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四話「まるで毒のようなあいつ」

朝6時、俺はベッドから起き上がりカーテンを開ける。

朝の光、眩いほどの光量で身体を起こす……ことは出来なかった。

「雨か…」

黒い雲が空を覆い、雨が強く降っている。こういう日は何か嫌なことがありそうで外に出たくなくなる。

「でも、行くって言ったしな…」

気は進まないが身支度を整え、朝ご飯を食べる。

傘を持ち、外に出ると一人の女の子が家の前にいた。

「あ、奏者。おはよう〜」

「…おはよう。いつからここに?」

「10分前くらいかな?」

「はぁ…せめて連絡してくれ。」

呆れてはいるが嫌ではない。一緒に登校出来る人がいるなんていつぶりだろうか…

「ふふ、ごめんなさい。じゃあいこっか。」

傘を指して、2人で並んで明と美樹の話を聞きながら学校に向かった。


昼休み、テストが終わりクラスには唸ってる人もいれば次の授業が楽しみではしゃいでいる人もいる。(俺はどっちかと言うと前者)

俺は花蓮達3人と囲みながらご飯を食べていた。

「いやぁ…中々難しかったね!今日のテスト。」

美樹が晴れやかに言う。まるで赤点になっても気にしないと言わんばかりの声色だ。

「確かに難しかったけど、全部やった内容だし、最後の問題以外は赤線引いたところから出たぞ?」

「え"、赤線って何??」

「……はぁ…」明が大きくため息をつく。

「最後の問題ってどんなのだっけ?」

「岡山の名物じゃなかったか?食べ物なり祭りなり工芸品なりを書けばいいやつ。」

「あ、それの答えって何があるんだ?桃くらいしか書けなかったんだが…」

「マスカットの方がいいかもな。後は備前焼とか刀とかじゃないか?」

「マスカットかぁ。」岡山=桃太郎=桃という発想が裏目に出て少し落ち込む。

「まぁまぁ、今回のテストは追試ないらしいし。そう落ち込むこともないさ。」

「そうそう、期末試験で取り戻せばいいんだから。」

「まぁな…」

「明先輩、ちょっといいですか?」

「ん?あぁ、どうした?」

「生徒会のことでちょっと…」

「わかった、すぐ向かう。

ごめん、また後で。」

そう言って明は後輩の子に着いて行った。

「忙しいねぇ、明は。」

「まぁ生徒会長だし…そうだ、先に修学旅行の自由時間の計画立てようか?」

「いいね!明の行きたい所は後で追加しよっか。」

「でも、紙は明が持ってないか?」

「簡単でいいよ、どこ行きたいとかある?」

3人は各々行きたい所をあげていって、地図を見ながら路線を確認した。その途中だった。

「おーおー、女2人侍らせて良い身分だなぁ。」

明らかに嫌がらせと取れる言葉に俺は少し固まる。

「……六七。」

声をかけた学生は嫌らしい笑みを浮かべてこちらに近寄ってくる。

「せっかくテストも終わったんだ、体育館でバスケでもやろうぜ。」

「いや、今は…」

「なんだよ、誘ってんのに。別に今日までじゃないだろそれは。」

それは確かにそうだが、雨ということもあって運動する気にはならないし、何より六七達とやるのが一何も言わないなんて

「……」

「何も言わないなんて失礼なやつだな。男なんだから運動しろよ。女かよお前。」

そう言うと、俺の腕を無理やり掴もうと手を伸ばす。

その手を、1人が遮った。

「男なんだから運動しろ、か。じゃあ何?女の子は運動しちゃダメなの?」

「あ?そんなこと言ってないだろ。」

「男だからって別に運動しなくたっていいじゃん。やりたくないものを強制的にやらせるなんていじめだよ。」

いつも笑顔の美樹が珍しく怒りを顕にして、六七に言いよる。

「あのなぁ、俺達は親切に誘ってやってんだぞ?ただでさえこいつは一人でいることが多い。そんなんじゃクラスで浮いちまうから一緒に運動して遊ぼうと」

「1人でいようと何人かといようと、そんなの人の勝手でしょ?無理矢理やらせる方が悪いって言ってるの。」

「無理矢理誘ってないだろ。」

「じゃあさっきのはなに?奏者に手を伸ばして…何するつもりだったの?」

「どこまで自由時間が決まってたか見ようと思ったんだよ。半分くらい決まってたら改めて誘おうとな。」

「嘘、紙じゃなくて手を掴もうとしてた。」

「証拠は?」

「ないけどやろうとしてた。」

「はっ、人を勝手に悪人扱いしやがって。言いがかりも甚だしいぜ。」

2人は声を大にして口喧嘩する。教室は静まり返り、見守るように、また関わらないように誰も喋らない。

