転移する者
闇を越え、遂に魔界へ……
頭の中に、いつ終わるかもわからない闇が流れ込んでくる。 その闇の風は、抗う毎に強く、そして鋭く切り込むように迫ってくる。 だが同時に、優しく包み込むような感覚さえある。
常闇の彼方、薄っすらと人影が見える。 その影は少しずつ、それでいて確実に近づいてくる。あれは闇の本来の姿なのだろうか? それとも救いの手なのだろうか? そもそもなぜ俺は今ここにいるのだろうか? 様々な疑問を自らに投げかけながら、今も近づいてくる影を見る。
その影には、大きな角と細剣のように鋭く細い尾のような物がぶら下がっている。 その姿は、いわゆる"魔物"のようだった。
影はもうほとんど距離がない、しかしまだ顔すら見えない。 俺は手を伸ばした、あの影の先には何があるのか、あの影は一体なんなのか。 子供の時以来感じたことがなかったような好奇心に駆られ、眼前の影に手を伸ばす。 その時ふと、急に睡魔に襲われた。抗うことすらできないほどの、強烈な眠気。 自分は一体どうなるのかすらわからぬまま、その睡魔の導くままに、その影に身を委ねた…………
目を開けるとそこには、緑いっぱいの草原と、そこに佇む一人の少女の姿が目に入った。そして少女の目の先に視線を移すと、まるで中世ヨーロッパの時代の城のような建物と、その下に広がる街があった。
「ん、起きたか小僧。我輩が誰かわかるか?」
少女が突然話しかけてきた、確かに見覚えがある。俺は記憶を辿り、
「えーっとたしか……アスベルだっけ?」
記憶の中に残っていた、それらしい名前を言ってみた。
「うむ、記憶は無事なようじゃの、よかったよかった!」
どうやら合っていたようだ。しかし俺はなぜこんな所にいるのだろうか。混乱する頭の中で、必死に記憶を辿る。
ふと自分の手を見てみると、手の甲に紫寄りの、赤い鱗が生え、5cmほどの、長く鋭い爪が生えていた。
「ーーっ!!?」
「その姿からして、転換の儀は無事に終わったようじゃの」
転換の儀?突然の自分の変化に困惑しながらも、徐々に色々思い出してきたが、そんなワードは全く覚えがない。
「て、転換の儀ってなんだ?」
俺はすぐに アスベルに尋ねた。
「ん?あぁ、そういえば話してなかったの。簡単にいえば種族を、変えるんだよ。俺は人間をやめるぞ的な感じで。その証拠にほら、お主魔族になっとるじゃろ?」
突然の爆弾発言を軽くいい放つアスベル。え、種族を変える? 意味がわからん。しかももうすでに魔族とか、俺いつの間に人間やめてたんだよ……まぁ受け入れてみるか、こう見えて学生時代は "受け入れの申し子" とまで呼ばれた男だ。必要であれば、死すら受け入れ入れるだろう。それに今まで退屈だったから、いい気分転換だ。
俺はアスベルに向き直り、もう1つ疑問を投げかけた。
「よし、じゃあここはどこだ?」
いつか見たような、邪悪な笑みを浮かべ、そしてすぐに口を開いた。
「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれた。こここそが、魔界である! ようこそ転移者よ、ここは北の魔界、ノース・グランツにして、その王都、ダーク・イルーザルである!!」
こうして俺の魔界生活は始まったのである。
いやぁ今回も疲れました。最近やたら忙しくて疲れが溜まる一方でしたよ。まぁGWはのんびりします。さて今回も短いですね、もっと長くしていくか、短いのを多く出すか悩んでおります。それにしても頭の中で描いている主人公の姿を絵にしたいんですが、自分画力という言葉とは無縁の存在なので、全く描けないんですね。今度絵の上手い友人に頼んでみようかな……今回も読んでいただき誠に感謝の極みです!ではまた!