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第1部 第5話「なんてこった!?」

 カーシャちゃん考案の『おしゃれ泥棒大作戦』の実行日から2日が経ちました。

 あの作戦の後『ライラの写本』はカーシャちゃんが自宅で解読するからと言って持っていってしまったのですが……どうなったのでしょうか? 連絡すらありません。

 ハルカは椅子の深く腰を掛けながら、両手を天上に向けていっぱいに伸ばした。

「はぁ〜いつになったら家に帰れるのかなぁ」

 その問いにルーファスはまるで他人事のように答えた。

「さぁ、いつだろーねぇ〜」

「ってあんたのせいでしょ!」

 ハルカは床に落ちている魔導書をさっと拾い上げるとルーファス目掛けて投げつけた。ゴン! という音とともにルーファスの首がガクンと曲がり、そのまま床に身体が倒れ落ちた……。

「……(当たっちゃった)」

 ルーファスは身動き一つしない。

「ル、ルーファス!! だいしょぶ!?」

 ハルカは凄まじい勢いでルーファスに近づき膝を付いて床に倒れる彼の身体を思いっきり揺さぶった。

「ル、ルーファス!!」

 返事がない。ハルカはかなり焦って、ルーファスの上半身を起こして肩をガシっと掴むとルーファスだけが大地震に見舞われた。ルーファスの首がガクガクと揺れている……骨折れてないか?

「ねぇ、返事してよぉ〜!!」

 ハルカは思った。

「(殺したかも……ショック!!)」

 ハルカ的大ショックのあまりハルカの身体からは力がすぅーっと抜けていき、支えを失ったルーファスの身体がパタンと床に転がった。ゴン! 床に頭がぶつかった。

「(殺っちゃった……)」

 灰色の世界が辺りを包み込む。

 ハルカはまばたきをせずに首をゆっくりと直線移動だけで動かし、床に転がるルーファスを見下ろした。

「……るーふぁす……生キテル?」

 ハルカの呼びかけに対して、返事がない……ただの屍のようだ(byド○クエ)。

「あぁぁぁぁぁっっっ〜〜〜!! 殺っちゃった!! どうしよう、どうする、何が、いつ(When)今日、どこで(Where)この家で、誰が(Who)私が、何を(What)ルーファスを殺した、なぜ(Why)不可抗力で、どのようにして(How)分厚い魔導書を投げて、なんてこったい!!! (Oh my God!!!)」

 ハルカは完全にパニクっていた。メダ○ニ!(by○ラクエ)

「(どうする私……!?)」

 ハルカは思いついた、ハルカ的に完璧な作戦を。


 作戦はこうだ。まずハルカちゃんは物置に行きます。そこでスコップを見つけ出し庭に行きます。庭についたら大人がひとりくらいが入れる穴を掘ります。そして、掘った穴に先ほど殺害してしまったルーファスを入れて土をかぶせてあげます。それが終わったら、手を綺麗に洗って、ルーファスを殺害した魔導書を焼き捨てて証拠を隠滅しましょう。全部の過程を終わらしたら、何食わぬ顔をして紅茶でも飲んで一休みしましょう。

「か、完璧だわ」

 ハルカはこぶしにぎゅっと力を入れて目を輝かせると、さっそく作戦を実行に移した。まずはスコップを探し出し、次にルーファスを庭まで運ぶ。

 スコップを直ぐに手に入れ第一肯定をすんなりとこなしたハルカは次にルーファスの足を掴むと、力いっぱい引きずった。

「(重い)」

 そして、そのまま庭まで引きずって行った。途中何度か手に伝わる振動とともにゴン! という鈍い音が聴こえたが気にしない、だって相手は死んでるんだから、エヘッ♪。

「あははは〜、早く穴掘んなきゃねぇ〜」

 ハルカ完全にイッてしまっていた。しかし、作業は冷静かつ淡々としていた。……やっぱりしてなかった。

 穴を掘るハルカの姿はまるで悪魔にでも取り付かれたようで、

「きゃはは、きゃはは」

 と奇声を上げながら一心不乱に掘っていたし、穴を掘るスピードも異常なほど早かった。

 穴を掘り始めて、3分ほどで大人ひとりがすっぽり入れる穴が掘れた。……落とし穴を掘ったことのある人ならわかるだろう、3分というスピードが異常な早さだってことが。

「はぁ……はぁ……(これだけ掘れば)」

 ハルカの肩は大きく上下に揺れていた。あったりまえだ、穴を掘るというのはかなり重労働なのだから。しかも3分って、あんた凄いよ賞を授与してあげたいくらいだ(そんなのないけど)。

