女神と到達者
何故か、モチベが、高い……!?
街に入ることに成功した。
「……なんで?」
隣を見ると、クリシュがものすごいドヤ顔をして踏ん反り返っているいる。
体の前で腕を組み、胸を張っているため、決して小さくはないブツの主張が激しい。
「これが!女神の!力ですよぉ!」
「クリシュうるさい……」
「あ、ご、ごめんなさいルナさん……」
得意げに捲し立ててきたが、ルナにうるさいと言われてすぐにしゅんっとなっている。
ルナは初めて見る街並みに興味津々と言った様子であたりを見渡している。
「やっぱりクリシュが何かしたのか」
「はい、私が元春さんの浄化の力をランクアップさせたんですよぉ」
「ランクアップ?」
「女神から授かった力には熟練度というものがあります。これが一定までたまると授けた女神によるランクアップが可能になるんです。ランクアップするとその力を単純に強化するか、新しい力を目覚めさせるか選べるんですよぉ〜」
「俺、選んでないけど」
「そこは、その、さっきは時間がなかったから仕方のない事というか、あの場を切り抜けるにはこうするしかなかったというか……」
「……まぁ実際助かった、ありがとうクリシュ」
「いえいえ!お礼なんて、そんな……」
「てことは、今回のランクアップで手に入れたのが、さっきの植物を生やす力ってことか?」
「正確に言うと、成長を早める力ですね。植物に奇跡の力を与えることで成長させられるようになりました。元春さんが浄化したところには元々小さな雑草が生えていましたから」
「門番が植物を操る魔法と勘違いしてくれてよかったな。成長させるだけじゃ魔物を倒せないだろうし」
「そこは賭けでしたけど、上手くいったのでオッケーですぅ」
ひとまず元春は一安心したが、そこでふと疑問が浮かんだ。
「でも、あの時俺は浄化の力を使おうと念じたぞ?なのに植物成長の力が発動したっておかしくないか?」
あの時、どうなるかわからなかったが、取り敢えず浄化を念じた元春。
クリシュの言いなりだったが、使ったのは浄化の力だったはずだ。
「厳密に言うと植物成長の力は元春さんが使ったわけじゃないんですよぉ」
「えっ?」
「元春さんが拒まないでくれたので、元春さんの体を通して私が植物成長の力を使ったんです」
「……さらっとやばいこと言ってないか……?このコスプレ少女」
「あれ?何故か元春さんとの距離ができてしまった気がします……」
元春がクリシュの事をコスプレ少女呼びに戻したためか、クリシュは残念そうだ。
自分の体を通して勝手に力を使われたと分かって、元春は、これまで行動を一緒にしてきたとはいえクリシュの事を警戒せざるを得ない。
確かにあの時はクリシュを信じて、拒もうとなどとは思っていなかったが、それとこれとは話が別だ。
「そ、そんな身構えないでくださいぃ……。……私の説明の仕方が悪かったですね」
自分のミスのせいとは言え、かなりガッカリした様子でクリシュは補足説明を始めた。
「到達者と女神の関係はかなり密接なもので、女神は到達者に干渉する事が出来るんです。制限はありますけど、今回のように私が元春さんの体を通して力を使う事や、元春さんが貯めた熟練度を神力に変えることなど、様々な事が可能です」
「なんだよ、それ。それなら、制限があるっていっても、女神のやりたい放題じゃねぇのか?そんなの、到達者は道具みたいなもんじゃねぇか!」
事前に説明されていない事を聞かされ、激昂する元春。
確かに来ると最終的に決めたのは元春だったが、そんな大事な説明もなしに飛ばされたと考えると、その怒りも当然だろう。
「そのかわり!到達者も女神に干渉する事ができます」
「……あ?」
「到達者が拒めば女神は到達者の力を使えませんし、到達者もある条件下であれば神力を使えます」
「その条件は?」
「到達者が女神への信仰をやめ、使命を放棄した時です。そうなったら、女神の意思で到達者を元の世界に強制送還するしかなくなります。そうした場合、女神はペナルティとして力を封じられ、邪神として封印されます」
「それは……」
「女神は到達者の力を使える代わりに、リスクを負っているのですよぉ」
「……今言ったことに嘘はないな?」
「女神は大事なことは嘘がつけないんですよ。女神が嘘をつくと到達者に伝わるからです」
クリシュはそういうが、元春はまだ信じきっていない様だ。
「む、その顔は信じていませんねぇ?じゃあ証明してあげましょう!……こほん。私、クリシュは元春さんが到達者でとっても残念です!」
「!?」
クリシュがその言葉を言った瞬間、元春の目にはクリシュが何やら黒い靄の様なものをまとった様に見えた。
「靄みたいなのが見えますか?」
「……ルナ、クリシュを見てどう思う?」
元春は確認のため第三者であるルナを呼ぶ。
街を見渡し、探索したくてウズウズしているようだが、すぐに来てくれた。
「ん?どうしたの?クリシュはクリシュだよ?」
「黒い靄みたいなのが見えないか?」
「んー……」
そう言われ、ルナは目を細めてクリシュの事をよく観察する。
「見えないよ?気のせいじゃないの」
「そうか、ありがとう」
「?」
「じゃあ次です。私、クリシュは元春さんが到達者でとっても嬉しいです!」
今度は、何も起きなかった。
「えへへ……」
クリシュは頰を赤くしてれている。
すごく恥ずかしそうだ。
「これで、信じてもらえますか……?」
自分より背の高い元春へ、不安そうな上目遣いで見つめてくる。
