波乱に巻き込まれた五月2
視点???→三人称→主人公視点の順で今回の話は描かれています。
「……ふふっ、期待などしてはいけませんよ。アイツは所詮、駒ですから……最後“彼”を手に入れるのは私ですわ。それまでは……」
見惚れるくらいに美しく、艶やかな笑みを浮かべる一人の女子生徒。
だが、その表情が嘘のように……、
「泳がしておいてあげますわ、……来るべき日がくるまでは……」
女子生徒は恐ろしく低い声でそう言った後、悪役のごとく高笑いをした。
◇◆◇◆
「私はまだ、零一くんを諦められていないと……言うことですか」
山里海は静かに泣く。
ポロポロと、ポロポロと次から次へと頬を伝っていく海の涙。
――貴方は私の前では笑わないのに、あの子の前ではあんな綺麗な笑顔を……、浮かべることが出来るのですね……。
と、そう考えながら星蘭高等学校特待生の特権である、“必要単位数の半減”を持つ海はもう、その単位数を超えていたため図書室に来て、一人静かに泣いていたのであった。
ガラガラッと、勢い良く開かれた図書室のドア。海は思わず驚き、ドアがある方向へと振り返ってしまった。
海の視線の先には、先日告白された涼平の姿があった。
涼平の雰囲気には色気があって、今までの優男風の雰囲気が嘘のように海の中の印象を塗り替えていった。
海自身も納得してた。
――ああ、これが彼の本質なのか……。
と、涼平自身は普通に立っているだけと認識しているだろうが、そんな雰囲気になれていない海にとっては堪ったもんじゃない。
そんなことを知ってか、知らずか……涼平は微笑を浮かべてこう言った。
「……片想いは辛いですか? 俺は貴女が好きだ、とそう想えることだけで……それだけで幸せでした。だから、貴女にこの想いを伝えることが出来ただけでも俺は幸せだった。でも貴女は違う、零の心まで求めて苦しんでいる。俺は貴女の苦しんでいる姿を見たい訳じゃない、ならば……」
そうその雰囲気とは異なる優しい口調で言った後、涼平は続きを言うことを躊躇ったが……しばらくしてこう言う。
「……俺が忘れさせてやるよ、貴女を氷柱への嫉妬で狂ってしまう余裕がなくなるほどに……海さん、貴女を愛すから俺しか見えなくなってしまえばいい」
と、さきほどの声とは一変した強気で色気のある自信満々の声に、海はドキリとときめかされる。
――ああ、涼平くんの言葉は私を貴方だけしか見えなくさせるための、甘い“毒”なのですね……。
そう海は考えながらも、色気のある涼平の表情に見とれ、目が離せないと同時にこう考えていた。
――落ちる、いつか落ちてしまう。それが手に取るように分かってしまった今、覚悟が決まるその時まで私は逃げることしか出来ないのでしょうね……。
「貴女を逃がしはしません、俺にもまだ可能性があるって分かったから」
涼平はいつも以上に強気にそう言う。
――逃がさない? 何を言っているのです、私は貴方から逃げられない。私に許されたのは少しずつ涼平くん、貴方を好きになっていくことだけだと言うのに。
と、海はそう考えている時に初めて気付いた。涼平の目元が赤く腫れていることを。それに気付いたことで、距離を縮めていくと力強く……そして包み込むように優しく、色気のある彼の腕の中にとらわれてしまった。
その瞬間、海は悟る。
――私はいつか、この人のことを心から愛すことになる、と。
◇◆◇◆
「言うだけ言って、自分が聞きたいことだけ聞いて何しにきたんだろうね〜」
と、俺には可愛らしい満面の笑みを見せながらも氷柱は涼に対して毒を吐く。
さきほど、珍しく涼の味方をしたことで恐らく照れてしまっているんだと思う。
そんな氷柱の髪をとかすように撫でながら、あまりに微笑ましくて俺は思わず口元を緩ませた。
ん? と、不思議そうにそう呟きながらも嬉しそうに微笑む氷柱。
そんな氷柱に俺は、
「……まあ、そんなつれないこと言うなって。きっと図書室に海さんの気配がしたんだろうよ。あとはゆっくり、二人で過ごすことにしようか、氷柱」
と、穏やかな気持ちでそう言うと……氷柱は嬉しそうにコクりと頷いた。




