ギルド
乙姫はその内、デレるはずです。多分。
この世界には天界がある。そして、そこには四体の竜王がおり、時折下界を観察している。彼らのもっぱらの興味は、神によってこの世界に落とされた四人の転生者達の動向である。
当然、斉藤龍馬と雪風乙姫が邂逅した瞬間を、天界の竜王は見ていたのだが……
「って、あの女こえー!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさーい!」
「黄色いのが壊れたー!」
「お、おおおおおおち、落ち着け、お前ら。と、と、とにか、とにかく、砂時計でも食べよう!」
「お前が落ち着け、緑の! 砂時計食べてどうする気だ!」
「とりあえず、赤いのも落ち着きなよ」
「そう言うお前が落ち着け……って、お前は何で本当に落ち着いてんだよ、青いの!」
「慌ててもしょうがないじゃないか」
「真似できねえ真似すんなー!」
「ううううううう、怖い、怖いよ、あの娘! 可愛いとか言ってごめんなさい! 助けて、黒さん白さん! お願いだから早く蘇ってえ!」
「黙れ。あの二人にいつまでも頼るな。だが、俺が思うにあの女は『あいつ』以上に危険だ。よし、今こそ竜王の出番だ。三人とも、あれを倒しに行け」
「他力本願やってんじゃねえよ!」
「そうだよ。それにさ、根本的なことを間違えているよ、緑のは」
「それは何だ、青いの」
「あれは僕ら四人が力を合わせても、片腕をもぐのがやっとだと思う」
「「「…………」」」
「魔術は基本的に片目片腕があれば使えるからね。そして、彼女の強さの源は魔力だ。つまり、僕らが命を懸けたところで、この世界への彼女の危険度は小さくならない。あれほどの存在なら半分以下にしても大して変わらないよ」
「それこそ、白と黒の大将が復活しないと駄目ってことか」
「しかも彼女が使うのは遺跡の石版で覚えた古代魔法だからね。現代魔法は国家の規律によって性能や威力が制限されて作られたけど、古代魔法にはそんな配慮がない」
「あの遺跡、確か魔法使いが一番過激だった時代に作られたんだよね……」
「面倒すぎるな」
「せめてもの幸いは、彼女の興味が『あいつ』の宿主にいっていることだ。これはあれだ。彼には出来るだけ、人柱として生きてもらおう」
「さ、賛成だよ!」
「何だろう。『あいつ』の宿主ってだけですげえ嫌いだったのに、すっげえ気の毒になってきた。聞こえないだろうけど、詫びておくか。ごめん」
「すまんな」
「僕らが謝罪をするなんて、竜神の二人が死んで以来だね」
「これで復活した途端、あの女のことを頼むことになるかと思うと、申し訳なさで胸が一杯になるな」
「つうか、この世界を管理する神は何であんなのを送ってきたんだ!」
「あの人、結構いい加減だからね……、きまぐれじゃない? この世界を作って僕らの前に現れた時だって、そうだったみだいだし。竜神の二人だって同意見だった。僕ら以外は存在自体を知らないから、何とも言えないけど」
「愉快犯にも程があるだろ! こっちが文句言いに行けないからって調子に乗りやがって!」
■■■
しかし、竜王達の会話は、世界を管理する神々の空間に届いていた。
「愉快犯だそうだが?」
「あんな女だって気づけてたら転生させなかったよ、俺だって!」
「でも、本心ではどう思ってんだ?」
「めっちゃ面白いな! ヒロインにするつもりで転生させたのに、むしろ魔神的なラスボスになりそうじゃねえか! これが噂のヤンデレって奴か! デレを全く感じないけどな! でも、これは楽しみだ! 古代遺跡に落ちたのはただの偶然……いや、龍馬の『功罪誘発』が原因だろうな。あの能力の最悪さと面白さを再認識したぜ。こんなことが続くと考えると、楽しくて死にそうだ。神なのにな。お前もそう思うだろ?」
「確かに、これは一周回って楽しいかもな」
「だよな!」
「でも無の龍神、あんな女に目をつけられて気の毒だな。近い内に死ぬんじゃないか?」
「そんときはそんときだ」
「いい加減だな」
「神だからな。俺を本気で止めない時点で、てめえも同類だ」
「違いない」
■■■
雪風乙姫。
彼女に出会ってしまったことは何だろう。俺のこの世界での人生において、最大級の災難だったとしか思えない。あの女との再会以上の困難が想像できない。いや、困難っていうか災厄だよ、災厄。
既にトラウマになってやがる!
『情けねえな。それでも俺の宿主かよ』
「うっせえ! お前だって声震えてんじゃねえか!」
『ば、ばばばば、馬鹿言え。俺を誰だと思ってやがる。この竜が見守る世界において、二大竜神と唯一単身で戦争を行なった存在、「ウロボロス」を原型とする存在だぞ! あんな小娘にび、ビビ、ビビるはずないだろうが!』
「強がりに紛れて今何て言った!?」
竜神って、この世界の神様なんだろう? そんな奴らと戦争やったのかよ、お前の原型はよ!
そりゃ口にしたくないはずだ!
