コスプレ少女
久々の……
「君が、あの時のコスプレ少女……?」
「そうです!……いや、コスプレじゃないですけど!」
頰を膨らませて怒る彼女。そういえば、あの時もコスプレにしてはよくできすぎていると思ったっけ、と過去を思い出す真乃。
「あなたは私の到達者です!今決めました!」
「出会って早々に何言ってんのこの子?」
いつも学校帰りに何気なく寄っている神社で、真乃は謎のコスプレ少女に絡まれていた。
「どうしたの?もしかして、迷子?ダメだよ〜俺みたいな怪しい奴に話しかけちゃ」
「迷子じゃないです!なんならここが家みたいなもんです!」
「え?この神社に住んでんの?いくらボロいからって、勝手に住み着いたら罰当たりだよ」
「私を祀った神社ですから罰なんて当たりません!」
「げぇ!今度は自分が祀られてるとか言い出しちゃったよ!厨二病にはまだ早い年齢じゃない?君みたいな子が[自分は神だ]とか言っちゃダメだよ?」
「私は神です!」
「フリじゃねぇよ!」
必死に抗議する少女を、真乃は適度にツッコミながら流していく。
子供の扱いは、近所の悪ガキを相手にしてきた真乃は手慣れている。この少女は悪ガキではなさそうだが、平日の午後五時にやけに完成度の高いコスプレをして神社にいるくらいだ。面倒くさい事になるに決まってる。こんな時は話を合わせてきりがいいところで逃げれば良いのだ。悪い事をしているのなら、話の中でやんわりと注意してやれば良い。
「とにかく!あなたには今後、到達点を目指してもらいます!」
「良いよ〜到達点ねー」
笑顔で、目線を合わせれば、子供の機嫌などすぐに良くなる。
「断られるのは予測済みで……えぇ⁉︎良いんですか?」
適当に流す真乃に対し、説得しようとしていた少女が驚く。
「頑張って目指すよ。じゃ〜ね〜」
「目指してくれるならいいんですけど、まさかこんなにすんなり了承してくれるなんて……たまに神社に来ては[将来、一日中寝て過ごしていても問題ないくらいな金が手に入りますように]なんてしょうもないことを願ってるような人が……実はいい人なのかな?……あっ!待ってください!まだ説明する事が……ってもういない⁉︎」
少女は辺りを見回したが、真乃の姿は見つからなかった。
「あぁ!思い出した、思い出した!確かに約束してるわ、俺」
しかし、約束と言うにはあまりにもお粗末なものだったような……?
「思い出してくれたなら話は早いです!さあ!ヴェストクラムに!行って!ください!」
興奮した様子で少女が距離を詰めてくる。
「近い近い!じわじわとこっちに寄ってくんな!」
目の前まで来ていた少女を引き剥がし、個室に押し戻す。
「そっそうですね、私も少し慌てすぎました。すみません」
恥じらいからか、顔を少し赤らめて謝る少女。
少し……?と首を傾げる真乃だがいちいちツッコンでいては話が進まないので堪える。だが……
「まさかあの適当な約束がこんな事になるなんて……」
「会話の途中でいなくなったのは貴方ですよぉ!」
思い返すと、あの時の自分を殴りたくなる。
「とりあえず、気になることを聞いてもいいか?」
「いいですよ。元々説明はするつもりでしたし」
真乃は気になることを聞いていく。
「まず、君が俺に課す使命ってなんだ?」
「世界の浄化です!」
「具体的に」
「私が貴方に授ける力と関係するので、まずはそちらの説明から。私が貴方に授けるのは浄化の力です!」
いまいちピンとこない真乃に、少女は説明を続ける。
「浄化の力とは、穢れを清める力です!簡単なので言うと、汚れた手を綺麗にしたり、服を洗えたりできるのです!」
「ショボくね?」
「今のは分かりやすい例です!呪いを解いたり、悪霊を祓ったりもできるんですよ!」
「おぉ!そう聞くと割とスゴそうだ!」
授かる力がまともなもので安心する真乃だが、そこで先程の使命を思い出す。
「浄化の力は分かったけど、でも、その力で世界の浄化って?各地を回って怪しいのを片っ端から浄化してくの?」
聞くと、何故か少女は得意げな表情に。
「ふっふっふ……私が授ける力を舐めないで下さい!浄化の力が強まれば、真乃さんがその場にいるだけで世界に干渉し、じわじわと世界の浄化が進むんです!」
つまり、力が強まれば何もしなくていいらしい。
「異世界に……か……」
上京してから仕事も人間関係も悪くはなかった真乃だが、学生時代に憧れていた異世界へ行けると思うと、悪くないと思えてきた。
「どうです?ヴェストクラムに行きたくなったでしょう?」
「ヴェストクラムはどれくらい発展してるんだ?流石に、原始時代くらいの文明の世界だったら行きたくないんだけど……」
「科学の代わりに魔術が発達している、中世ヨーロッパみたいな世界です。都市によっては科学も発達してたりして、不自由はないと思います」
「そうか……よし!行ってやろうじゃないか!異世界!」
「本当ですか⁉︎やったぁー!!ありがとうございます!」
無邪気に喜び、真乃の手を握って大袈裟に振る少女。見た目よりも幼い、素直な喜び様を見ると、真乃もいい事をした気分だ。
「で、異世界へはどうやって行くんだ?」
「少し待ってて下さいね……」
そう言うと、少女は先程使っていた変声機を持って部屋の中央へ。
「これももう入りませんね」
そう少女が言うと、その手の中にあった変声機が光に変化する。少女はその光を床に落とした。光が床に触れた瞬間、床に大きな魔法陣が浮かぶ。
「すげぇな……奇跡を見てるのか、俺は……」
感動している真乃に、少女は振り返って声をかけた。
「そんな所で見てないで、こっちにきてください。ヴェストクラムへ転移しますよ!」
「あ、あぁわかった、今行く」
真乃が魔法陣の中央、少女の隣に着くと少女は満面の笑みを浮かべて……
「あ、すみません。ちょっと神力が足りないかも」
「へ?」
その言葉が、真乃が地球で聞いた、最後の言葉となった。
それではまた今度〜