カラシナ
まずは現場だな。そう考えて俺と斉藤は松野杏が自殺した家に向かった。一応鑑識の泉が来ているようだ。
「ああ、安達さんもう他の方達は帰りましたよ。」
「だから今、来たんだよ。」
「あはは、らしいですね。」
「で、どうだ?」
「うーん、荒らされた形跡もなし、玄関から鍵を使って入り、コートを脱ぎ部屋の隅に置き、コップに水を入れてそのまま毒を飲んだようです。毒を飲んだというのに、あまりじたばたせずぐっと我慢して死に至ったようなので、とんでもない覚悟をもって自殺したのかもしれませんね。」
「若いのにたいした覚悟ですね。」
斉藤が話す。確かに苦しみを我慢する程の死にたい理由があるのだろうか。現場写真では着衣も乱れておらず表情も割と穏やかに見える。そこに男が1人現れた。がっしりとしていて、背が高く茶髪を短く切り揃えていて、日に焼けて爽やかな雰囲気、顔も血行がよく、歩き方にも自信が窺える。
「刑事さんまだいらっしゃったんですか。えっと今野さんと小林さんですよね。まだ何か?」
男はまっすぐに俺の顔を見て話す。
「すみません。遅れてしまって後から来たんです。安達と言います。こっちは斉藤です。」
男は俺の声を聞いてはっとした表情になり、そのまま俺の話を聞いていた。斉藤は頭を下げた。
「これはすみません。新田翔平と申します。私はエンドウ、じゃなくて上野誠から電話をもらって家に戻ってきましたので、私もまだ睡蓮様に会えていないのです。」
「すみません、エンドウとか睡蓮様とかどういう意味なんですか?」
「前村長の松様が村民1人1人に付けてくださったのです。松様が祭事を取り仕切っていたのですが、その際に使う大事な名前で、村民は全て花や草の名前をつけて頂きそれを使用しています。ちなみに私はリンドウです。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
村長が祭事を取り仕切る?村民に名前をつける?ちょっとおかしくないかこの村。話を聞いているともう1人の男が入ってきた。この男はひょろっとしていて線が細い、黒髪が目にかかっていてくまができている。アイロンがかかっていないYシャツを黒いカーディガンの下に着ている。ズボンも黒く肌の白さが際立っている。いつもは眼鏡をかけているのか眼鏡をあげる仕草をしてから俺たちに話しかけてきた。
「先程の2人の刑事さんとは違う方ですね。私は上野誠です。まだ何か?」
笑いかけてはきたが、目は笑っていない。腹に何かを抱えているらしい。
「すみません。遅れてしまって私は、安達です。こっちは斉藤です。」
斉藤はまた頭を下げ、鑑識とこそこそと話をしている。
「何度もすみませんが質問させてください。上野さんが通報したんですよね。」
「ええ、そうです。病院から帰ると睡蓮様が倒れていてすぐに通報しました。医者なので一応脈等を確認しましたが、もう手遅れでした。」
「そうでしたか。一緒に住んでいらしたんですよね?何か悩んでいる様子とかは?」
「それが…。私は医者なのですが、彼女は不治の病でした。もう余命もわずかで、思い詰めていたのかもしれません。」
「そうでしたか。お辛い話をすみません。ちなみに前任の村長は何故お亡くなりに?」
「松様は心臓発作でした。発見が遅くなって。」
「そうですか。ちなみに何故東京にお住みなんですか?村なのでは?」
「大した理由はありません。村の過疎化が進んでいるのでPRしようと松様の時からたまに出てきているのです。睡蓮様も同じです。」
「ありがとうございます。またお話しを聞きにくるかもしれません。許可無く村に戻るのはご遠慮ください。」
2人の男は分かりました。と頭を下げ鑑識と俺たちを見送った。
外に出ると何事かと井戸端会議をしている集団が目に入った。
「すみません、警察の者です。最近なにか変わったこととか、気付いたことはありませんか?」
口々に、そうねーとか、えードラマみたいとか言いながら、考えている。
「でもここのお家いい人ばかりよね。男の子2人とお父さんでしょ。たまに美味しい野菜を分けてくれたわ。」
「あら、娘さんもいるわよ。外国の王子様みたいな人と、手をつないで帰ってくるのを見たことあるわ。話しかけたら笑顔で恋人なんです。小説家なので本買ってくださいって、可愛い娘さんだったわ。」
「ああ、私も金髪のイケメンなら見たわ。あの子ここのお家を訪ねてたのね。」
「そういえば、スーパーであの爽やかな男の子の方を見かけたんだけど挨拶されなかったわ。家の前だと笑顔で絶対にしてくれるのに。あの子本当に格好いいわ。」
結構、重要な情報が出たけどとりあえず恋人だ。
「その小説家の名前を聞いていませんか?」
「えっとねぇ、カイロ?だかカイルだか?分からないわ。」
「そうですか、ご協力ありがとうございました。」
そういって井戸端会議から離れた。次は病院だな。斉藤は察しがよくもう車をまわしてくれている。
「ありがとう斉藤。次は、」
「病院ですね!」
「ああ、頼む。」
本当に察しがいい。最後の相棒が斉藤で良かったと思う。
昼前だというのに空は曇っていてとても暗く、幸先がいいとは思えなかった。