「……あぁ、疑って悪かった!クリシュ!」
「い、いえ、私がわるかったんですよぉ!すみませんでした!」
お互いに謝り、少し気まずい空気が間を流れる。
「……元春さん」
「な、なんだ?」
「これからも、よろしくです!」
そんな空気を、クリシュは一言と笑顔で吹き飛ばした。
街の中は活気で溢れていた。
整備された広い石畳の道の両側には屋台が連なっており、様々なものが売っている。
ヴェストクラムにきてから食べ物を何も食べていない元春、その元春と行動を共にしていたルナは食べ物屋の前を通るたびに足を止めていた。
「うまそぉ……」
「じゅるり……」
「二人とも!止まらないでください〜!」
そのたびにクリシュが後ろから二人を押して動かしている。
「早く宿に行きましょう!日がもうほぼ落ちてますよぉ!」
「そう急かすなって、屋台を見る時間ぐらいあるんじゃねぇの?」
「クリシュ、慌てないで」
「慌ててないですよぉ。と言うか、見ててもどうせ買えないんですからさっさと行きましょうよぉ」
「うぐっ……そうだった……」
クリシュに言われて自分が一文無しである事に気付いた元春。
「お金、無いの?」
「そうだ、ルナ。もしかしたら、宿にも泊まれないかも」
「じゃあ何のためにここまで来たの?」
「もちろん、宿に泊まるためだぞ」
「……からかってるの?」
「……すまん、謝るからジト目で抓るのをやめてくれ」
ルナをからかいながら、元春はどうするか考える。
隣で謎の微笑みを浮かべているクリシュがいるが、これはおそらく諦めの境地にある表情だろう。
目が死んでいる。
「どうする、浄化で小銭稼ぎでもするか……?」
この世界は中世ヨーロッパと同じくらいの文明と以前クリシュが言っていた。
その頃は風呂が珍しく、体を綺麗にする方法は水浴びか拭くぐらいしかなかったはずだ。
洗濯機だってないであろう。
それならば、元春の浄化の力で綺麗にすることは商売として成り立つだろう。
「あー、えっと、そのぅ……」
「ん?なんだクリシュ、いい案でもあるのか?」
「いえ、そう言うわけではないのですが……」
「じゃあやっぱり浄化で小銭稼ぎを「それのことなんですが」……?」
「おそらく、浄化の力ではお金は稼げないと思います」
「なんでだ?もしかして、全ての家に洗濯機と風呂があるって言うのか!?」
「そうではなく……元春さん!前!」
「ん?ってうわっ!?」
「きゃっ!?」
クリシュと話しながら歩いていたせいか、元春は少女とぶつかってしまった。
「ごめん!怪我はないか?」
「う、うん……。でも、お兄さんの服が……」
見ると、少女が持っていた焼き鳥のような食べ物のタレがべっとりと元春のズボンについてしまっている。
「ありゃ、でもまぁこれくらいなら浄化で……「ちょっとじっとしててね、お兄さん」……へ?」
「クリアー!」
少女はそう声を上げ、元春に向かって両手をかざしてきた。
元春が呆気に取られていると、少女の両手が光り、それが伝播するかのように元春のズボンも光り始め……。
「……嘘だろ?」
「お兄さんごめんなさい!でも、これで綺麗になったと思うよ!」
「あ、あぁ、ありがとう。お陰でズボンが新品みたいだよ」
「私、この先の宿屋の娘なんだ!泊まるところを探してるなら是非うちに来てね!」
「うん、分かったよ」
「じゃぁね〜!」
「ハハ、またね……」
しっかりと自分の店を宣伝していったしっかり者の少女は瞬く間に人混みに紛れて見えなくなった。
もしかしたら、わざとぶつかってきたのかもしれない。
しかし、元春にはそんなことを気する事が出来なかった。
「なぁ、クリシュ」
「……」
「そんな青い顔して冷や汗かいてどうしたんだ?」
「い、いえ。なんでもないでございます」
「言葉使いもおかしいぞ?クリシュは面白いな、はっはっは」
「モトハル、目が笑ってない……」
「ところで」
「ひっ!」
「あんな年端もいかない少女が、俺が女神様から授かった有り難い、そりゃもう大変ありがた〜い力と似たような力を使ってたんだけど」
「えっと」
「なんなら俺の浄化よりもズボンが綺麗になってるんだけど」
「その、私が唯一授ける事が出来る浄化の力ですけど……この世界に普及している、クリアという一般市民でも使える魔法とそっくりのようでして……」
「……なんか、あれだな。色々残念だよな、クリシュって」
「〜〜!!でも、浄化はランクアップできますし!使用用途幅広いですし!」
「わかったわかった、浄化の方がクリアより凄いもんな〜」
「雑に遇らわないでください〜!」
「クリシュ、なんだか可愛そう」
「でも、浄化で稼げないとなるとどうすっか、植物成長の力で稼ぐか?」
「それもできなくはないと思いますが、ここは私に任せてください!」
そう言ってクリシュは懐から小袋を取り出した。
「それは?」
「本来到達者に最初に渡すはずのお金です!空間ごと消してしまったと思っていましたが、さっき元春さんとあの少女が話している時に懐にあるのを見つけました!」
……黒い靄がでない。
残念ながら、本当のようだ。
やはりクリシュはかなりのドジっ子らしい。
「クリシュ、えらい」
「そ、そうですかぁ?えへへ」
……元春を転移させる前に最初から渡しておけばよかったのでは?
ルナと同じように褒めて欲しそうな目を向けるクリシュに対し、元春は。
「やっぱ、いろいろ残念だわ」
「なんでですかぁ〜!」
女神の抗議する声が街に響いた。
まだまだ続くんです