一方その頃、女神
少し短いです。
そこは水晶で囲まれた幻想的な空間だった。
天から光が差し込んでおり、その空間全体を明るく照らしている。
場違いなトイレの個室がなければ、見たものすべてを感動させるほどだろう。
その空間で、狐耳のある女子高生ほどの少女が項垂れていた。
「うぅ……どうしましょう……。まさか神力の消費量がこんなに多いなんて……。元春さんを一人で異世界に送ってしまいました……」
少女は初めて他人を転移させたため、どれほど神力を消費するかがわからなかったらしい。
神力とは、女神が持っている力の残量だ。
女神はそれを消費して奇跡を起こしている。
月に一回、主神から授けられ、そこから各女神はやりくりしている。
いわば、給料のようなものだ。
「それもこれも、元春さんが到達点に来るのが早すぎたからですよぉ……。本来なら早くても後五年はかかるはずだったのに……」
今はここにいない到達者へ文句を言うその姿は、神々しさなど微塵も感じられない。
「念のために変声機を神力に戻したんですけどねぇ。やっぱり、姿を成長させたのがいけなかったのでしょうか」
少女は知り合いの女神から、子供の姿のままだと舐めた態度をとる到達者がいるという話を聞いており、中学生ほどの見た目から態々高校生ほどの見た目に変えていた。
到達者は地球にいるその女神の信仰者がなるものなので、舐めた態度をとる到達者など本来ならいないはずだが、知り合いの女神とやらは到達者選びをミスったのだろうか。
「とりあえず、急いで私もヴェストクラムへ行かないと!……どうやって神力を増やしましょう……」
神力は、消費して作ったものなどをもとに戻せば取り戻すことができる。
転移や転生などの取り返しのつかないものは無理だが、自分で生み出したものなら消費した時の神力をそのまま回収できるのだ。
「でも、この空間を壊したくないんですよねぇ……。我ながらなかなかの出来栄えですし。作っている時は、水晶一つにかかる神力が思っていたよりも多くて驚きましたが……」
少女は周囲を見渡してみる。
空間の中央を囲うように大小さまざまな水晶が置かれており、その光景には眼を見張るものがある。
しかし、到達者がすでに来たため、この空間を使うことはもうない。
もともと到達点というのは到達者が力と使命を授かるために用意された舞台のようなものである。
そのため、到達者に力と使命を授けた今となっては必要ないのだ。
「…………」
美しい空間を見つめ、自分がこれを作ったんだ、と誇らしく思う少女だが、その頭にはもうこの空間はいらないものだ、という考えがチラついている。
「うぅぅ……!この空間はいわば私の作品です!すんなり壊すことなんて……!」
自分の思いをおもわず口に出してしまう。
それだけこの空間を壊すことが嫌なのだろう。
少女が未だに悩んでいるときに、それは突然おきた。
「うーん……。……あれ!?な、なんで!?」
残り少なかった少女の神力が急に減ったのである。
「私何もしてませんよ!?どうして!?」
少女は動揺するが、同時にこの出来事が少女に決意させた。
残っていた少しの神力で真乃に異世界のアドバイスを神託として送ろうかと思っていたが、それももうできなくなってしまった。
残る手は、この空間を壊す事しか……
「〜〜〜!ええ、いいでしょう!やってやりますよ!この空間を壊して私もヴェストクラムへ行ってやりますよ!」
少女は半ばヤケになりながら水晶を神力に戻していく。
水晶には無駄に神力が使われてたが、空間にある全ての物を回収しても転移にはまだ足りなかった。
「あと少し……!」
少女は遂に空間そのものを神力に戻した。
景色が公園のボロいトイレに変わる。
しかし、それで神力は足りた。
「よし!それではじゃあ行きますよぉ!」
少女は意気込み、真乃のすぐ近くに座標を設定し、転移を……
する瞬間に、また神力が減った。
しかし、転移の奇跡はもうすでに発動しており、不完全であるため縦軸の座標が狂い、少女は転移されてしまう。
それは、真乃が転移した時と同じ状況で……。
「出来た〜!ってえぇ!?なんで空中に!?落ちる!落ちるぅぅ!!」
こうして狐耳少女の女神はヴェストクラムへ降り立ったのであった。
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