ヘリオトロープ
「上野さん来てくださってありがとうございます。」
「警察の方に言われたら、協力するしかありませんし。」
「定年退職しましたのでもう警察官ではありませんよ。」
「そうですか。それで今日は何の用ですか?」
「松野杏さんは生きていますよね?私が行き着いた答えが正解ならですが。」
「………。」
「あの自殺した女性の身元は分かりませんでしたが、彼女には骨折のあとも流産のあともなかった。後は新田翔平が彼女は松野杏だとあなたに同調するかどうかだった。そしてあなたは賭けに勝った。でも性格的に相貌失認という弱みを我々警察に見せるとは思いませんでしたけどね。」
「安達さんはずっと調べてらした。松野杏いや睡蓮様のことを。」
「ええ。それに名も無い女性のことも。」
「私がなぜ産婦人科医になったかお話ししても?」
「お願いします。」
「睡蓮様が5年前に身ごもったんです、松様の子を。それで睡蓮様が誰にも知られぬように子をおろしたいと。そこでまだ研修医だった私が中絶の手術を施した。その時思ったんです。ああ、この世にはたくさんの虐げられている女性がいる。私は私のやり方で女性を守ろうと、それで産婦人科を希望しました。」
「……そう、ですか。」
「自殺した女性は横田麗子さんです。もう治療の施しようがなくて、身よりもなく友達もいない方でした。ずっと1人で死にたくないと言っていました。あの日、横田さんが亡くなった日、道ばたでばったり会ったんです。そこで睡蓮様とお話するのもいいかなと考えました。睡蓮様はとても優しい方でいつも病院でボランティア活動をされていました。そこで横田さんを家に連れて行きました。家には誰もいなくて仕方なく睡蓮様を2人で待ちました。私が席を外したのを見計らって服毒したようでした。僕が戻った時にはもう亡くなっていた。そこで思いついたんです。睡蓮様に全てを捨てて生きてもらおうと。」
「なら松野杏は横田麗子に?」
「ええ。もう睡蓮様がどこにいるかも分かりません。」
「カイルさんのことは?」
「子供を失った時あの男への愛も失ったようです。」
「そうですか。横田麗子は本当にあなたが戻った時に死んでいたんですか?」
「ははは、あなたも睡蓮様と同じことをおっしゃるんですね。月並みな言葉ですが、助かろうとしない患者は完璧な治療を施しても助からないのですよ。」
「分かりました。なぜ東京に出てこられたんですか?」
「睡蓮様には自由になってほしかった。それだけです。」
「じゃあ最後に1つだけ松様を発見したのもあなたですよね。彼も助かろうとしなかったんですか?」
「松様は発見が遅れた。それだけです。もうよろしいですか?」
「ええお時間ありがとうございました。」
「すみません、安達さん私からも最後に1つだけよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。」
「なぜ、本当のことを言わなかったんですか?」
「それは…分かりません。ただ真実を暴いていいのか分からなくなったそれだけです。」
「そうですか。ではこれで。」




