↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/44

六道一転流

 時は、斉藤龍馬が天空から墜落している少し前まで遡る。


「ぷっはあ!」


 神によってこの世界に落とされた転生者の一人、六道飛鳥は海面に顔を出した。


 何故、彼は海面から顔を出したか。答えは簡単で、海中にいたから。


 何故、海中にいたか。その答えも簡単で、海上に落ちたからだ。いや、落とされたと言った方が正しいだろう。


 四人の転生者の内、斉藤龍馬は湿地帯に落とされて、雪風乙姫は遺跡にワープされた。そして、六道飛鳥は海に落とされた訳だ。


「あっぷ、あっぷ。あ、木だ」


 彼は今、流木に掴まった。俗に言う漂流状態だ。傍から見れば、遭難である。


「あれ? これ、遭難じゃないかな?」


 どうやら本人からしても遭難らしい。


「神様め。よりによって海の上に落とすかよ。いや、陸地に落とされたらもっとやばかったけど。こんなことなら空中を浮く能力でも貰えば良かったかな?」


『それもそうだな』


「やっぱりな。こういうのを後悔先に立たず……って、誰?」


 飛鳥は周りを見回すが、見えるのは水平線と数羽の海鳥だ。


「はっ。まさか、海鳥が喋ったのか!?」


『何でそうなる。せめて空耳という選択肢を選んでくれよ、友よ』


「ん? じゃあ空耳なのかな?」


『お前はどんな脳みそをしている? 俺はお前の中にいるのだよ、友よ』


「え? ま、まさか、さっきダイビングした時に、海中に潜って魚を食べようとしていた海鳥を飲み込んでしまったとか!?」


『一旦海鳥から離れろ! そしてこの世界の海鳥は喋らない! 海鳥の鳥人はいて、そいつらは喋るけど!』


「じゃあ君は誰なんだい?」


『お前のことを神から任された「鬼神」だ。お前の魂の中にいると考えてもらえば問題はない。それから名前はない。お前の好きなように読んでくれ、まだ名を知らぬ我が友よ』


「僕は六道飛鳥。僕の名前にちなんで、君のことはラセツと呼ぼう」


 自分の名前を名乗り、『鬼神』にラセツと名付けて、飛鳥は天を仰いだ。


「あの神様、何気に親切だったんだね。ガイドを付けてくれるなんてさ」


『いや、あの神にそんな意図は……まあ、いいか。それより、我が友飛鳥よ。これからよろしく頼むぞ』


「ああ。こちらこそ、ラセツ。ところで君、どうにかして陸地には行けないかな?」


『すまん。俺はただ喋るだけだ。この声もお前にしか聞こえない』


「ま、右も左も分からない世界だからそれだけでも十分に心強くはあるんだけど……、今は右も左も関係ないからね」


『あ! 友よ、十時の方向に陸地らしき影があるぞ!』


「……泳いでいけと?」


 生前は文系であった飛鳥だが、転生の際に選んだ『剣術』によって基礎体力は怪物になっていた。本人に自覚はないだろうが、純粋な攻撃力と反応速度は転生者の中でもトップ。最強の一撃必殺と最速の高速移動を持っている。体力もずば抜けている。


 つまり、流木に掴まってのバタ足でも、かなり速いし、疲れは全くないのだ。


「すげえな、生まれ変わった僕」


 それが陸地に難なく辿り着き、漂流状態から開放された飛鳥の自分に対する感想であった。


「とりあえず、人に会おうか」


 飛鳥は海岸線に沿って、陸地を歩く。綺麗な砂浜と荒れた岩盤が続き、足元を怪我しないように気をつけて歩いていた。


 が、何故だろう。一時間ほど歩いたら、元の場所に戻ってきた。目印として流木を地面に突き刺しておいたのですぐに分かった。どうやらここは大陸ではなく、島で、しかも近くに他の陸地が見えないので絶海の孤島であり、おまけに無人島のようである。


 人には会えなかったし、人工物も見かけない。


「マジかよ……」


 交通事故で死んで、神様から特別な能力を与えられて、異世界に飛ばされて、海に落ちて、やっと陸地に着いたと思ったら、無人島?


