アネモネ
新田翔平の病院は都心から近く、上野誠の勤める病院からも近かった。電車で数駅先だ。電車を降りると真ん前に病院が見えた。中はとても綺麗で清掃が行き届いており、清潔感のある病院だ。受付で令状を見せると、受付の男性に少々お待ち下さいと言われ、大人しく受付のソファに座って待った。数分後、白衣を着た初老の男性がこちらへ歩いてきて、会議室へどうぞと声をかけてくれたので、その後を着いていった。会議室と書かれたプレートが、扉の上に付いている部屋のドアを開けてくたので、白衣の男性に会釈して中に入った。
「どうぞかけてください。」
「失礼します。単刀直入に伺いますが新田翔平さんの事故による障害は何ですか?」
「彼の症状は相貌失認です。脳の一部が損傷をうけ、その後遺症として相貌失認と私が診断しました。」
「あの、人の区別がつきにくくなるという。」
「ええ。彼の症状は重く、転院してきた当初は、自分の顔も分からぬままでした。性格は暗くなる一方で内向的になっていきました。家族も区別できず当たり散らし、家族の方もお見舞いにあまり来なくなってしまった時、松様という男性が訪ねてきました。彼は来る日も来る日も新田君を励まし続け、新田君も心を開きなんでも言うことを聞いているようでした。退院を決めたのもその男性で、その頃はもう新田君は松様という男性を妄信しているようでした。その後は分かりません。定期検診にも来ませんでした。」
「彼の事で他に気になることや覚えていることはありませんか?」
「そうですね。事故を起こした運転手が女性だったので、とにかく全ての女性を憎んでいました。看護師や医者が女性と分かると暴力をふるうので、よく他の者がとめに入りました。医者は信じられないから、薬は飲まないと言い切り、薬を薬剤師の目の前で捨て、足で踏み潰したこともありました。退院したのはそれからすぐですね。彼は人を区別するため、声と話し方、体格を覚える訓練を松様という男性としているようでした。」
「そうですか。でもよく覚えていましたね。10年程前でしょう?」
「私は担当医でしたし、何より相貌失認という症状も珍しく、カルテに事細かに日常の変化を書いていたんです。」
「そうでしたか。助かりました。お時間ありがとうございました。」
やっと全貌が見えたが、この真相は暴くことが俺にはできなかった。




