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第1部 第3話「ライラの写本が」

 ハルカはふと思ったことがある。

「(なんで言葉が通じるんだろ?)」

 ハルカがこっちの世界に来て1週間の月日が流れようとしていたのだが……。今更だがハルカは初めてこの疑問を心に抱いた。今まで普通にこっちの世界の人々としゃべっていたのでそんなこと思いつきもしなかったのだ。

「(不思議だ?)」

 一生懸命考えるハルカであったがそんな理由などわかるハズもなく、考えるだけ無駄だと思う。それでもハルカは考えて、考えて、考えているうちにそのことで頭がいっぱいになってしまい彼女を呼ぶ声など耳に届かなかった。

「ハルカ聞いてる?」

 ルーファスの呼びかけにハルカ無反応。

「ねぇ、ハルカ!」

 ちょっと強めに言ったがそれでも無反応。そんなハルカを気付かせたのはこの人だった。

「……こんばんわ」

 と、ちょっと低く呟く感じの声と同時にカーシャが二人の前に忽然と姿を現した。

「わぁ!」

 突然のことにハルカが声を上げる。

「すまない、驚かしてしまって(わざとやったのだけど……ふふ)」

 カーシャは歩くとき足音を立てない、しかも気配もない、それにプラスして考え事をしていて周りに気付かなかったからハルカにはカーシャが自分の前に突然現れたように思えたのだ。そりゃービックリだ。

「いきなり現れないでくださいよぉ(あ〜ビックリした)」

「すなない、急用だっだのでな」

 カーシャの急用とはいったい何なんだろうか? でも急用の割には急いだようすもなく、声もいつもどおり淡々とした口調で元気でも元気に聴こえない低く呟く感じの声だった。

「急用について話する前に……ルーファスお茶!」

 ちなみに今の言葉は前半がゆっくりで後半の『ルーファスお茶!」は早口で強めの言い方になっていた。

「はぁ!?(なんだよ、いきなりお茶って)」

「急いで来たので喉が渇いた」

 カーシャの命令でルーファスはしぶしぶ渋茶を台所に入れに向かって行った。しかし、なぜルーファスはこうもカーシャの言うことをすぐに聞いてしまうのだろうか……?

 でカーシャはここに何しに来たの? ってことをやっぱりハルカも気になったらしくって、

「それで急用ってなんですか?(イマイチこの人のことわからないなぁ)」

「ライラの写本がな」

 その言葉に強く反応したルーファスはものすごーい勢いで走って戻って来てこう言った。

「ライラの写本だって!?」

 ハルカには何のことだかわからなかったけど、何となく気を引かれた。

「あの、ライラの写本って何ですか?」

「ルーファスお茶!」

「今持ってくるよ(人使いが荒い)」

 ハルカの質問は完全に無視されていた。ハルカ的に大ショック! それでもハルカはめげない。

「あの、ライラの……」

 ハルカの言葉は見事に遮られた。

「濃い目に入れてくれ!!」

 と言う声に反応して台所の奥からルーファスの声が、

「わかった」

 ハルカ的大々ショック!! しかし、ハルカはまだめげない。

「あの、ラ……」

「ルーファス! 茶菓子にようかんを持って来たのでお皿とナイフとフォークを頼む!」

「あぁわかった!」

 ハルカは思った、いじめだ!