 一息ついたハルカはルーファスの足を掴んで、ぐるん、ぐるんと遠心力を使ってジャイアントスウィング風に掘り終えた穴にルーファスを投げ込んだ。

「(ひと段落完了)」

 ひと過程を終わらしたハルカは先ほどの穴掘りの疲れがどっと押し寄せ、倒れ込むようにバタンと地面にしりもちを付いた。

「は〜、疲れた……」

 空を見上げると青空に太陽が輝いている……日差しが目に沁みる。

「(空って何であんなに青いんだろう?)」

 空を眺めるうちにだんだんと落ち着きを取り戻してきたハルカはことの重大さが今になってわかってきた。

「(……ヤバイ。人を殺して埋めちゃおうなんて、私どうかしてた。もし、こんなところ人に見られたら)」

「こんばんわ」

 突然ハルカの耳元で声がした。

 ハルカは頭を動かさずに目だけを動かし横を見ると、人の顔が自分の肩の所に後ろからニョキって出てる……。

「こんばんわハルカ、今日は日差しが強いな……」

「カ、カーシャさん!?」

 ハルカは思わず声を張り上げた。

「どうしたのだ、そんなに慌てて」

「な、なんでカーシャさんが!?」

「どうしてって魔導書のことで来たのだけど」

「そ、そうですか、じゃあ家の中で話しましょう(ど、どうしよう)」

「そうだな、そうしよう。……ところでルーファスはどこにいるんだ?」

「えっ、ルーファスですか、ルーファスは、えーと、その、……どこ行ったんでしょうね、あはは(言い訳が思いつかなかった)」

「そうか、ではあの穴は何だ」

 と言ってカーシャは前方の穴を指差した。

「あ、あの穴は……大モグラがさっき当然現れて……(大モグラって何? 言い訳苦しすぎ)」

 少しの間沈黙があったがカーシャがその沈黙を破った。

「そうか大モグラが……(大モグラが……ふふ)」

「そうなんですよ大モグラが」

「では、その大モグラがルーファスを殺害して、穴を掘ってジャイアントスウィングで穴に投げ込んだわけだな」

「うっ……(もしかして、見られてたの)」

「どうした、顔が青いぞ(……ふふ)」

 ハルカは完全に観念して自白した。

「ご、ごめんなさい、私がやりました(もう、サイテー)」

「……見てた」

 カーシャはルーファスが死んだというのに、しかも殺害したのがハルカだというのに全く驚きもしなかった。冷静なのか冷血なのかどうちらなのだろうか?

「いつから見てたんですか?」

「魔導書を投げたところからだ(……シュッ!! ……ゴン!! ……バタン!!)」

 カーシャは一部始終を見ていたらしい。

「ど、どうしましょうカーシャさん」

 ハルカはカーシャに抱きつき泣き崩れ、助けを求めた。涙がまさに滝のように流れている。

「……海に沈めてしまうのがいいのではないか?(コンクリートで固めて……)」

 ハルカは涙目でカーシャを見上げている。

「(カーシャさん、そうじゃなくて)……うわ〜ん、もう私の人生終わりだわ」

「そうだ、そんなことより魔導書のことだが」

「そうだじゃなですよ、今はそんなことより(ルーファスが死んだんですよ……私が殺したんですけど)」

「そうかじゃあ」

 そう言ってカーシャは庭を見回し、庭の片隅に立てかけてあった大きめのベニヤ板をよいしょっと持ち上げて穴の上にパタンとかぶせた。

「これひとまず安心だ(たぶんだが)」

「安心ってベニヤ板かぶせただけじゃないですか!」

「細かいことは気にするな」

 決して細かいことではないぞカーシャ。

「だ、だって、カーシャさん」

 カーシャは急に真剣な顔つきになって、

「さて、外は日差しが強い、中でゆっくり話をしよう」

 と言うとカーシャはさっさと家の中に入って行ってしまった。

「カ、カーシャさん、待ってくださいよ〜」

 ハルカも仕方なく取り合えずカーシャに続いて家の中に入って行った。


 家の中に入ったカーシャは至って普段どおりで、勝手に自分で紅茶まで入れて飲んでいる。

「済んだことは仕様がない、ルーファスのことは諦めろ(……1分間の黙祷を捧げます……Zzzz……ふふ)」

「カーシャさん、どうしてそんなこと言うんですか!」

「じゃあ生き返らせるか(ザオ○ク!)」

 カーシャはさらっと言い放った。

「えっ……?(生き返らせる?)」

 ハルカの中だけで時間が少し止まった。その間ハルカは全頭脳を集結させ、『生き返らせる』という言葉を検索したが出た答えはやはり死者をこの世に呼び戻すという意味だった。

