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第2部 第10話「決別しちゃいました」

 床に這いつくばっていたルーファスが、やっと立ち上がったときには、魔導砲はすでに放たれていた。

「本当に撃つことないだろカーシャ!」

 こんなにもルーファスが強く出るのも珍しい。ルーファスは激怒しているのだ。それもかなり。

 ルーファスはびしっとばしっと堂々とカーシャを指差した。

「カーシャが世界征服をするなら、私はカーシャの敵になるよ(……ハッキリ言ってしまった。後が怖いかも)」

「ふふ、私の敵だと? この世界征服はハルカの世界征服だ。つまりおまえはハルカの敵になるということだな?」

「……統治ふっ

 無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。そして、話を続ける。

「征服じゃなくって統治ふあふあ。ハルカを全知全能の唯一絶対の神として君臨させて、絶対君主による完全なる統治がボクの目的だよ(ふあふあ)」

 この場の状況というか雰囲気が可笑しくなりはじめている。

 『はい、は〜い』と言った感じでハルカは手をあげて発言した。

「あの、カーシャさんは……やり過ぎだと思うんですけど(ああ、言っちゃった)」

「ほう、ハルカも私に口答えする気か?(喧嘩上等!)」

 冷酷な表情をしてカーシャはハルカとルーファスを睨んだ。まさに蛇に睨まれて蛙状態である。

 思わずハルカとルーファスは1歩と言わず、10歩ほど後ずさりをしてしまった。

 ルーファスはハルカを抱きかかえて共同戦線を張った。

「ハルカをダシに使って、自分が世界征服をしたいだけなんだろ!(……ヤバイ、また口が滑ってしまった)」

「そうですよ。今回ばかりはカーシャさんに付いていけません(……ルーファスにつられて私も言っちゃったよぉ〜)」

 一方的に押されぎみの二人を助けるようにローゼンクロイツが割った入った。

「魔女の方法はいいと思ったんだけどな(ふあふあ)。ハルカが魔女と決別するなら、ボクはハルカ側に付くよ(ふにふに)」

 ここで完全にカーシャVSハルカたちの対立の構図が完全にできあがってしまった。ひとりになったカーシャはどうする!?

「私はやるぞ(走り出したら止まらない……ふふ、ビバ世界征服)」

 だそうです。カーシャはひとりでも世界制服をするつもりらしいです。

 決別したカーシャは部屋を出て行こうとした。それをルーファスが止める。

「どこ行く気?」

「おまえたちとは絶交だ。私はシルバーキャッスルに帰る(あそこに帰るのは何年ぶりか?)」

 そういい残すと、カーシャは姿を消してしまった。それを追うものは誰一人としていない。ローゼンクロイツを除く二人は、絶対にカーシャを止めることは不可能だと思っているからだ。

 ローゼンクロイツが軽い咳払いをした。

「じゃあ、そういうことで魔女カーシャを倒しに行こう(ふあふあ)」

「「はぁ?」」

 いつも通り息がぴったりな二人。ハルカとルーファスは声をそろえて裏返った声を出して、間の抜けた表情をした。

「世界征服を企む魔女を正義の味方ハルカが倒しに行くんだよ(ふにふに)。そうして世界に恩を売って、ハルカを世界に君臨させるんだよ、わかった?(ふあふあ)」

 この男、カーシャよりも悪いやつかもしれない。


 半日3度目のホログラム映像が世界に発信された。

 その内容とは、カーシャは世界の敵であり、ハルカ率いる薔薇十字団はカーシャを討伐してみえるというもの。つまり、薔薇十字団はカーシャと一切関係ないと世界に伝えたのだ。……いわゆる、トカゲのしっぽ切り。

