”キス”を思い浮かべてください
「”好き”の反対の言葉を思い浮かべてください」
松代宗司は、酉麗子にクイズを出す。その出し方は手品を披露するかのようにだった。
「”好き”の反対、……”好き”の反対ね」
「浮かべました?」
残念な気持ちになりそうになったら、答えを出す。
酉を抱きしめて、彼女に”キス”をする松代……。
「反対だとしても、好きのままです。酉さん」
「なるほど。いいんじゃない?」
そんなやり取りを会社内でやるのだから、他の社員にとっては目のやり場に困る。
「相変わらずだな、松代さん」
「ですね。酉さんも……」
社内恋愛はOKであるが、そんな環境になるほどどちらにも良い奴がいないのが現状である。
そんな言葉遊びを間近で見ていた瀬戸博は、女性陣に声をかける。
「林崎ちゃん、安西ちゃん、友ちゃん!”好き”の反対の言葉を浮かべてーー」
「”嫌い”」
「ど直球ーー!?」
愕然と、その言葉に一度倒れる瀬戸であった。
「僕とキスくらいしてよ!舌入れるくらい!」
「嫌よ!」
「嫌です!」
「寝言は寝て言え!」
とんでもな扱いをする女性陣、しかし当然でもある。こいつはホントにバカだからだ。
「松代さん!僕でも彼女ができる方法を教えてください」
「まずは見た目が全てだぞ!」
「現実を教えないでください!僕みたいな低身長、思春期、オタク、変態がダメって言っているわけじゃないですか!」
「あんたの場合は、性格が悪すぎでしょーが」
◇ ◇
最近、僕に対して女性陣が冷たすぎる。僕としてはあんまり関わりが少ないから、ちょっと不満に思っている。なんかスキンシップという体を装って、エロいことしたい。
「キスでもいい」
そうだ。丁度、友ちゃんがトイレに行っていない。
飲み掛けのコーヒーをくいーっと飲んで、間接キスでもして青春しよ。安西ちゃんと林崎ちゃんが見ていない、一瞬の隙を突いて
ゴクゴクゴク……
「ぐぉっ」
苦いコーヒーを飲む事になるとは、ある意味失敗!友ちゃんだから仕方ないかな?
「!あーっ、瀬戸くん!勝手に友ちゃんのコーヒーを飲んじゃダメだよー!」
「間接キスじゃん!」
「えへへへ、苦かっただけ」
ブラックのコーヒー味のせいで、全然間接キスの余韻に浸れない。ちきしょー。
「ちょっと、人のコップを持って何したの、瀬戸?」
「!やばっ」
トイレから戻って来た友ちゃんが背後に!席に戻ろうとするも、彼女を抜くのは無理。仁王立ちしている。
「の、喉から乾いたから、飲み物をね」
「…………」
「だってさ!松代さん、キスとかしてるのに!僕にはなんのサービスないじゃん!僕だって頑張ってるんだよ!?」
「人が頑張ってないみたいな事を言うな!」
それはある意味、真理!ツッコんではいけないお言葉であり、内の本音!
よく考えたら間接キスをしに来たのに誤魔化しちゃ、カッコがつかないなぁ。友ちゃんの迫力に押されてしまった。
「いいじゃん、いいじゃん。間接キスくらい。凄い苦かったけど!コーヒーのせいで」
開き直る瀬戸を見たとき、友ちゃんはまるで松代をまねるようにクイズを出す。
「どSな女性に、キスをしたいほど好きな男ができました」
「!クイズ!?」
「好きで、愛し合い、キスをして……愛に変わったどSな女性は、男に何をしたでしょうか?答えたら、その通りにしてあげる」
この問題、安西も林崎も参加する。頭の中で友ちゃんの問いの意味を考える。しかし、瀬戸は正直に。っていうか、本心なのか。
「S○○!するっきゃないでしょ!?」
「ぶーーっ!」
「ええーっ!だって、どSな女性が好きで、愛し合ったんでしょ!LOVEなんでしょ!?」
今の瀬戸の言葉がかなりのヒントになって、
「あっ!」
安西が一番で正解する。
「安西、分かったの!?」
「トンチみたいな答え。英語にすると分かる」
「英語?…………あ!そーいうこと!」
「え?なになに?安西ちゃんや林崎ちゃん、分かったの?」
瀬戸にはまだ答えが分からない。なので、友ちゃんが答えを教える。同時に拳を握りしめて、
「”KILL”だ!このど変態!!」
瀬戸くんの顔面に強烈な一撃を叩き込むのであった。殺す気満々であったとさ。