プロローグ
この気持ちを、何て言うのだろう。
特定の人に対して感じる、この気持ち。
あいつが笑うと自分も嬉しくなったり、泣くと泣かせた奴を恨めしく思ったり、照れているとかわいいな、と思ってしまうこの感情。
表情豊かなあいつをただ見るだけで、とても愛しく感じ、目が離せなくなる幸せな日々。
世間一般的に言えば、それは「恋」というやつなのだろう。
毎日一緒にいたい、触れ合いたい、言葉を交わしたい。
確かにそれは、俺が日々思っていることだ。
そして、切望していること。
だが、その願いが果たされることは決してない。
俺は存在も知られず、喋れず、触れ合うことすらできないものだ。
それは一生変わらない。
だからこそ、俺は――隠そう、と思った。
叶うことのない気持ちを、いつまでも引きずっていても無駄だ。
それよりは、ただあいつの幸せを祈っている方がいい。
恋的な「好き」から、それ以外の友達に向ける「好き」で、あいつを見よう。
――そう、思っていたのに。
目に映るのは、俺をじっと見つめている、あいつの姿。
口を開き、言葉を発する。
「だ、だれ?」
頬をつたる熱い何かは、涙だろうか。
抑えていた感情が溢れ出しそうになるのは、止めたほうがいいのだろうか。
何もかもがわからなくなる、そんな中で。
俺はただただ、あいつに手を伸ばす。
この感情の矛先を求めて。
抑えきれぬ思いを、ぶつけたくて。
それしか、今の俺には、できなくて――。