「じゃあ、ハルカとルーファスはカーシャを身命にお縄にして来てね(ふあふあ)」

「「はぁ!?」」

 本日何回目だっただろうか? またまたハルカ&ルーファスは声をそろえて驚いた。

「ちょっと待ったローゼンクロイツ、君はもしかしていかない気?(カーシャを敵に回すなんてできるわけないじゃん)」

「そうですよ、私はただの猫ですし(にゃ〜んってね)」

 2人の発言はなかったことにされて、無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。

 次の瞬間、ハルカ&ルーファスは路上の真ん中に突っ立っていた。

「……飛ばされた!?(ローゼンクロイツに外に飛ばされたのか!)」

 そのとおり、ルーファスが思ったとおり、2人は路上に強制的に飛ばされていた。

「ルーファスがいたぞ!」

 自分を呼び声が聞こえたので、ルーファスがふと後ろを振り向くと、そこには鎧を着たゴツイ兄さんたちが大勢こちらに向かって走ってくる。

「何あれ!?(私何かしたっけ?)」

 次の瞬間はルーファスはハルカを抱きかかえて走っていた。小心者というかなんていうか、悪いことをしていないのに逃げてしまった。

 もちろん、逃げたら普通は追いかける。ルーファスの後ろからは恐い顔の兄さんたちが追いかけてくる。そして、追いかけられたら普通は逃げる。

「何なのあの人たち、ねえルーファス?(なんか厄介なことに巻き込まれた感じ)」

 ハルカの不幸は続く。その不幸に巻き込まれる率はルーファスといい勝負。つまり、2人が一緒にいれば破滅的な人生を送ること間違いなしなのだ。

「なんでだろうね? 私にもわからないよ(心当たりならいっぱいあるけど)」

「じゃあ、逃げないほうがいいんじゃないの?」

「でも、乱暴とかされたら恐いしさあ」

「……へっぽこでも魔導士なんだから、少しは強いんじゃないの?(私が魔王に身体を乗っ取られてた時のルーファスはカッコよかったのになぁ)」

「私は平和主義だか――わぁっ!?」

 突然、ルーファスの首根っこは何者かに捕まれ、路地裏に連れ込まれた。ま、まさか、拉致監禁暴行か!?

 フードをかぶったローブ姿の2人組みがそこにはいた。

「話は後だ。今は追ってから逃げよう」

 フードの中から聞こえる若い男の声はそう言った。

「テレポート!」

 声を発する魔法。すなわちこのフードの男はライラの使い手ということになる。ちなみに先ほどローゼンが使った魔法はマイラと呼ばれる特殊な部類に入る魔法だ。瞬間移動系の魔法は高度な魔法のため、使い手は極僅かである。

 ここにいた4人は瞬時のうちに別の場所に移動し、ここに駆けつけた兵士たちは丸い目をして顔を見合わせた。


 アステア王国の首都外の平原に瞬間移動して来た4人。

 フードをかぶっていた2人はハルカ&ルーファスにその顔を見せた。

 1人目はエルザ元帥。そして、もう1人はクラウス国王。

「やあ、ルーファス。久しぶりだね(相変わらずだな、こいつは)」

「ああっ!? クラウスがなんでここに?(城の外に出るなんて、しかもエルザと一緒?)」

 素っ頓狂な声をあげてルーファスは目を丸くした。だが、ハルカはクラウスのことを知らない。

「誰なのこの人?(顔立ちはルーファスよりも端整で、ちょー高貴な雰囲気がどことな〜くある人けど……?)」

 エルザがどどんと胸を張って前に一歩出る。

「ここに仰せられるお方は、クラウス国王様であらせられる」

「マジで!?(この人が王様なんだ。結構若いみたいだし、なんでルーファスなんかと知り合いなんだろう?)ルーファスと国王様はどんな関係なんですか?」

「僕とルーファスは学院時代の友達でね。ああ、それからこれはお忍びの旅だから、王様っていうのはやめてくれるかな? クラウスって呼んでくれ」

「(王様とルーファスが友達!? このへっぽこ魔導士と?)」

 ハルカがどう思おうと、ルーファスとクラウスが友達なのは変えられない事実で、そうなんだからしょうがないとしか言えない。

「僕とエルザはカーシャを捕まえに行こうと思っているんだ。そのためにルーファスの力を借りたい」

「こんなへっぽこ魔導士に!?(無理無理、カーシャさんに敵うわけないじゃん)」

「へっぽことは失礼な。私だって道案内くらいはできる!」

 胸を張って堂々と言い放ったルーファス。でも、全然胸を晴れることではないのは、誰もが思うこと。魔導士としてはやはりへっぽこなのだ。

「では、さっそく道案内を頼む(今のは胸を張って言うことなのか?)」

 エルザに本当に道案内を頼まれてしまったルーファス。しかし、彼は道案内に胸を張っていた。

「任せて、道案内なら。カーシャのところに案内すればいいんでしょ? でも、かなり遠いよ」

 テレポートならば瞬時に行くことができるかもしれないが、テレポートとは基本的に行ったことのある場所でないと行くことができない。基本的というのは、その場所の映像などの情報があれば、行けるかもしれなからだ。

