか?」

「…帰ろ。」

そそくさと2人は教室を後にする。残されたのは私と、明と、六七君。

「あんま気を悪くしないでくれ、六七。俺からも注意しておく。」

「……か……なら……つの……」

明の言葉に反応せず、ブツブツと独り言を話している。途切れ途切れにしか聞こえないが、呪っているかのような、そんな得体の知れない圧を感じた。

「ふん、嫌われるのは慣れてる。ああいうのは言っても聞かん奴だろ、言うだけ時間の無駄だ。」

六七が持っていた手提げバッグを机に置く。

「これは?」

「奏者のバッグだ。校門前に落ちてたぞ。」

「奏者の…?でも、もうとっくに帰ったはずじゃ…」

「そんなの知らん、誰かに盗られると思って持ってきたんだ。」

校門にバッグを置いて帰るはずがない。荷物を置く必要のある彼の日課(ランニング)も校門のような目立つ場所には置かないはず。

「いじめられてんでしょ?」

クラスの子が言っていた言葉が脳裏によぎる。まさか…と六七君を無意識に睨む。

「なんだ?俺を睨んで。」

睨んでいたのが気付かれ、六七君が両手をあげて恐々と話す。

「…」

「あいつになにかした、って思ってるならそれは違うぞ。そもそも原因となるものを持って来るわけないだろ。」

それもそうだ。

奏者の荷物を盗ったとしたら、それを私達に持ってくるなんて間抜けなこと、六七君はしないだろう。

「じゃあ、渡すもんは渡したからな。」

そう言って、手をヒラヒラとふって教室から出ていった。

「…意外といい人だったね。六七君。」

親切心で人の荷物を拾い、その知り合いに渡す。

本当に虐めているのなら、そのまま放置して盗まれるのを望んでいるはずだし、なんなら自分で拾ってそれを材料に恐喝する可能性だってある。

まぁ、一つの貸しとしてなにかしてくるかもしれないけれど…それでも虐めてる訳じゃなくて良かった……


そんな六七君に対する想いは一瞬で吹き飛んだ。


「……いや、待て。」

いつの間にか、六七君から貰ったバッグの中身を明が漁っている。

人のものを物色するなんて明らしくない、って言おうとした時。

「…え?美樹??」

バッグから出てきたノートの名前を見ると、「呉谷美樹」と書かれていた。

よく見ると、教科書にも美樹の名前が書かれている。

「奏者のじゃない…?え、なんで?」

「分からない、とにかく、美樹に伝えないと。」

2人で女子トイレの前に向かう。呼びかけても反応はない、中に入っても人の気配はなかった。

「一体どこへ…」

「探しに行こう。事件かもしれないし、先生にも手伝って貰う。」


職員室に着き、担任の先生の元に行こうとすると、先生は電話していた。

驚いた顔で電話応対をしている所から、何かあると私達は思っていたが、電話を戻すと飛び出すように職員室を出ようとしていた。

「先生!」

「花蓮と明…!ちょうど良かった、着いてきてくれ。」

「いや、私達も用事が…」

「美樹が虐められてるらしい!止めに行くぞ。」

美樹が虐められている…?真偽は分からないが、そう言われては確認しに行かない訳にはいかない。

先生と共に向かったのは、学校からほんの少し離れた小さな公園だった。

そこにいたのは、美樹とクラスの女子4人ほど。

美樹を囲んでなにやら投げ渡しをしている。

「ねぇ!いい加減返してよ!」

美樹の声から物を盗られて振り回されてるようだ。急いで先生が駆けつけ止めさせた。


学校に戻り、教室で話を聞く。

美樹によると、トイレから出て手を洗ってる時に電話が鳴り、取り出した所を盗られ、窓の外に投げられたらしい。

外を見ると他の子が待ち構えていて落ちてきた携帯をキャッチしてどこかに行ってしまった。

…話だけ聞くと計画的と取れるいじめ行為だ。だが…

「私達は言われた事をやっただけ!!何にも悪くない!!」

「ホントよ!美樹の携帯を奪って時間稼ぎしとけって言われたの!」

……ずっとこんな感じなのだ。

「…自分達じゃなく、誰か他の人から命令された…と?」先生もそればかりを聞いてうんざりしてる。

「美樹、お前のカバンは??」

「さっき花蓮達から貰いました、特に盗まれてる物とかはありません。」

「時間稼ぎと言うからには、置いていったカバンから金銭なりを盗むはず。けどそういうのは何も無い…。

やはり、お前達の証言は薄いな。」

「そんな…っ!」

「とにかく、私達はいじめの現場を見た。

それに関しての言い訳は出来ん。反省しなさい!」

「…っ、六七です!!」

「…六七?」

「そうです!六七が私たちにお願いしてきたんです!」

六七君が…?どうして、美樹を?