「……(まさか……死んだ人を……生き返らせるなんて)」

「信じていないのか?」

 ハルカは首を横にぶんぶん振ってこう言った。

「そ、そんな……でも(でもぉ〜)」

 カーシャは目を細めハルカを見つめ、ふんと鼻で少し笑った。その顔は自信に満ち溢れている。

「この前博物館で借りた、ライラの写本の中に『死者の召喚』についての記述があった」

「(借りたんじゃなくて、盗んだんでしょ)死者の召喚ですか?」

「そうだ、おそらく死者を蘇らせる召喚魔法の類だと思うが(たぶんだが)」

 また、たぶんですか? カーシャさん!

 不安はいろいろとあったがハルカの両拳には力が入っている。

「じゃあ、早くやりましょうカーシャさん」

 ハルカの目は希望と言う名の輝きに満ち溢れていた。


 てことでカーシャとハルカはさっそく『死者の召喚』をルーファス宅の地下室で行うことにしました。

 この地下室はルーファスが魔法の実験などをするために特別に作った地下室で、中は異常なまでに広く壁は頑丈に出来ていて決して外に魔法の影響が漏れないようになっている。

 召喚の方法は意外に簡単で魔方陣を描いて、呪文を唱えるだけだそうです……カーシャさん曰くですが。

 さっきから、ず〜っと不安でたまらないハルカはカーシャに聞いてみた。

「本当にこれだけでいいんですか?」

 ハルカはかなり不安そうな顔をしてカーシャを見つめた。

 カーシャは何故かハルカと目線を合わせようとせず、淡々と魔導書(ライラの写本)を広げながら、魔方陣のミスがないかチェックをしていた。

「あのカーシャさん」

 ハルカはカーシャの顔を覗き込むように見ようとしたが、ハルカと目線が会いそうになると、不自然なまでに身体をくるって回して方向転換をしたり、突然上を見上げて考え事をしているフリをした。

「魔方陣は完璧だ、後は呪文を唱えるだけが、心がまえはいいか?」

 やっとこの時カーシャはハルカの方を見て目線を合わせてくれた。

「はい、いつでも(でも何かちょっと不安になってきた……)」

「それでは、呪文の詠唱を始める」

「……(ごくん)」

 ハルカは緊張のあまり唾をごくんと飲み込んだ。

 カーシャはゆっくりと目を閉じ、魔導書を両手でパタンと閉めて、魔導書の表紙の上に右手をゆっくりと乗せた。どうやらこの魔法を使うためにはこの魔導書の表紙に手を乗せて呪文の詠唱をしなくてはいけないらしい。

「ライラ、ライララ、リリラララ……」

 カーシャが歌を詠うように呪文の一節を唱え始めると同時に彼女の立つ地面の下からやわらかい風のようなものが巻き起こり、衣服を揺らし髪の毛を上に舞い上げた。

「……(すごい、これが本物の魔法なんだ)」

 ハルカはちゃんとした魔法、これが魔法なんだと思えるものを今まで見たことがなかった。『美人魔導士のいる店(カーシャの魔導ショップ)』での事件の際はハルカは気を失っていたし、『おしゃれ泥棒大作戦』のときはルーファスが凄いスピードで走ってるのを見ただけだったし。

 カーシャちゃんの呪文詠唱はまだ続いている。

「ルラ、ルララ……死者の首を狩りし、太古の神よ、我は貴方の名を呼ぶ……B.B.Azrael」

 カーシャの身体が突然黄金の輝きに包まれた。これは強力なマナがカーシャの身体に注ぎ込まれている証拠だ。

 ハルカは目の前で起きていることに圧倒された。

「(カーシャさんってすごい人だったんだ)」

 ハルカはそう思った。

 カーシャの呪文詠唱にチカラがこもる。

「慈悲を知り、悲しみを知る神よ、我の願いをどうか聞き入れて下さい。闇の中で眠る……」

 とその時地下室を駆け下りてくる大勢の足音が!

