13話
ルヴァルと言う男性は、さっきの虎…いや、宝石獣と同じ色をしている。2mくらいあった巨大な体は人型になると、あまり変わらないように見える。腰まである真っ赤な髪に混じって白と黒の髪を、三つ編みで器用に色分けて結んである。冷たい鋭い青い瞳に薄い唇、スッとした鼻筋の二十代後半くらいの美形だ。
服装は私の世界で見たことある中華衣装の確か、長袍だ。均整とれた鍛えられた体躯が分かるピッタリとした黒いシルクに銀で施された模様で装飾されている。
「獣の方が驚かないと思ってたけど、宝石獣知らなかったんだな、ごめんなユーリ。」
「令嬢が獣見て驚かないと思っているのか?アルドは女性の扱いが駄目だな。」
「人型だと驚くと言ったルヴァルに言われたくないな!!」
「おいおい、二人で喧嘩すんな…」
喧嘩する二人?にイルフさんが呆れながら喧嘩の仲裁をする。
二人共、仲良いんだなぁと生暖かい目で見ながら、やはりこの男性は、"宝石獣"なのだと、改めて異世界って凄いな感心する。初めて見る宝石獣こと、ルヴァルさんをジッと観察するが、あの美しい牙は見当たらず人型のルヴァルさんの口から覗く歯は白い。ならあの"宝石の様な魔石"は何処に行ったのか少し気になる。
「…姫さん。人型の姿だとあの魔石は、手に埋め込まれている。何故なのか聞くなよ、俺だってそこまで詳しくないからな。」
「…また心読んだ。」勝手に読まないで欲しい。
「姫さんの心の声が、タダ漏れだから仕方が無い。」
そう言ってニヤリと笑うイルフさんを見て頬を膨らます。くそぉ、ムカつくけど恰好いい。
「…令嬢、我らが人型になると人間と区別出来ないと言う理由で、手の魔石で判断されるだけの事だ。因みに魔石の色は契約した主の色を表す。」
イルフさんの代わりにルヴァルさんが答える。それを聞くと契約した時に自分の色を持つ宝石獣の光景は、嘸かし神秘的で美しいのだろう。私も見てみたい。
「…いいなぁ、宝石獣。」
「…精霊もお勧めするぞ姫さん」
「…ユーリ、宝石獣良いぞ!!」
「…そ、そもそも、宝石獣って何処で出会えるの??」
精霊は、気まぐれだと聞いたから出会う確率が低い気がする。そもそも自分を気に入るかどうかの問題だから、運がないと駄目だ。なら宝石獣は、どうなのかとアルドに聞けば、ある森に宝石獣が生息してるとか。
純度の高い魔石だらけの、それはそれはとても美しい場所らしい。ぜひ行ってみたい。お父様に聞いてみよう。
「…精霊も良いぞ姫さん」
「いや、そんなに勧められても、出会える確率低いでしょ?」
「…まぁ、そうだな…俺が呼べば来ると思うが。」
「えっ、イルフさんが呼べば来るの??」
「俺は上位の精霊で偉いからな。だが俺と同じ立ち位置の別の属性精霊は流石に呼べない。"火"の中級から下の精霊なら簡単に呼べる。だがなぁ、ユーリを守る為には俺と同等の強さがいいな…いや、アイツと契約破棄して俺と姫さんで契約するのも良いな。」
「…別に、お父様との契約を破棄までしなくても大丈夫よ??」
「そうか?俺は姫さんとなら喜んで契約するが、やっぱ自分で見つけたいのか?」
「見つけたい?って意味がわからないけど、自分で探してみたいわ。」
「…そのまんまの意味だ。まぁ、分からなくてもそのうち分かるさ。」
――――…
「ユーリ。宝石獣が気になるなら、まずはルヴァルに慣れた方がいいぞ」
アルドがルヴァルさんに何か一言言えば、ルヴァルさんは、光の粒子の様なものを出し…え、ルヴァルさんが徐々に消えていく。なにこれ、まるでRPGで敵を倒した時にまるで砂のようにパラパラと消える感じだ。
人型のルヴァルさんが完全に消え、光の粒子だけ残った後。今度は、粒子が集まりまた何かの形になろうとしている。あれは、獣の時の姿だ。不思議な光景に呆気になった口が塞がらない。なんとも不思議な光景なのにアルドとイルフさんは気にしてない。そんなに驚かないものなのか??
「ん?別に見慣れているから、驚きもしない」と、もう人のプライバシーなんてお構い無しのイルフさんが答える。
「ユーリは、初めて見る光景だろうな。俺も最初は驚いたぜ。」
俺は、父様の宝石獣で見た事あったから見慣れていたんだと笑う。ほぉ、カインバルト様も宝石獣と契約してるのか。
『…令嬢、さっき人型を見せたからもう、怯えることはないだろう?』
獣の姿になったルヴァルさんが、私に声を掛ける。見た目は、虎なのに虎ではない宝石獣のルヴァルさん。最初は驚いたが、猫だと思えば怖くないんじゃないのか??いや、だがこのデカさは流石に怖いなぁ。
「ル、ルヴァルさん、あの、しゃがんで貰えませんか?」
『敬称は、要らぬ。しゃがめば怖くないのか?大丈夫だ、令嬢に手を出す程愚かではない。』そう言った後に私の所に近付き、ゆっくりしゃがんで頭も伏せる。
…おぉ、初の肉食獣に触る機会が現れるとは、ルヴァルさん…いや、ルヴァルは私を怖がせないように目を閉じ、細長い尻尾も伏せた。近くで見るとこれは中々可愛い。テレビや動物園でしか見たことない、しかも間近で触れる機会。実は触ってみたかった獣をまじまじと観察する。
「えと、じゃあ…失礼します。」
頭をそっと撫でると、おぉ、意外と柔らかい毛質で美しい赤い毛並みに惚れ惚れする。ちょっと欲を出して頬を撫でてみよう。あ、ルヴァルがビクッとしたが別に嫌ではないらしい。少しびっくりした。
それにしてもこのモフモフが素晴らしい。両手で頬を撫で回す。おぉ、気持ちよくて温かい。顎もかいてやると気持ち良さそうな顔するルヴァルに思わずキュンとする。なんだこれめちゃ可愛い。めちゃ可愛い。
『…令嬢は、我の気持ちの良いところを撫でるのが上手い。其方は、癒し手か?』ゴロゴロ言いながら喜ぶルヴァルさんが可愛い。
「…ルヴァル」
『…我の主、アルドは我の嫌いなところを撫で回すからなぁ…やはり女性に撫でられるのは至福だな』
「おい、ルヴァル。」
『…なんだアルド?我の至福を邪魔するな』
冷たい声ではっきり言うルヴァルにアルドは、ショック受け、「俺が主なのに…」とブツブツ言う姿にイルフさんが頭撫でながら「信頼得るように頑張れよ」と励ましている。
そんな彼らを無視しながらお父様に呼ばれるまで宝石獣を堪能した。最高でした。
ルヴァル『(あぁ、そこも気持ち良い…令嬢は扱いに慣れているのだろうか?)』
ユーリン「(やっぱネコ科だから、撫でる場所は同じなのね…はぁ、モフモフ最高)」