心当たりがない、という訳では無いがそれにしては遠回し過ぎる気がするし何より美樹のカバンを持ってきたのはその六七君だ。

「くどいぞ!人のせいにするんじゃない!」

先生はいじめをした女子達に喝を入れ、直ぐに帰るよう指示した。



「……なるほどな、そんなことが。」

「うん…虐めてた彼女たちが悪いとは思うんだけど…なんか引っかかって。」

その日の夜、私と明と奏者で通話をしていた。

(美樹は疲れたと言って先に就寝。)

「六七が命令したーなんて言ってもなぁ…確かにアイツは嫌な奴だけど、そんな回りくどいやり方は今までしたことないし、何より人に罪を擦り付けてるなんて、、先生に怒られるのは目に見えてたと思うが…」

「まぁ、そうだな。実際、人のせいにするなと言われてその場は終わった……だが、どうもひっかかってな。」

「ひっかかった?六七ってことが?」

「あぁ、ああいう切羽詰まった場面で吐かれる名前というのは大抵関係がある人物というのがセオリーだ。友人に擦り付けるはずもなく、かといって無関係の誰かを出すにしては不自然な口調だった。」

不自然な口調。

確かに六七のせいだと言った女子は、誰の所為にするか悩んで発言したというより、意を決したように発言していた。

「実は、お前に今日の事を伝えたのは1つ頼みたいことがあったからなんだ。」

「俺に?」

「六七の事が話に出てから急場で録音したんだ。奏者は、心理学を少しかじっているんだろう?」

「まぁ…ほんの少しだけだが…」

「今から流すからちょっと聞いてみてくれないか。お前だけ気づけることもあるはずだ。」

「…声だけでわかるとは思えないけど…わかった。」

録音した音声を流す。六七が悪い、という発言からそうだそうだと賛同する娘達を先生が一喝する。

それだけの音声。1分にも満たない録音を聴くと奏者が唸り出す。

「……正直、表情とかを見ないと確定しづらいが、喋り方や雰囲気だけ聞けば彼女達は正しいことを言っている。咄嗟に出た嘘にしては迫真過ぎる。」

「やっぱりか。しかし、六七が指示したとして、どうして俺達に知らせるようなことをした…?」

「あえて私達を助けて、自分は加害者側ではないということをアピールするためじゃなくて?」

「それはそうだと思うが、知らせないでそのまま帰っても疑われなかったと思う。むしろその方が美樹はより長くいじめを受けていたはず…」

「……いや、そもそもの目的が違うとしたら?」

「目的…?」

「話を聞く限り、明達が気付かなくても、多分先生が駆け付けてた。そして同じように指導される。

俺達がどう動こうと彼女らはいじめてる現場を目撃されるわけだ。」

「…なるほど、六七の目的は彼女らにイジメっ子の印象を与えること。教師に現場を見られちゃ言い訳も出来ないし先生間の評判も悪くなる。」

「…酷い…」

「もしこの仮説が正しかったとしたら……アイツの悪意は相当なものだな。彼女らに親でも殺されたのか…?」

「……多分、陰口を言ったのかも。」

「陰口?」

「うん、今日六七が教室に来る前、女子が六七君のこと噂してたじゃん?女子達が帰った後になにかブツブツ言ってて…」

「うーん…そんなので傷つくタマには見えないけどな…」

「まぁ何にしても、もうこれ以上蒸し返すこともないだろう。お互いいい出来事じゃあないからな。」

明が大きい欠伸をする。時間を見るともう23時を回っていた。

「あっ…もうこんな時間…」

「明日父さんの用事の付き添いがあるからそろそろ寝るわ、おつかれ〜。」

「お疲れ、明。」

明が通話から抜けて奏者と2人だけになる。

「…じゃあ俺も寝るよ。おやすみ。」

「あ!…待って。」

「うん?どうかしたのか?」

つい呼び止めてしまった、特に用事も無かったのだが何となく、本当に無意識に。

「いやぁ…なんとなく?」

「…っ、なんだそりゃ」

「えへへ……奏者、明日予定ある?」

「明日…?特に何も無いけれど…」

「じゃあ…おでかけ、しない?」

「……え?」

「じゃっ、また明日連絡するね。」


「えっちょっ」と分かりやすく動揺してる奏者の声をよそに通話を切る。

面白いなぁと思いつつも、実は2度目となる男子とのお出かけで少し顔が赤くなっている。

そんな自分に苦笑しつつ、私は明日の支度をするのだった。

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