半年後の君の変化1
氷柱と仲良くなってから、半年が過ぎ……彼の家族問題も最近は落ち着いてきたなと考える、二年生として通う初めての登校日の前日。
氷柱は未だに柊と名字を名乗っているものの、彼はもう両親とは会わないと本人達に宣言したのはもう一ヶ月も前のこと。……それと同時に本格的に、俺のことを“れーくん”と呼び始めた氷柱。
元カノが好きな人に、「告白してくる」宣言した時から氷柱は、パニックになっている時だけ俺の呼び方が“れーくん”と呼んでいたが、一ヶ月前からこの呼び方に統一したようだ。
言っておくけど、氷柱はぶりっ子じゃないよ。これが彼の素だ。
まあ? 呼び方が変わろうと、氷柱は氷柱だ。別に俺は構わないんだけど……。
元カノがいたことを話してなくて、しばらくの間氷柱は拗ねていたのをなだめる方が大変だったなぁ。
名字で呼ばれることを嫌がっていた氷柱の名字については二十歳になったら、菊水家の養子として迎い入れる予定だ。
彼は“柊氷柱”として、地獄だった過去の日々からのトラウマを乗り越えたいと言っていた。……そんな決意を聞かされたら、俺が反対出来る訳もなく。
心配要素だったのは、氷柱の生活費だけ。彼は特待で入っているために生活費以外は無償だ。菊水家からの仕送りを頑なに嫌がった彼に残された問題は、彼の生活費だけだったのだが……。
意外にも氷柱には収入源があるらしく、彼の両親からの仕送りがなくても生活していけるらしい額はあると聞いている。
……氷柱の最大の武器、歌声を活かした仕事だ。実際に働いているところを見たが、問題なかったので良しとしよう。
ちなみに氷柱が異能“歌声”を使う際、少女の精霊の姿になると言う問題も解決し、そうなってしまう原因もつきとめたので歌うこと自体にはもう問題は恐らくないだろうと思う。
氷柱は異能を使う際、精神状態が不安定なときに少女の精霊になってしまうことがわかった。……あの姿は氷柱の心が壊れそうになりそうなのを伝える、危険信号だったのだ。
今は氷柱の精神状態は安定しているため、異能を使っても問題はない。
「れーくん、れーくん」
「ん?」
と、考えごとをしている俺にまるで花が咲いたような笑顔を浮かべる氷柱に、俺は条件反射で頭を撫でながら彼の呼びかけに返事をした。
「もう!子供扱いしないでよ〜」と言いながらも、嬉しそうに笑う氷柱に俺は、口元を緩ませるように微笑みながら、こう聞く。
「どうした? 氷柱」
「修学旅行!今年行くんだよね、凄く楽しみだなぁ。何処行くんだろう?」
と、嬉しそうに目を輝かせながらそう言う氷柱に俺は思わず微笑みながら、再び髪をとかすように彼の頭を撫でつつ、お父様から事前に渡されていた修学旅行についての資料内容を思い出していた。
「確か今年はなぁ、一日〜四日目までは京都、奈良、大阪だったはず。
五日〜七日までは精霊界の観光だな。良く今まで異世界だってバレなかったよなぁ。流石は理事長クオリティーってヤツか」
そう言うと、氷柱はニコリと微笑みながら頭を撫でる俺の手から逃れ、腕にじゃれつくように彼は俺に抱きついてくる。
今日は特に甘えてくるなぁ、と考えつつも氷柱の好きにさせる俺なのだった。