 せっかく異世界に来たのに、人のいない無人島? しかも、それほど大きい島でもないから巨大な魔物もいないだろう。


 恐ろしいほど異世界を堪能できていない瞬間だった。


 加えて、飛鳥の選んだ能力は主に人工物がなければ意味をなさない。


「剣術は剣がないと使えないし、料理をしようにも振舞う相手もいないし使える道具もない。道具の心を読む能力? 天然の材料しかないよ、ここには。記憶力が上がったって、しょうがなくないか? だって読む本もないんだし。これ、どんな地獄? 深く考えずに決めた自分を恨むよ。そしてこんな場所に落としやがった神を呪うよ」


『悲観的になるな、友よ』


「うん。せめて君に実体があれば料理を作って一緒に食べたんだが……。君って、味覚あるの?」


『お前の感じたものを俺も連動して感じるようだ。お前と同じように、さっきから太陽が眩しいと思っているし、ここの海岸の砂はキメ細かいとも感じている』


「なるほど……。どうでもいい報告だ」


『おい』


 飛鳥は地面に刺していた流木を抜いた。


「じゃあ、あれだ。ここで修行しよう」


『は? 修行とは剣術のことか。何故そうなるんだ、友よ』


「うん。順を追って話そうかな」


 言いながら、飛鳥は流木で素振りを始める。


「まず、神から特別な能力を付けられて異世界に飛ばされる、と聞いて僕は思ったんだ。せっかくそういう機会に恵まれたんだから歴史に名を残すようなことをしようと。僕は本来なら歴史に名前を残す逸材だったらしいしね」


『ああ。それがどんな方面で名前を残すかは神にも分からないらしいがな』


「まあ、能力を選んだ時は深く考えなかったんだけど、この『剣術』は神が勧めてくれたものだしね。どうせなら、この剣術で名前を残そうと思った訳だ。たった今」


『今かよ』


「うん。でさ、剣術をある程度究めたらそこらの木を使ってイカダを作って、大陸に渡るつもりだ」


『新しい流派でも作るのか?』


「ああ。いいね、それ。『師匠』とか『先生』とか呼ばれるのは、悪い気がしない。いや、この場合『師範』かな?」


『お前の呼称はそこまで問題じゃないだろ。人によっても違うだろうしな。流派の名前こそ深く考えろよ』


「それはもう決めてあるんだ」


『ほう? どんな名前だ? 俺の名前と同じように、お前の名前にちなんでいたりするのか?』


「まあね。僕が生み出す新しい剣法の名前は――――」


 飛鳥は素振りを止めて、天を指差した。


「――――『六道一転流』」



■■■



 翌日。飛鳥は砂浜で目覚めた。どこぞのサバイバル番組よろしく海に潜って、木製のモリで魚を突いた。石を打ちつけて、かなり強引に火を起こした。焼き魚を食べながら、「醤油が欲しい……」と半泣きで呟く飛鳥をラセツが宥めた。


そして、『六道一転流』の開発にいたる。


「さて、新しい流派を作るのはいいが、僕は剣法に関する知識が皆無だ。小説で呼んだ偏見に満ちた世界観しかない。でも、この世界こそ偏見に満ちているんだろうから、その偏見に基づいて色々と作っていこう」


『しかし、新しい流派を作るって、何をするんだ?』


「やっぱり、型や奥義なんかを考えると思うんだよ。後は独自の鍛錬メニューかな。それは追々考えるとして、まずは大まかな型の基本を考えよう」


 言いながらも飛鳥は型の名前は決めていた。六道を冠しているからには、《天道》《人間道》《修羅道》《畜生道》《餓鬼道》《地獄道》、そして《外道》の七つがふさわしいだろう。


「最初は『天道』。さて、どんな型にしよう」


『思うに、剣がないのに剣のこと考えてもしょうがないんじゃないか? せめてそのモリみたいに木刀でも作ったらどうだ?』


「確かに。剣がない、か……」


 飛鳥はその言葉で思いついた。


「そうだ。『天道』は剣を必要としない型にしよう。奥義は白刃取りの発展系にして、武器破壊を目的とした型だな」


『そ、それは剣法と言えるのか?』


「剣法と言うより拳法とでも言いたいのかい? 否定はしないけど。剣と戦うことを前提としているし、あくまで剣法の一部なら剣法だろう。それに、武器なしでも戦えるのは強いしね」


