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生きてるあいつと死んでる俺  作者: ミルクルミ
出会いと始まり
5/9

第4話 記憶

「皆さん、クラスごとに並んでください!」


 騒がしい雰囲気の中に響き渡った声は、新入生に再度緊張感を持たせ、表情を引き締めさせた。


 実里ももちろん例外ではなく、奈津と喋って少しほどけた緊張も、また湧き上がってきたようだ。


 右手に作った握りこぶしを胸に持っていき、目をギュッと瞑って深呼吸をする。


「そういや、奈津って何組だったんだ?」


 実里は人見知りだ。


 唯一喋れるのは奈津くらいで、離れたときは友達が一人もできなかった程なのだ。


 高校生になって初めてのクラス替え。ここで奈津と離れるのは痛い。


「ああ。二組だったかな、確か」


「……そう、か……」


 実里は三組だ。


 隣のクラスとはいえ、離れたことに違いはない。


(大丈夫かな?)


 慣れたら普通に話せるようになるが、それまで付き合ってくれる人などそうそういない。


「おまえのとこは?」


 軼ではなく男のほうが俺に尋ね、ショックが抜けぬままにそれに返す。


「二組」


「そうか、二組か……優雨は何組だったかな?」


 どうやら、男の対象者は優雨という名前らしい。


 守護霊は対象者から五十メートル以上離れてはいけないというルールがあるから、近くにいるはずだが……いや、この武道場がそんなに広いわけがない。


 でもここにいるということと、さっきの言葉から、新入生の守護霊で間違いなさそうだ。


 こいつの対象者と実里が知り合いである可能性は一パーセントもないだろうが、俺はつたない命綱にすがるように、男の次の言葉を待つ。


――そして。


「あ、二組だ」


 願いは通じたのか、男がその言葉を口にし、俺は心の中で歓喜の声を上げる。


「よろしくな」


「おう、こちらこそ!」


 自然に溢れる笑みは知らずのうちに注目を集め、ほんわかした雰囲気が辺りに漂う。


「あ、実里が行っちまう」


 ふと向けた視線の先で、話し合いが終わったのか、列を作る生徒たちが武道場を出ていく様子が伺えた。


「じゃあな、軼」


 一組はすでに移動し終え、続く二組も男子はもうすぐ全員行ってしまう。

 なので軼に別れを告げ、俺と男はそそくさとそれぞれの対象者のもとへと向かった。


「お、番号近いな」


 けれど、優雨と実里の番号は近いというより隣同士で、俺は続くラッキーに神への感謝を心の中で述べまくる。


「あ。そういや、自己紹介してなかったな」


 優雨のほうが番号が上なので、振り返りながら男は口を開いた。


「石宮晴だ。晴でいいぜ」


「俺は、理玖。よろしくな」


 親指を立てて自分を指す男、晴に思わずクスリとしながら俺は言うが、名前を言った途端、晴の表情が急に引き締まる。


「え……理玖? みょ、苗字は?」


「悪い。俺、生きてた時の記憶とか全然なくて」


 この言葉を言うと、大抵は驚かれる。


 なぜなら、ほとんどの人が覚えていて当然の事だからだ。


 生きていた頃の記憶は、死んでしばらくすると自然に戻る。


 俺みたいな奴なんて、そんなに多くないのだ。


 そして驚いたあと、大体の人は気を遣う。


 記憶がないことを気にしていると思うのだろう。


 事実、俺は死んでしばらく、情緒不安定だった。


 その時のことはあまり記憶にない、というより、忘れていたい事柄である。

 けれど、今は違う。


 さすがに落ち着いているし、記憶のことも全くと言っていいほど気にならない。 


 だから、何を言われたとしても平気なのだ。


「そう、か……」


 だが、俺の予想と反して黙り込む晴の様子になんだか違和感を感じ、俺は何も考えずに口をついて出た言葉をそのまま言う。


「もしかして、知り合いだったりした?」


 ありえない話ではない。


 俺の予想で、俺は高校生か中学生の頃に死んだ。


 そして、晴はきっと高校生くらい。


 プラス、ここにいる守護霊たちはみんな、同じくらいの年に死んでいるのだ。


――ゴクリ。


 俺は初めて自分の知り合いに会えるかも知れないという好奇心に駆られ、唾を飲み込む。


 気にならないといっても、自分の生きていた頃のことを知れるチャンスが身近にあると、少しは気にしたりもする。


「なわけないって!」


 だが、俺の期待は、今度はあっさりと裏切られた。


「こんな外人みたいな外見の人、一回でも見たら忘れねえもん」


 意外にも辛辣とした言葉がかけられている気がするが……まあ、気にしないことにする。


「おっ、ここみたいだぜ」


 二階にある武道場から階段を上り、突き当たりを右に曲がり、しばらく廊下を歩いた先にある校舎。そして、教室。


 それが、実里や俺たちが、今日から一日の大半を過ごすことになる、場所だった。



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