「あのカーシャさん、わざとやってません?」

「ん、何がだ……?(バレたか)」

 カーシャは確信犯だった。しかも、シラを切り通した。

「どうした、ハルカ? 何かあったのか?」

「何かあったじゃなくて……ライラの」

「そうそう、ルーファス植木屋のゲンさんが倒れたって話は聞いたか?」

「ぇえ、あのゲンさんが!」

「…………(確信犯だ!!)」

 とハルカは確信した。

 お茶を入れ終えたルーファスが戻って来た。手に持ったおぼんの上にはお茶が3つにお皿が三枚ナイフが一つにフォークが3つしっかりと乗っていた。

「ゲンさんが倒れたって本当?」

「嘘だ(何となく思いつき)」

「カーシャさん私のことからかってるんでしょ(性格の掴めない人……)」

「からかっているのではない、おちょくっているのだ」

「…………(どっちも同じでしょ)」

 二人の会話を不思議そうに見つめていたルーファスが一言、

「何の話してるの二人とも?」

「さてとではお茶を飲みながらようかんでも食べるか」

「わー、こっちの世界にもようかんってあるんですね」

「おぉ、そうかハルカのいた世界にもようかんがあったのか(私の作戦にハルカも乗ってきた……ふふ)」

「ようかんってたまにしか食べないけど結構好きだなぁ(なんとなく、ルーファスに八つ当たり)」

「あのさ、だから何の話を……(これってシカト)」

 今度はルーファスが遊ばれる番だった、しかも二人に。

 いきなりカーシャが話を戻した。……この人気まぐれだ。

「そうだ、ライラの写本の話だったな」

「…………(やっぱり、聞いてたんじゃん)」

 この後、ライラについての話を紙芝居や人形劇を交えたり交えなかったりしながら、2時間ほどでカーシャさんが説明してくれた。カーシャさん曰く、ライラとは今この世界で使われてる魔法の起源でその効果は絶大であるが使い勝手が悪いため、今ではライラを簡略化した、レイラ(攻撃系)とアイラ(回復・補助系)が主流になっていて、ライラはもうほとんど廃れてしまい今の世に残っているライラはライラの聖典と呼ばれるライラの全てを記したといわれている本の一部を写したライラの写本と呼ばれる本に書いてあるライラのみとのことらしい。この説明を2時間もかけたのか!?

「質問はあるか?」

「あのそのライラの写本がどうしたんですか?(なんで紙芝居と人形劇? しかも後半のラヴロマンスはいらなかったような……)」

「そうだよ、なんでカーシャが来たの?」

 やっと話の本題に入りました。

「ライラの写本が新たに見つかったらしい」

 この言葉に一番ビックリしたのはルーファスだったというより、この意味がわかるのが彼しかいなかったというよりハルカにはこの意味がよくわからなかった。

「えぇっ! それって本当?」

「……(なんでそんなに驚いてるんだろ)」

 カーシャの顔は真剣だった。でも、何を考えているのかはイマイチ不明。

「先日、この国の闇市でライラの写本が出回ったらしい。しかもだその写本というのが今まで発見されてない魔法について書かれたものらしい」

 ここまで話されてもハルカ的にはよくわからなかったが、カーシャの次の言葉には凄い反応を見せた。

「その魔法というのが召喚関係の」

「召喚ですか!!」

「(まだ話が途中……まぁいいか)……ルーファスお茶!」

「また飲むの?(なんで私が)」

「カーシャさんにお茶!!」

「なんでハルカまで。いいよ持って来ますよ(パシリか私は)」

 ルーファスの立場はこのメンバーの中では最も下だった。そんなわけでルーファスはしぶしぶ台所へと向かった。もちろん渋茶を入れに……。

 台所に着いたルーファスはお茶を3つ入れて戻ってきた。

「遅いぞ、へっぽこ」

「なんだよ、いつもいつも人のことへっぽこって」

 そのとき、ルーファスの身に不幸な出来事が、

「わ……っ!」

 と言う声とともにルーファスは見事なダイビングをした。何も無いところで彼はつまづいたのだ。強調してもう一度言う『何も無い所で』。その反動で手に持っていたおぼんが空を舞う、ついでにお茶の入ったグラスも飛んだ、中身のお茶も飛んだ、そして、お茶は引力に引かれ、バシャン!

「……(あつい)」

 カーシャにかかった。しかし、カーシャの表情は少しも変わらなかった。むしろ、慌てたのはハルカだった。

「カーシャさん、だいじょうぶですか!」

 ハルカは慌てて近くにあったティッシュ箱を手に取って、ティッシュをガーって何枚も取ると、カーシャの顔を拭きまくった。

「……(へっぽこにあわてものコンビ……ふふ)」

「はぁ……はぁ……(これだけ拭けば)」

「……(こんなこと前にもあったような)」

 カーシャの顔からはお茶は一滴たりとも残さず消滅した。……しかし、結果は”あのとき”と同じだった。カーシャの顔はティッシュのカスですごいことになっていた。それに気付いたハルカは、

