日常に潜むピンチ
初投稿です。拙い文ですが、読んでくださると泣いて喜んだ気分になります。
そこは、白い壁で囲まれた閉鎖的な空間だった。
本来なら少しの安心感と休息を与えてくれるその場所は、その男、真乃 元春にとって監獄となっていた。
「どうして……まさか、こんな事になるなんて……」
普通なら少し低く感じるであろう壁が、今は途方もなく高く感じる。
「まだ……まだ、何か手があるはずだ……!考えろ、俺……!」
自分を鼓舞して考え始めるがあまり良い手が考え付かない。
数分間どうにかできないか悩み、最終手段は浮かんだ。
しかし、理性が邪魔をし、未だに実行できずにいた。
「いや……よく考えろ。ここに来るような奴はそうそういないんじゃないか……?」
そう。真乃自身がどうやってここまで来たか覚えていない程、この場所までの道は入り組んでいた。
さらに、周りには人気があまり無いボロアパートや古い住宅しかないのだ。
「これは……最終手段を実行しても、一番恐れている事態にはならないんじゃ……」
悩み、考え始めてから早15分。真乃は自分に大丈夫だと言い聞かせ、徐々に勇気を持ち始めた。
「そうだよ……俺が出てくるタイミングで偶然人に会うなんて事あるか?そんな奇跡、ありえねぇだろ……」
決心が付いたのか、真乃は出来れば上げたくないと思っていた腰をあげる。
「重要なのはスピード……小さい頃、親父の趣味に巻き込まれてやらされていたカバディのフットワークが、こんな形で活される事になるとはな…………よし、いける!」
そこからの真野は速かった。残り一枚の短い紙をパンツの上に置き、緩くズボンを履く。
鍵を外しドアを開け放つと、全身全霊を傾けて隣のドアノブへと手をかけ……
ガチャッ!!
「んっ⁉︎」
あまりにも予想外すぎてマヌケな声をあげる真乃。絶対に誰もいないと思っていた隣の部屋に鍵が掛かっている。
「こんなに早く辿り着くなんて……ありがとうございます!」
「は?……⁉︎」
さらに中から女性の声がして、呆けた声を出した真乃は、周り景色が変わっている事に気づいた。
真乃が元いた[人気のない公園のトイレ]が[天から光が差し込む水晶で囲まれた部屋]へ変化している。
「な……何で……?」
「言葉が出ませんか?……驚くのも無理はありません。ですが、ようやく辿り着いたのですよ。そう!此処こそが貴方が長年探し求めていた[到達点]なのです!」
(俺が探し求めていた……?つまり、ここにトイレットペーパーがあるってことか?見た感じ、無さそうだけど……)
真乃は周りを見渡したが、トイレットペーパーらしき物は見当たらない。
辺りは一面透き通った水晶で囲まれており、改めて見るとなかなか幻想的だ。しかし、部屋のど真ん中に先程のトイレの個室がありシュールな光景となっている。
今もそこから女性が「ついに貴方は……」とか「こんなに早く来るなんて……」などと言っている。
「あのーすみません……」
「私はなんて幸運なんでしょう……これで、やっと……」
「あの……?」
「ああっ!すみません!私ったら、つい……何ですか?到達者よ」
「その到達者?ってのはよくわかりませんが、此処に俺が探していた物があるんですか?」
「物というか、力と使命ですね」
「力?使命?」
「貴方はそれを求めて今まで到達点を目指していたのでは?」
「いや?」
「は?」
「へ?」
「では、なぜ此処に?」
「俺が知りたいですよ……。というか、その個室の中どうなってるんです?なんか、さっきから偶に機械音がするんですけど……」
そう言って真乃は中を確認するために個室の壁に手をかける。先程までは危機的状況だったので気付かなかったが、壁は意外にも頑丈で、しかし少し登れば覗ける程の高さしかなかった。
「ちょ⁉︎ダメです!覗かないでください!色々とマズイですから!」
「なんでですか?」
「女性が入ってる個室ですよ⁉︎どうやったら覗くという考えが浮かぶんですか!」
「人とズレてるって偶に言われるんですよ。多分、こういう所がズレてるんですね」