「…………(何!)」

 とハルカが思ったときにはすでに彼女の目の前には大勢の兵士たちが現れ二人を取り囲んでいた。ハルカには何が起こったのか全くわからなかった。

 兵士の中から他の兵士とは違うりっぱな鎧を着た威厳のありそうな男が前に出てきてこう言った。

「おまえたちだな、南居住区の大爆発事件を起こしたのは!」

「……大爆発?」

 ハルカには何のことか最初はわからなかったがすぐにあることが頭を過ぎった。

「(私が気を失っていたあのときのこと?)」

 そう、大爆発事件とはハルカが巻き起こした、カーシャの魔導ショップから半径1kmを爆風によって吹き飛ばしてしまったという、あの大事件のことだった。

 兵士の手がハルカに伸びる。

「さぁ、来てもらうぞ」

 ハルカとカーシャは兵士に腕を掴まれ連行されそうになるがハルカは必死に抵抗しようとする。

「放してください!」

 ハルカは兵士の腕を振り払おうとしたが鍛え抜かれた兵士の力に敵う筈もなく、取り押さえられ自由を奪われてしまった。

「カーシャさん!!」

 ハルカはカーシャに助けを求めようと彼女の名前を叫び彼女を見ると、カーシャは兵士に腕を掴まれながらも呪文の詠唱を続けていた。

「厚い氷の壁に閉じ込められた魂を……」

「呪文の詠唱を止めないか!!」

 そう言ってひとりの兵士が魔導書に置かれたカーシャの手を放そうとしたが、カーシャは腕に力を込め決して放そうとせず、呪文の詠唱を続けた。

「愛する者の名を呼ぶ……」

「やめろと言っているの聴こえんのか!」

 ついに兵士は業を煮やし、カーシャの腹を殴った。

「うっ……(しまった)」

 カーシャは腹を押え地面に膝を付いた。

「二人を連れて行け!」

 兵士はカーシャを取り押さえようとして彼女に近づこうとしたとき、カーシャがこう呟いた。

「お前たち……自分たちがした、ことの重大さがわかっているのか?」

 その声は低く、まるで氷の響きを持った呟きでこの場にいた全てのモノを一瞬にして凍りつかせた。

 カーシャは腹を押えながらゆっくりと立ち上がり言葉を続けた。

「魔導書にはこう記してあった、途中で呪文の詠唱を止めてはならない、もしそのようなことがあれば、大地に大いなる災厄をもたらしたり。と」

 唾を飲み込む音が地下室に響いた。

 ようやく、氷の呪縛から開放された兵士たちの隊長らしき男が力いっぱい腹の底から声を出した。

「そ、そのような戯言を!!」

 カーシャはその男を鋭い目で睨みつけた。

「たわけが……この強いマナの波動を感じないか?」

 カーシャがそう言った刹那、魔方陣は強い光を放ち爆風を巻き起こしたと同時に白い影が、黄金に輝く白い影がゆらめきながら魔方陣の上に浮かび上がった。

 この場にいた者達が一斉にどよめき始めた。

 白い影は強い輝きを放つと同時にもの凄いスピードで部屋中を不規則に飛び回り、途中影に触れた兵士達を次々と八つ裂きにしていった。そして、光は急に止まったかと思うと、ハルカ目掛けて飛んできた。

「避けろハルカ!!」

「えっ!」

 ハルカは急に襲ってきた影から逃げることもできず、影の直撃をくらったと同時に不可思議な現象が起きた。光り輝く白い影がハルカの体内に吸収されていくではないか。この場にいた者は今、自分の目の前で何が起こっているのか全く理解できなかった。

 ハルカは自分の身体に吸い込まれていく何かを目の当たりにしながら何もすることができなかった。

「(光が……熱い光が私の中に……意識が薄れて……)」

 次の瞬間、ハルカの身体がビクンと鼓動を打つと同時に爆風がハルカを中心として円状に巻き起こった。

 カーシャは足に力を込め腕で顔を覆った。そして、爆風が治まったの確認すると腕をゆっくりと下げハルカを見た。

 ハルカの姿は前となんら変わらない。しかし、身体から発せられているマナが違う。ハルカの持つマナとは違う波動が感じられる。

 ひとりの勇敢な兵士がハルカに斬りかかった。だが、その兵士はハルカに睨みつけられただけで後ろに吹き飛ばされ壁に強く叩きつけられた。

 それを見ていた他の兵士の大半がこの場から急いで逃げ出し、残った数人の兵士は恐怖のあまり身動き一つできず、またある者は怪我で負傷して逃げることができす、またある者数人はハルカに勇敢にも立ち向かったがあえなく全員壁に叩きつけられ意識を失った。