 ここでひとつわかったこと、つまりルーファスはテレポートが使えない。使えるものの方が稀なのだ。

 ここにいるメンバーでテレポートが使えるのはクラウスだけだった。

「そこは僕の行ったことのない場所なのかい?」

「う〜ん、え〜と、行ったことはあるけど、途中まで……(ああ、嫌な思い出を思い出しちゃったよ)」

 腕を組んだ状態でルーファスの表情が強張っている。それを不思議な顔をしてハルカがルーファスの顔を覗き込む。

「どうしたの、顔が真っ青だよ?(いつものことのような気もするけど。いつもこんな表情ばっかりするよね)」

「……私がカーシャと始めて出会った場所にカーシャはいる。その場所は……魔導学院の校外実習で行った雪山」

 この言葉を聞いたクラウスの少し顔を強張らせた。

「あの地獄の校外実習か……(思い出しただけで身震いする)」

 地獄とはいったいどんな実習だったのか? もしや雪山ですっぽんぽんとか?

「でも、確かルーファスは帰り道で遭難して?(そうか、その時、ルーファスはカーシャと出会ったのか)」

 そう、その時にルーファスはカーシャと出会った。しかし、遭難して帰ってきたルーファスはそのことを誰にも話していない。聞かれても何も覚えてないとウソをついていた。その理由はもちろん、カーシャによる説得(脅迫)があったからだ。

 カーシャに脅迫されて今まで誰にも言わなかったカーシャとの出会い。そのことを思い出したルーファスは突然、慌て出した。

「あ、あの、うん、雪山でなんかカーシャと出会ってないよ(危ない、危ない、口を滑らせるところだった)」

 十分口は滑っていると思うが、ルーファスにとってはこれで精一杯の言い訳なのだ。

 空気を切り裂き、何かが煌いた。

「言え、ルーファス!(あのカーシャのこととなれば黙ってはいられぬ)」

 ルーファスの首にはエルザの抜いた剣が突きつけられていた。

「え〜と、カーシャの正体がなんであるかなんて口が滑っても言えるわけないじゃん。でも、居場所くらいなら、言えるかなぁ〜(……こ、殺される)」

 またルーファスは口を滑らせた。『正体』ってことは今のカーシャの姿は仮の姿だと言っているようなものだった。

 首に突きつけられた剣がぐぐっと動いた。

「……言え」

 ドスの利いた低い声だった。

「言ったら私が殺される(言わなくても、今殺されそうだけど)」

 あまりの怯えようのルーファスの首から剣が離された。エルザは少々呆れた顔をしている。

「ふぅ、仕方ない。場所案内だけでいいだろう(だが、カーシャの首は私が……)」

 もしや、エルザはカーシャを殺す気満々とか?

「では、僕のテレポートでグラーシュ山脈まで行こう。その後の道案内はルーファス頼むぞ」

 今のクラウス言葉に頼りなさ気に頷いてみせるルーファス。彼は本気でカーシャが恐い。それはハルカも同じだった。

「(ああ、カーシャさんと戦うことになるのかなぁ〜。ヤダなカーシャさんって冷血なんだもん)」

 クラウスは目をつぶってグラーシュ山脈のイメージを頭に思い浮かべた。これに失敗するととんでもない所に行ってしまう。実は、時には空間の狭間に閉じ込められて出れなくなることもある危険な魔法なのだ。

 グラーシュ山脈。そこはクラウス王国の北に位置する極寒の山岳地帯。クラウス王国全体はやや温暖で過ごしやすい地域なのだが、この山脈地帯だけがなぜか気温が異常に低い。その気温は平均で零下20度で、最低気温はだいたい零下50度に達するという。

 グラーシュ山脈には特殊な生物以外は全くいない。そのため過去に一度だけ魔導学院の実習場所として選ばれたが、あまりにも過酷だったためにそれ以降の実習では使われたいない場所だ。

 イメージが固まった。昔のことだったのでだいぶイメージを固めるのに時間がかかったが、準備は整った。

「テレポート!」

 次の瞬間、平原から4人の姿が消えた。

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