「知りませんよ……そんなこと。とりあえず、質問に答えて下さい」
「詳しく聞きたいですか?」
「?……出来れば、詳しく聞きたいですけど……」
「いいでしょう。俺が未だにズボンを緩く履いている理由を教えましょう!」
「そんな事聞いてないんですけど⁉︎」
話題を逸らしてやり過ごそうとした真乃だが、無理があったようだ。
「冗談ですよ。実は、偶然入ったトイレがここだったんです。到達点とか言う大それた場所だなんて知らなくて」
「えぇ……。何かここにくるまでにありませんでしたか?迷路みたいに入り組んだ道とか、妙に人気の無い建物とか」
「確かに道は入り組んでましたけど、迷路ってほどではなかったと思いますよ?建物はボロアパートとかはありましたけど、不思議なものは何も……」
記憶を探ってみるが思い当たるものはない。
「妨害を受けなかった……?じゃあ、本当にこの人が選ばれた到達者?」
「さっきも言っていましたけど、その到達者ってのは何なんです?」
「……そうですね。知らなかったとは言え到達点に辿り着いたのですから、知る権利はあるでしょう」
そう言うと、女性は説明を始めた。
到達点とはこの世界に定期的に生成される場所であり、その場所には女神が配置される。そして、初めに辿り着いたもの、到達者に力と使命を授け、異世界ヴェストクラムへ招待するのだと言う。
「そして、ヴェストクラムに来た到達者は女神から授かった使命を果たす為に奮闘するわけです!」
「つまり、適当な場所に女神さまがいて、そこに偶然来た人を到達者として煽てて女神さまの願いを異世界で叶えさせるって事ですか?」
「そんな言い方しないでください!すごく悪い事をしてるみたいじゃないですか!」
「実際そう言う事じゃないんですか?」
「到達者は偶然来た人ではありません!この世界でその女神を信仰していた人の中から選ばれるんですよ。それに、ヴェストクラムへは招待するだけですから、くるか来ないかは自由なんです。まぁ、来ないなら授かった力は使えませんが……」
「でも、それだとおかしいですよ。俺、貴方の事信仰してませんもん。我が家は代々無宗教なんです」
「そこなんですよねぇ……。本来なら、選ばれた信仰者は到達点を目指すよう、私から天啓を受けるんです。私が天啓を送ったのが5年前で、普通は10年後くらいに到達者が現れるのですが……」
「だから、こんなに早く……とか呟いてたんですね」
真乃は5年前の事を思い返してみる。5年前と言うと、まだ地元で高校生だった。ありきたりな青春を送っていたと思うが、天啓なんて受けただろうか?
「んー……心当たりがないですね」
「洗効神社って聞いた事ないですか?」
「えっ?近所にあったあのボロい神社の事?」
「うっ……ボロいのは認めます。よくそこへお参りに行きませんでした?」
「行った行った!そこで確か……あぁ‼︎」
「思い出したようですね……私も忘れてたので強くは言えませんが……」
「みっちゃんに貸した金返してもらってねぇ!あの野郎、何が[神様の前でする約束だから絶対守る]だ!何も守ってねぇじゃねぇか!」
「何を思い出してるんですか!そんな事じゃなくて!
狐耳の生えた少女と約束を交わしたでしょう⁉︎」
「んっ?ああー……思い出した……」
「良かった……」
「あの自称神様のコスプレ少女の事ですよね?」
「嫌な覚え方してますね……」
ガチャッ!
「え?」
「思い出したのなら、もう隠れている必要もないでしょう」
急に女性が入っていた個室の鍵が開いた。真乃が驚いているうちにドアが開いていく。
「女神って言うと大人の女性のイメージがあると思って用意した変声機も、もういりませんね」
大人な女性の声が少しだが幼くなっていく。
開いたドアの、その先にいたのは……
「お久しぶりです。確か……元春さんでしたっけ?」
5年前から少しだけ成長し、高校生くらいになった和服に狐耳の少女だった。
確認はしていますが、誤字脱字が有りましたらすみません。