 カーシャはその一部始終を見ていたが何もすることができなかった。彼女はこの場に立っているだけで精一杯だったのだ。

「(ヤバイ……このままじゃ私もやられる)」

 カーシャはハルカから少しも目を離さなかった。彼女の頬に冷たい汗が流れ地面に滴り落ちる。

 ハルカがゆっくりとカーシャに近づいて来た。その足並みは一歩一歩がとても重く威厳のある歩き方だった。

「(…………)」

 カーシャは汗のかいたこぶしを強くぎゅっと握り締めた。

 ハルカはなおもカーシャに近づいてくる。そして、カーシャの2mほど前で止まり口を開いた。

「お前が私をこの世に蘇らしてくれたのか?」

 ハルカの声はハルカの声であって、いつものハルカの声ではなかった。とても冷たく重い声だった。

 カーシャは唾をごくんと飲み込むと、こう答えた。

「……そうだ」

「そうか、それは礼を言う」

 ハルカは邪悪な笑みを浮かべた。あれはハルカの顔であったがハルカの表情ではなかった。まさに悪魔というにふさわしいものであった。

「……お前は何者だ?」

 カーシャはこう言いながらこぶしに一層力を入れて握った。カーシャのこぶしの間からは鮮血が滲み出していた、彼女はこぶしを強く握ることにより、精神を保っているのだ。

「私は名も無き魔の王だ」

「(あいつの変わりに魔王を蘇らせてしまうとは、とんだ誤算だ……笑えない……ふふ)」

「私を蘇らせただけのことはある、お前からは強いマナの波動を感じる。だがこの娘のマナに比べれば取るに足らん」

「そうか、それでハルカの身体を器に使ったのだな」

「そうだ、魂だけでは自由に身動きすることすら困難だからな」

 そのために兵士たちはカラダの制御がうまくできない魔王によって八つ裂きにされてしまったのだ。

「女、お前は私をこの世に蘇らせてくれた褒美に殺さずにいてやろう」

「それはありがたいが……私はおまえをもとの暗黒の世界に戻さねばならない!」

「せっかく私が与えてやった命だというのにそんなに死を急ぐことはないだろう」

 カーシャは手の平に炎の玉を出し魔王に投げつけた。

「許せハルカ!」

 炎の玉は見事ハルカの顔面に当たった。……だが、消炎の中から現れたハルカの顔には火傷のあと一つなかった。

「(……まさか)」

「ハルカか……遥かな時の中から蘇りし私に相応しい名前かもしれんな。その名前使わしてもらおう」

「(魔王ハルカか……今回はシャレにもならんな、さっきはハルカの身体だと思って手加減してしまったが今度は)」

 カーシャは両手に意識を集中し、鋭い氷の刃を作り出しハルカ向かって撃ち放った。がしかし、魔王ハルカが手を氷に向けてかざすと氷は見る見るうちに溶け始め水蒸気と化してしまった。

「(やはりこのままではマナが足りんか)」

「女、次は容赦しないぞ」

 魔王ハルカはそう言うと、腕を大きく横に振り真空波を放ちカーシャを壁に叩きつけた。

 壁に叩きつけれた、カーシャの口から鮮血が吐き出される。

「ぐはっ(ここまでか……ふふ)」

 カーシャの全身からは力が一気に抜けていき足から崩れるようにして地面に倒れていった。

 魔王ハルカはそんなカーシャには目もくれず、マナを集中させ辺りのモノをなぎ払い天高く天井を突き破って飛び去って行ってしまった。その衝撃は凄まじく魔王が飛び立つ際には地下室諸共ルーファス宅を全壊させてしまうほどのものだった……。


 ルーファスが死に魔王が復活しカーシャはその魔王によって倒されてしまった。物語はここに来て急展開を迎える。この世界は、魔王に身体を乗っ取られてしまったハルカの運命は……?

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