エピローグ②
無我夢中だった。
——あなたが沙耶ちゃんのことをどう思うか聞いてるの!
沙耶の顔が、見たい。一分、いや一秒でも早く。
痛む足などかまうものか。
息も絶え絶えになりながらも足を引きづって、ようやく家が見えてきた。
「っはぁ、はぁ……」
倒れこむように庭を横切ろうとして、突然何かが飛び出して僕の体に抱きついた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんお兄ちゃん、お兄ちゃん!」
沙耶、だった。
しかし僕が彼女の顔を見ることができたのは彼女の姿をみとめた一瞬だけだ。その一度の機会も僅かな時間だったために、いったい沙耶がどんな顔をしているのか僕には全く分からなかった。
「……あの、沙、耶?」
僕に名前を呼ばれた沙耶は一瞬ピクっと体を震わせた後、更に身を固くして僕にすり寄ってきた。
密着する体と体。
——嗅覚が、標ちゃんとは違った甘い匂いを脳へと運ぶ。
沙耶が顔を上げる。その目は、真っ赤になっていて。
——視覚が、彼女の顔に浮かんだ水滴を脳へと映す。
——味覚が、それが涙であると脳に告げる。
「……メール送ったのに、いっぱい送ったのに。電話も、何度もしたのに。帰ってくるの、遅いから、帰りにまた、危ない目にあったんじゃ、ないかって……」
——聴覚が、震える声と細やかな息遣いを脳へと届ける。
僕を掴むその小さな手は、震えていて。とても、とても冷たくて。
——触覚が、彼女の体の冷たさを外気のものだと脳を導く。
「どうして、どうして! どうして電話もメールも返してくれないの!」
初めて聞いた沙耶の本気の怒号。
——ソートが脳へと、最後の知覚を僕に伝える。
「でも、よかったよう。お兄ちゃんが無事でほんとによかったよう」
いったい、これの何処に嫌悪なんて思いが含まれているというのだろう。
沙耶への負目。思い込み。
「……成瀬さん。僕は君の言うように本当に、馬鹿だ」
「? ……お兄、ちゃん?」
沙耶を強く、強く、抱きしめた。
「心配させてごめん。もう、これからは沙耶を一人にはしない。守るから。絶対に寂しい思いなんてさせないから」
それはあの時と同じく心に刻む決意。
「うん……うんっ……!」
沙耶は泣いている。その声以外にここに響く音はない。
でもあの時とは違う。
——ああ。沙耶が僕に向ける感情はこんなにも、温かいものだったんだ。
その時、頭上で空が吠えた。
今まで降り注いでいた月下の光は次第に薄れてゆき、天に構える夜の女王は従属する星々とともにその座を降りる。一筋だった光は次第に広がって、やがて空一面に水平な大きな光の帯を作り始めた。
その帯が、下りてしまった夜の帳を彼方へと押しやっていく。
星の胎動を見た気がした。
「きれい……」
「うん……」
レイエス——それは、ありとあらゆるものに星がわけ隔てなく与えた「祝福」の力。
日の光が一日の始まりを告げる。
僕らはまぶしく輝くそれを、いつまでもいつまでも見続けた。
はじめまして、初投稿させていただきます。
毬守うさぎ(いがすうさぎ)と申します。
この小説は5年ぐらい前にある賞に応募して2次落ちになったものの原文ままとなっております。
初めて小説を書き上げ、賞に応募し1次通過時には大喜びをし、二次落選時には落胆しながらも納得した覚えがあります。
5年前といいつつ構想を練ったのは更に数年前に遡り……正直舞台設定・裏設定をほとんど忘れております笑
なので続編を書こうとすると当時とは全く別の話ができあがるんじゃないかなーなんて思ったりします。
まぁとはいってもUPしてすぐ当時考えていたサイドストーリーの2、3は思い出すレベルには思い入れが強いのですが笑
そうそう、そういえば編集している中で衝撃が二つ、ありました。
一つ目。
H.Rを抜け出した人間は4人ではなく5人が正しい点。
冒頭の自爆少女、牧さんのことをすっかり忘れておりました。
作者にも忘れ去られた少女。
うわああああ、ごめんよおおおお。
需要があればサイドストーリー作るから許して!
あ、需要なければゴメンね☆
二点目。
作品構想を練ったのは少なくとも7年以上は確実に前。
キャラみんなが持っている携帯、スマホじゃない!
これは本当に戦慄しました。
作者にとって作品はまさに自分の子。
多くの人に楽しんでいただけたならば、これほど嬉しいことはありません。
稚拙ですがこのあたりで。




