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心のない僕と泣けない君。  作者: 星月 はぐ
1/1

白い部屋の僕。

初めての小説投稿でわからないことだらけですが、よければ読んてみてください。


これからよろしくお願いします。




全て全て

僕らはいつだってないものねだりだ。





僕はこの白い部屋しか知らない。

体に付けられた様々な機械。

毎日決まった時間に決められた分量飲まされる薬。

定期的に行われる点検。

それが僕の世界のすべてだ。

僕はそんな小さな、小さな世界の中で1人生きてきた。


夏は暑いだろうし、冬は寒いだろうけど、

この白い部屋の中は常に快適な温度に設定されているから、僕にとって「季節」なんてものはあまり関係なかった。

行動できる範囲も限られているから、

僕はあまり運動も出来ずに体も弱かった。


僕は基本的に母親と、妹としか会話をしない。

妹はまだ小学生で、学校があるから、会えるといっても週に数回。

母さんはほぼ毎日僕に会いにくる。テレビや小説で見るように、優しい笑顔を向けて、絶対僕の前で泣いたりしない。


僕はまだ記憶にない程小さい時にここに来て、

17歲の今もここにいるから、

外は今どんな感じなのか、学校や友達はどんな感じなのか、

そんな事は一切知らないし、

知らないからこそ、特に物欲もなかった。






…はずだったんだ。




ーー----------------




部屋にいても退屈なので、少し歩こうと思い、

白い部屋から出て2階にある小さな中庭に行った日がある。

その日の事は今でもよく覚えてる。

夏も近付いて、少しずつ暑くなる日々のある1日。



女の子が1人中庭の端にあるベンチで今にも泣き出しそうだった。

僕がいるこの白い建物の中では、

涙を見ない日は無い、というくらい毎日誰かの涙をみてきた。

もう助からないとか、苦しいとか、悲しいとか、そういう負の感情をたくさん見てきた。


でも、その女の子はなんだか違った。

顔を真っ赤にして泣くのを堪えていて、

膝の上に乗せた靴をぎゅっと握りしめていた。

あぁ、きっとこの子は足を怪我したんだ。そう思った。


なんとなく目が離せなくて、

じっと見つめていたら、

自分でも気付かない内に彼女の前に立っていた。

彼女は顔をあげて僕を見る。



ほんの数秒だったけれど、

僕にとっては長すぎる沈黙が続いた。



「…綺麗」

最初に口を開いたのは彼女だった。

自分でも無意識に口に出してしまったのか、ハッとした表情で、すぐに、いきなりごめん、と謝ってきた。

…綺麗だなんて、初めて言われたし、僕の何をみて、そんなことを思ったんだろう。

「僕のどこが綺麗なの?」

こんな風に自分が人に話しかけるなんて事は初めてで、自分でも戸惑っていたけれど、何故だかはなしをしてみたくなった。

僕は彼女の隣に腰をおろして聞く。

「えっ、あ、えっと…言葉で言えない感じ。」

「何それ。初対面で普通綺麗だなんて人に言うもの?」

「でも、普通無言で近寄ってきて見つめる人もいませんよ」

「確かに、そうかもね」

お互いに名乗りもしないし、自分の事も何も話さなかった。

でも、自分が自然に会話できている事に1番驚いていた。

「此処に入院されてるんですか?」

「うん、ずっと昔からね。」

「へぇ、その胸のあたりについてるのは?」

「よくわからないけど、僕の命はこの装置に左右されちゃうみたい。僕の心臓みたいなものかな」

彼女は、僕の胸元をじっと見つめる。


僕の胸には小さな機械がついている。

これが、僕の心臓の動きを調節しているらしい。

僕の心臓の小さな変化までもを読み取って、正しく動くように信号を送る。簡単にいうとそういう機械らしい。


「なら、私でいうこのシューズみたいなものなんだ」

彼女はゆっくりと膝の上の靴に視線を落として一瞬だけ悲しそうな顔をした。

でもそれはほんの一瞬の事で、すぐにまた彼女は顔をあげて、

僕らはお互いに何も知らないのに、色々な話で盛り上がって、笑った。

気付けば、夕食が近づいていて、彼女の母親らしき人が車椅子をひいて、彼女を迎えに来た。

僕らはまた、と挨拶をしてそれぞれの部屋に戻った。



部屋に戻ってからも、彼女の事が頭から離れなかった。

部屋の番号も、どれ位入院するのかも、何も知らないけれど、何故かまたすぐに会える気がした。

家族以外の人と笑い合う日が来るなんて、全く想像していなかった。





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