森のモンスター1
閉じられていた瞼に日光が当たり、真乃は眩しさをおぼえる。どうやら、転移の際に気を失っていたらしい。身体が何故か動かない。指先すらも、だ。転移の反動だろうか?それでいて、どこか暖かく、自然の匂いがする。初めて見る憧れの異世界の光景はどんなものだろうか。子供がもらったプレゼントの包装を破る時のような気持ちで、真乃は目を開ける。そこには……。
「あれ?俺、埋まってね?」
真乃は首より下が地面に埋まっていた。動けないのは当然だろう。自然の匂いなどと思ったが、どうやら森の中のようだ。
「えっ?どうしよう、コレ。というか、あの少女は?このままだと俺の異世界生活は生首状態のまま終焉を迎えるんだけど……」
首が動く範囲で辺りを見回すが、少女は見当たらない。それどころか、真乃は嫌なものを木々の奥に見つける。
「なんだ、あれ?あれがこの世界のスライムとかゴブリンの枠か?」
そこに居たのは中型犬ほどの大きさで、手足がとても短く、つぶらな瞳をしている、一見可愛い、白い四足歩行のモンスターだった。ウサギのような耳があり、大きな口から二本の立派な牙が見えている。尻尾は何故かハンマーのような形をしており、あれで殴られたら一巻の終わりだろう。
真乃が観察していると、そのモンスターも視線に気づいたのか真乃の方を向く。真乃とモンスターの距離はせいぜい15メートル程しかなく、見つかるのは当たり前のことである。
「…………」
「…………」
両者に謎の空気が流れる。どうやらモンスターは初めて見る人間の生首を警戒しているようだ。そして真乃は……
(あのモンスターが攻撃してきたら俺は本当の意味で生首になっちまうかもな……。浄化の力の使い方も分かんねぇし、そもそも俺は力を授かっているのか?)
試しに真乃は目の前の汚れた小石を浄化するように念じてみる。すると真乃の目の前に魔方陣が浮かび、小石に向かってシャボン玉のようなものが飛んでいく。その見た目に反して割と速い速度で飛んでいくシャボン玉モドキは小石に当たり、割れると同時に淡く光り、小石が綺麗になっていた。くっついていた苔も綺麗になくなっている。どうやら力はちゃんと授かっているらしい。
(あとは、この力があのモンスターに効くかどうかだな……。まあ効かなかったら終わりなんだけど。頼む!異世界来たってのに早々に死ぬなんて勘弁してくれ!浄化!)
真乃はもうすでに残り3メートル程の所まで来ているモンスターを浄化するように念じた。
先程の小石と同じように真乃の目の前に魔方陣が浮かび、シャボン玉のようなものが飛んでいく。
真乃が何もしてこない為、警戒を緩めていたモンスターは咄嗟に避けようとしたが、意外にも速い速度で飛んでくるシャボン玉モドキを避けきれず当たってしまう。
「ギュッ⁉︎」
見た目通りの可愛い鳴き声でモンスターは悲鳴をあげる。
「よし!当たった!」
思わず声を出した真乃だったが、モンスターに外傷は無い。
「あ……あれ……?」
「キュ?」
真乃が内心凄く焦っている中、モンスターは自身の身体を確認し始める。
そして、何かに気づいたようだ。
「キュッキュキュッキュッ!キュゥウウ!」
何故か跳ねまわるモンスター。尻尾のハンマーがその度に地面を叩き、土が周囲に飛び散る。
「うわっ⁉︎なんか怒らせちゃったか⁉︎すまん!悪気は無かったんだ!あわよくば倒そうなんてこれっぽっちも思ってなかったから!」
伝わるかどうか分からない言い訳を言う真乃。しかし、モンスターが聞いている様子はない。20秒程跳ね回ったところでモンスターは跳ねるのをやめた。ちなみに、真乃は飛び散る土が顔に着くたびに自身に浄化をかけて綺麗にしていた。目の前でモンスターが跳ね回っていると言うのに、意外に肝が据わっている。
跳ねるのをやめたモンスターはまた自身の身体を確認している。浄化によって綺麗になった身体は、土によってすっかり汚れてしまっている。
「キュウゥ……」
鳴き声はどこか悲しそうだ。
そして、そのつぶらな瞳は真乃をチラ見する。
チラッ チラッチラッ
「そんな見られても……。もしかして、また綺麗にして欲しいのか?」
「キュウ!」
真乃が尋ねると、返事をするかのようにモンスターが答える。
「言葉が通じてんのか?お前、頭いいんだな」
「キュ?」
今度は通じていないようだ。
「犬とかが飼い主の気持ちを察するのと同じ感じか?動物の本能みたいな」
「キュウッ!」
真乃が一人で納得していると、モンスターが急かすように声を出す。
「あぁ分かった分かった!いいよ、やってやる。浄化!」
真乃は声に出しながらモンスターを浄化するように念じる。小石の件で、声に出す必要がないことは分かっているはずだが、異世界に来て気分が昂ぶっているのか、中学や高校の時のような少年の頃の感情が戻ってきているようだ。
モンスターへシャボン玉モドキが飛んでいく。今度はモンスターは避けることをしなかった。シャボン玉モドキが当たったモンスターは淡く光り、綺麗になる。自身の身体を確認したモンスターはとても嬉しそうだ。
「キュウ!キュキュウ!」
そしてまた跳ね始める。周囲に先程と同じように土が飛び散り、モンスターはまた汚れてしまった。
真乃の顔にも土がかかる。
「…………」
「キュ!……キュ?……キュウゥ……」
自分が汚れている事に気づいたモンスターは悲しそうに鳴き声をあげて落ち込んでいる。
そして、真乃の方をチラ見している。
チラッ チラッチラッ
「やっぱお前バカだわ!!」
「キュウッ!」
真乃の叫び声とモンスターの抗議する声が森に響いた。
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