「ご、ごめんなさい(前にも同じことしたような気が……)」

「これ、使って拭いてあげて」

 ルーファスはハルカに布を手渡すと、ハルカは、

「ごめんなさい(カーシャさんの美しい顔が……)」

 と言いながらカーシャの顔を拭いた。のだがカーシャは思った。

「……(この布って)ぞうきん」

「はっ!?(ぞうきん)」

 ルーファスの顔が凍りついた。

「……(しまった、ぞうきんを手渡してしまった)」

 カーシャは突然立ち上がるとスタスタとルーファスに近づき、無言でルーファスの腹にボディーブローをくらわした。

「うっ……(痛い)」

 カーシャのボディーブローはアマのものではなくプロのパンチだった。

 ルーファスは腹を押えながらゆっくりと床に倒れこむと、それっきり動かなくなった。ち〜ん、御愁傷様でございます。

「そうだ……写本の話の途中だったな(これでも30%の力だ……ふふ)」

「……そうでしたね、あはは(カーシャさん怖い)」

「今からその写本を見に行こうと思うのだが二人も来るか?」

「行きます、行かせてもらいます」

 即決のハルカに対してルーファスの顔は浮かない表情をしていた。というよりまだ腹が……。だがルーファスはがんばって口を開いた。

「行くってどこにだよ?(少しやな予感がする)」

「国立博物館だ」

 この言葉にルーファスはあからさまに嫌な表情をした。それを見たハルカは少し不思議そうな顔をする。

「…………(どうしたんだろルーファス?)」

「どうしたルーファス、おまえは行かないのか?」

「見に行くだけだよね?(まさかね?)」

「当たり前だ、私が盗みにでも行くと思っているのか?(…………ちっ)」

「やぱっり盗みに行くのか(だと思った)」

「本当ですかカーシャさん!!」

「うん!(意外に感が鋭いなへっぽこ)」

 カーシャはお花を自分の周りに飛ばしながら可愛らしく、少女の気持ちで答えたが何の効果もみられなかった。……ヤリ損。

「ハルカは私と行ってくれるだろ?」

「はい! もちろんです(帰れる方法が見つかるかもしれないし)」

「私は行かない(泥棒なんてできるわけないだろ)」

 そう言って何処かに行こうとしたルーファスの襟首を掴んでカーシャが引き止めた。

「ハルカの保護者として付いて来い」

 その声はいつも以上に低くドスの効いた声だった。脅しだ! だがルーファスはそんな脅しには屈しなかった。

「……ヤダ!(目がイッてる……恐い)」

 だが目は決して合わそうとはしない……この時点でルーファスはカーシャに負けていた。

「なら、こないだの置物の弁償代2万ラウル(返せねぇって言うんだったら謝金の片にこいつを貰っていくぜ……きゃあ、おとつぁん! ……ふふ……ウケる)」

 やっぱり、カーシャの性格はよくわからない。……話がずれた。

「あれはハルカが壊したんだろ」

「じゃあ、あのときのことをバラすぞ(ルーファスって、ルーファスって……きゃあ……ふふ)」

 これは完全な脅迫だった。

「いいんだな、国民全員に言うぞ!(ルーファスって……サイテー……ふふ)」

 ルーファスの顔の血行がみるみるうちに悪くなり顔面蒼白に。

「……わかった行くよ(これは脅迫だ!)」

 ハルカは思った。

「……(あのときのことって何だろ?)」

 そのとおり、あのときのこととはいったい何のことなのだろうか……? 実のところルーファスにも心当たりが多すぎて、何の事を言われているのかはわかっていなかった。ルーファスへっぽこ列伝の一つには違いないだろうけど。

 残っていたお茶を飲み干したカーシャは、身体をきびし返して、

「では、今すぐ行くぞ」

「まだ、昼だよ」

 ルーファスの指摘は正しい。ちなみにカーシャはここに来たとき『こんばんわ』と言ったが今の時間は午後1時半。

「盗みっていったら夜じゃないんですか?」

「夜の方が警戒が厳重だ。そのぶん昼間は人は多いが警備は手薄になっている!(あくまで思いつきで確証はないが)」

 カーシャはかなり自身満々だが、この発言は彼女お得意の思いつき。

 自信満々のカーシャを見てルーファスの不安は余計に増していく。

「あのさぁ、昼間に普通に行くんじゃ顔がバレバレじゃないの?」

「私に考えがある(……ふふ)」

 こうしてカーシャちゃんの『おしゃれ泥棒大作戦』が始まったのだった。ちなみにこのネーミングはカーシャちゃんの思いつきで特に意味はありませんのでご了承下さい。


 カーシャの思いつきで始まってしまった『おしゃれ泥棒大作戦』だけど、うまくいくのでしょうか……?

 そんなわけで次回につづいたりする……。

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