冬の魔女に出会ったぼくは
本当にそれでいいの、と彼女はまたぼくに問う。
「それで構わない」
「あなたは変わった人なのね」
冷たく笑うその顔は、やはり冬の魔女だった。
「じゃあ右手を出して」
言われたとおりにする。
その手の上に、彼女は自身の左手を添える。
とても冷たく、とても柔らかい手だった。
固く握れば溶けて消えてしまいそう。
「雪のようだね」
「だって冬の魔女だもの」
「綺麗だね」
「言われ慣れてるわ」
「そっか……」
ぼくは彼女が消えてしまう前に手を離す。
「もうおしまいでいいの?」
「このまま続けていると、君が消えてしまいそうだから」
それを聞くと、彼女は少し淋しげな顔をした。
「あなたの手、暖かくて好きよ」
「ありがとう」
「ねえ」
「なに?」
「握っててくださらない?」
「……」
「このまま消えても構わない。死ぬわけじゃないのだから」
「そうだけど。でも」
「ほんの一瞬。それは、数度の瞬きで終わってしまうのかもしれないけれど。私はあなたに触れていたい。温もりを感じていたい」
お願い、と彼女はぼくへ手を伸ばす。
ぼくのお願いを聞く立場だったはずの彼女が、今はぼくにお願いをしている。
少しおかしかったから、少し笑った。
「なによ」
「別に。じゃあ、代償として、もう一つお願いを聞いてもらおうかな」
「いいわよ……。なあに? 永遠に溶けない氷? 決して寒さを感じないコート?」
わたしに出せるものならなんだってあげる、と彼女は半ばヤケクソでぼくに言う。
そんなものはいらない。
君に求めるものはただ一つ。
「来年もまたここで会おう」
その言葉に目を見開いた彼女を、ぼくはそっと抱きしめた。
片手だけでは、冬の寒さはしのげない。
できることなら、この身で彼女を包んであげよう。
「……暖かいのね」
「もうすぐ春かな」
「何言ってるの。冬はこれからよ」
彼女の頬をつたう暖かな雫にぼくが気付いたのは、それからしばらく後のこと。
小寒のある日。
寒さが厳しくなる日を前に。
冬の魔女は、その身を世界に散らせた。