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キブシ


 上野誠の勤め先の病院は普通の総合病院だ。とりあえず上野誠の所属する産婦人科に向かう。松野杏の不治の病は婦人科系の病気ということか。看護師に話を聞いてみようか。


「すみません、警察の者です。こちらに通院されていた松野杏さんが亡くなられたのですが。松野さんについて何かご存知ですか?」


「すみませんが、そういったことは患者様のプライバシーに関わる事です、守秘義務に反しますのでお話しできません。捜査令状がないと無理です。」


「亡くなったんですよ。それでもですか?」


「関係ありません。」


「分かりました。ああ、すみません。上野先生ってどんな方ですか?」


「上野先生ですか。3年前から働かれています。患者様にとても優しいです。産婦人科に来られる患者様って、最初は女性の先生じゃないと分かると、嫌そうな顔をなさる方が多いんです。でも上野先生はそれを、気にするでもなく親身になって、患者様の気持ちを考えて、いつも優しい言葉とか、その時、患者様がほしい言葉を言うんです。診断を間違った事はありませんね。だから診療が終わると皆さん穏やかな表情で帰られます。」


 と言って腕時計を見た。


「そうですか、私も孫が生まれるので、いい先生なら来ようかな。お時間頂きありがとうございます。」


「いいえ。では失礼します。」


 あの上野誠、中々信頼されているようだ。だが松野杏のことは分からず終いか。1度警察署に戻って鑑識の泉に話を聞こう。



 泉はちょうど最初に来ていた2人に話を終えたところだったようだ。


「すまないが、こっちにも話してくれ。」


「はい。検死結果もきたからそれも伝えるよ。とりあえず検死結果から、死因はやっぱり服毒でトリカブトだった。子宮頸がんのⅣ期で他の臓器にも転移が見られた。多分、どんな治療も間に合わない状態らしい。他の病歴はなかった。それ以外は綺麗な体だったよ。毒はカプセルで作ったようだった。胃に残ったカプセルの指紋は流石にとれなかったが、水を飲んだコップには右手の指紋しか付いていなかった。というか部屋の物には指紋が付いていなかった。玄関の扉にも死体のあった部屋の扉にも付いていなかった。上野誠と新田翔平と、もう1人特定されていない人物の指紋はたくさん付いていた。後もう1人特定されていない人物の指紋は、劣化していて読み取れなかった。松野杏の指紋はあの家でコップに付いたものだけだった。」


「あの家に住んでいたのにか?うーん。」


「でも自殺には変わりないよ。無理に飲まされたような、指を突っ込まれたような傷は口内になかったし、腕を掴まれたり、頭を固定されたりしたようなあざもないし、暴れたような傷もなく、防御創も全く見られなかった。毒以外の薬も飲んでいない。」


「自殺は確定か。」


「ええ、そうですね。自殺は確定です。状況が異常なだけで。ああ、あと松野杏の所持品は何もなかった。服のポケットにもコートのポケットにも何も入っていなかった。それと松野杏の自室だが、上野誠があの状態の彼女を見つけ通報した後、部屋を見に行ったらしいが、全てなかったらしい。床に手紙が置いてあって、病気が治らない以上生きる意味がありません。部屋の物は死ぬ前に全て処分します。と書かれていた。そんなところですね。私からは。」


「ありがとう。助かったよ。」


 泉と別れたところで新人の駒田が走ってきて、俺に話す。


「安達さん、今被害者の確認に上野誠と新田翔平がきて遺体が松野杏だと2人とも正式に確認しました。それだけっす。」


 と走って戻って行った。


「話を聞いていると、死んだのは本当に松野杏なのかと疑問に思っていたが、2人が確認したのだから松野杏なのだろうな。それにあの2人折り合いが悪そうだったからな。手を組むことはないだろう。一応村まで聞き込みに行くか。そう遠くはないし。明日、朝1番で。斉藤、頼むぞ遅れるなよ。」


「分かりました。9時に署の前で待ってます。」


「ああ、頼む。」


 そういって家に帰ることにした。2人が折り合いが悪いと、気が付いたのは簡単なことだった。上野誠が部屋に入ってきて俺に話しかけた瞬間、じっと上野誠を睨んだのだ。それまでずっと笑顔だった男が。敵意と憎しみで瞳の色が変わった。


 家に着くと、家内が風呂を沸かしてくれていて、ありがたく風呂に入った。明日は村で聞き込みか、何かが引っかかる。そう考えながら床についた。



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