「…でも、これって宿題だよね?」

睨み合う2人の間に花蓮が入り込んだ。

「確かに遊ぶのも大切だと思うけど…でも、宿題を放っておくのも良くないでしょ?」

「それはそうだろ、出さないやつなんて論外だろ。」

そう言いながら、美樹を見て鼻で笑う。

確かに宿題を忘れるなんて、美樹にとってはしょっちゅうある事だった。こればっかりは擁護できない。

「そうよね。だから、今回は早めに終わらせようと思ってるの。そっちに集中させてくれない?」

花蓮は笑顔で六七に微笑む。流石に宿題を後回しにしろとは言えないのか、少し気まずい顔をして、

「…それなら仕方ないか。また今度誘う。」

捨て台詞のように言って教室を後にした。

「…なんか、ごめん。」

「奏者が謝ることじゃないよ。やりたくなさそうだったから追い払っちゃったけど…」

「それでいい。…あんまりあいつとは、あそびたくない。」

「…何かあったの?」

「後で話すよ、俺と過ごすって事は少なからずあいつとも関わることになるかもしれないし。」

そう言って、計画立ての続きに戻った。


授業時間、修学旅行のメイン行事の説明をした後、自由時間の過ごし方を決めるべく班ごとに分かれた。

俺達は教室から離れて、図書室で計画を練っていた。(パンフレットなど資料が沢山あるから)

「…ねぇ、そろそろ教えてくれない?」

美樹が切り出す。ついに来たか、と少し身構える。

「?どうかしたのか?」

「奏者と六七君のこと。なんか、あるみたいで…」

花蓮は昼の出来事を話す。

「なるほどな、確かに六七はよく奏者に絡んでるように見えたが。」

「絡んでる、じゃない。絡まれてるんだ。」

「絡まれてる?」

「……あいつとは、小学から一緒でな。クラスもよく同じで昔はもっと明るかったんだ。

対して俺は、正直今と変わらず人と話をするのが苦手で、あまり友達を作ろうとしてなかった。」

「もしかして、初めは本当に善意で誘ってたとか?」

「あぁ、運動嫌いな俺のために教室で出来る遊びなんかにも誘ってくれたな。」

「じゃああれか?奏者が素っ気ない態度を取るからあんな感じになったのか?」

「いや……それもあるかもしれないが、それがきっかけじゃあないと思う。」

「まぁ、元々あんな感じだよね、六七って。

1年前クラス一緒だったけど、途中から学校来なくなったし。」

「聞いたことあるな、結構長い間来なくて留年確定と思われてたが…それが原因じゃないなら、やっぱり小学生の時に?」

「そうだ…俺は元々、人の顔色を窺うような生き方をしてて…何を考えてる、とかそういう簡単な心理学的な事を身につけたんだ。」

読心、とまではいかないが、今の感情を見て「きっとこう思ってる」という漠然とした考えを当てることだ。正直役に立つかと言われればそうではないと思うが…

「小学生の皆には、それがウケてな。一時期ゲームみたいな感じで遊んでたんだが…」

「それで弄られた?」

「いや…あいつの友達まで引き付けてしまって、逆にあいつが1人になった。」

「…小学生の六七を聞いてると、一緒に遊んでそうなもんだが。」

「あいつは、いつも誘っても遊ばず、更には自分のつ連れを取っていった俺を恨むようになった。恐らくだけど…」

「そんなの、六七の勝手なエゴじゃん!」

「いえ…小学生の感情はそういうものなのかも。

友達と沢山遊びたい年頃だし、ずっと一緒だった友達が急に構いもしなくなったら、きっと…」

「自分の非を認めるなんてことは思わんし、友達を奪ってったあいつが悪いみたいになるよな。」

「でも…もう中三でしょ?流石に奏者が悪くないって気づくでしょ。」

「気づいてないから、俺は嫌がらせをうけてる。

俺が楽しくしてるのが気に入らないのか、誰かと喋ってたら必ず間に入ってくる。」

だからこそ、1人でいたかったし、俺と関わった子が変に目をつけられたくなかった。

「それ、先生に言った?」

「言った、だけどあいつはやってないの一点張りで、先生も困ってる。」

「まぁ、先生としてもやってないことを叱る訳にもいかないからな。証拠さえあれば…」

「いや、いいよ。そう簡単にボロを出すやつでもないだろうし…3人も気をつけてくれ。」

それを最後に、六七の話は終わった。

昼休みの言い合いを思い出す。

言い返してきた花蓮や美樹がきっと狙われるだろうと考えると、とても申し訳ない気持ちになり、その日はずっと塞ぎ込んでしまった。

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