 妙な理屈をつけて、飛鳥は次の話に入る。


「次は『人間道』だが、これはオーソドックスな一刀流にしよう。なら『修羅道』は二刀流だな。奥義は『修羅道』の方が難しくなるけど」


『「天道」が無刀、「人間道」が一刀、「修羅道」が二刀か。このままでいくと、「畜生道」は三刀流か?』


「いや、麦わら帽子被った海賊の仲間じゃあるまいし。畜生ってのは獣だからね。そして、獣といえば待ち伏せだ。居合切りって受身だからそれに近い物があるな。よし、『畜生道』は居合切りだ」


『どんな連想ゲームだ?』


「ついでに言えば、次も連想ゲームだ。『餓鬼道』は奪刀術にしようと思う。刀を持たないってのは『天道』と被るが、目的が違うからね」


『「天道」は壊し、「餓鬼道」は奪う、か?』


「そんな感じ。『地獄道』は妖刀や聖剣限定の型にするかな。やっぱり、そういう刀だと普通の刀とは違った使い方が出来るだろうし」


『まあ、火の出る刀ってのもあるからな。そういう刀剣は確かに普通の刀剣より一段上の能力があるんだから、一理ある』


「最後『外道』だけど、これに関してはじっくり考えるとしよう。焦ることはない。時間はあるんだから。それに『外道』なんだから最悪なかったことにすればいい」


 こうして考えている間に、飛鳥は二本の木刀を作り終えた。


「それぞれの型の奥義を編み出さないとな。まあ、適当に思いついた技から実用的かどうか試してみようか。使いやすいのを奥義にしよう」


『いつ頃が完成予定だ?』


「とりあえず、この一ヶ月で形にする。実戦経験が皆無だからね。さっさと大陸に上がって、そこで究める。それから十年計画くらいで完成させる。後は実績作って、門下を集める。さてさて。僕の剣術はどのくらいで本物になるかな?」


 さしあたって、飛鳥はずっと疑問に思っていたことをラセツに問う。


「ところでさ。昨日、海面に映った自分の顔を見て驚いたんだけど、僕の目、何故青くなっているのかな?」


 飛鳥は波打ち際まで歩き、海面に映ったものを見る。


 そこには、少年か少女か咄嗟に判断できない十代後半の人間が立っていた。つまり、飛鳥である。


 ほとんどのパーツは生前と同じなのだ。中性的な顔だけではない。茶髪に染めようとして失敗した、黒と茶の混じった髪。常に眠そうだと評される垂れ眼。


 だが、眼の中にある瞳の色が変わっていた。それも、右目だけ。


 空のような青になっていた。


『おそらくは神の悪戯だろうな。前世と全く同じ姿だとつまらないと思ったんだろう。数千年あの空間で管理されていて判ったが、基本的に神は気まぐれで適当で愉快犯だ』


 それを聞いて、飛鳥は天に向かって叫んだ。


「だったら、この女みたいな顔をもっと凛々しくしてくれても良かっただろうが、神様よおおおおおお! つうか、これ僕の好きな小説のキャラが元ネタだろ! ありゃ女性だろうがあああああああ!」


 そして、木刀を振りかぶって、海に八つ当たりをした。


「『六道一転流』二の型『人間道』奥義、《天断ち》!」


 ザッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


『すげえ、海が水平線の向こうまで割れやがった……』



■■■



 この飛鳥が生み出した剣術『六道一転流』だが、まだ内容の決まっていない『外道』が世界に大きな混乱を起こすことになる。


 無論、その混乱の一因が、スキル『功罪誘発』を持つ斉藤龍馬であることは間違いない。



飛鳥の基本設定は、天然で突拍子のない奴です。それから、彼に「オカマ」は禁句です。


次回は、虎鉄の番です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。