「くそ。とにかく町に行こうか。その近くにあるんだろう? 港町」
『ああ。海産の都市、「マーリム」だ』
海産の都市か。ああ、焼き魚とか食べたいな。米があるといいけど。
砂丘から一時間くらい歩いただろうか、確かに海が見えてきた。そして、その海の向こうからやってくる船も見える。
そして更に一時間ほど歩くと、大きな町が見えてきた。あれが『マーリム』か。
ゲートをくぐると活気が溢れる街並みだった。あくまで知識しかないが、神戸や横浜と混ぜたような風景だ。
「ん? 今気付いたけど、太陽がやけに高くないか。俺が落ちてきたときはこの世界に落ちた時は正午くらいだったけど、あんまり傾いてないような」
というか、あの惨劇の村に足を踏み入れた時には、夕方になりかけだったはずだ。
『ああ。爆走したからな。太陽の位置が変わるくらいの距離を移動したんだよ、お前は。というか走った時間そのものが長い。半日くらい走り続けていたんだぞ?』
「えー……」
それだけの距離と時間を走ったのに、少し疲れているだけって。俺の体、本当の意味で人間離れしてんな。
人間離れしていると言えば、異世界だけあって人間以外の亜人族の姿も町中にあった。獣耳の生えた者。鱗のある者。羽のある者。一つ目の者。異様に背が高い者。反対に、異常なほど小さい者。舌が長い者。
同じ種族でも、目の色や髪の色や肌の色が違う。特に、動物に近いタイプの亜人はそれが顕著だった。通常の人間から遠いほど、容姿の個人差が激しいようだ。まあ、種族『人間』にも外見にバラつきがあるから、一概には言えないが。
ついでに、町行く人々のステータスを見まくった。
検証の結果、『職業』に『戦士』『剣士』『騎士』『監察官』『冒険者』『用心棒』とある人々以外は、基本的にどの数値も100を超えることはなかった。また、『魔法使い』とある人の魔力は100が精々だった。どちらもアースの情報通り。
どうやら、アースの常識はこの世界でまだ通じるらしい。600どころか300の壁を越えている奴も一人もいなかったしな。
ただ驚いたのは、『称号』についてだ。『称号』の欄が『無』、つまり空白の人間が多かった。というか、『称号』のある人間(以下、称号持ちと呼ぼう)は本当に稀だ。今のところ、『騎士団長』と『草原の奇術師』しか見ていない。何だかんだで三千人の人間のステータスを見たのに、二人しかいなかった。どうやら、称号持ちは特別な存在らしい。
それから、新しい発見。ステータスを見るには人差し指で指して「ステータス」と言うのが手順だったが、左右の指を使えば二人のステータスを同時に見ることが出来た。まあ、だから何だって話だが。
お。
ギルドの看板が見えた。
『冒険者ギルド「ポーシック」 新人募集中!』と書かれている看板が、道のトーテムポールみたいな柱に立てかけてあった。
どういう意味だ?
『この地方の古代語で、「現金な豚」という意味だ』
すげえ名前だ。
看板にしたがって歩いていくと、大きな建物が見えた。二階の看板に大きく『ポーシック』。うん、間違いない。外装は西部劇に出て来るような酒場。カーボーイがいるかもしれない。
勇気を振り絞って、中に入る。
内装も酒場のようで、丸テーブルがいくつかあり、カウンターもある。そこに座る人間も何人か。だが、明らかに酒場と違うのは、壁にかけてあるボードだろう。大きく『依頼』『成功率』『報酬』『立替』などの文字と書かれている。そのボードも向き合う人も何人か。
ん? これも今気付いたけど、俺って何でこの世界の文字が分かるの? もしかしてアースが訳しているのか?
『いや、これは普通に神からのサービスだな。他の転生者もそうだろう。ちなみに、この世界の言葉はすでに一つの公用語にまとめられている。一部の方言や、古代の生活を続けている原始民族を除いてな。だから、この世界にはすでに翻訳という概念が薄い』
はーん。なるほどな。と納得しながら、カウンターでカクテルっぽい物を作っているお姉さんに話し掛ける。巨乳で美人さんだ。エプロン姿でウエイターみたいに見えるが、多分、この人が受付嬢と判断していいんだよな? 他にカウンターに人いないし。
「すいません、ギルドの新人募集の看板を見て来たんですが」
「あら? キミ、ギルド加入を希望するの?」
どうやら申し込みはここで合っていたようだ。
お姉さんは意外そうな顔をする。
「ふーん。見ない顔ってことは余所の人だね。うちみたいな弱小に外から新人が入るなんて珍しい」
お姉さんは満足そうに言うと、カウンターの下から紙を取り出した。
「はい、ここに名前と種族、あるなら称号を、可能なら住所を書いて」
言われた通りに名前と種族は書く。しかし、称号は書けない。『無限龍』だしな。信じられないし、信じられたら怖い。住所も書けない。この世界に、俺の家はないし。元の世界にもあったかは疑問だが。
文字が読めただけあって書くことも出来た。紙を返すと、お姉さんは水晶玉を取り出した。
「何ですか、それ」
「知らない? 『ピクチャークリスタル』と言って、すごく精密な絵を紙に映し出せるんだよ」
言うとお姉さんは水晶玉を俺の額に当てる。次の瞬間、強い光が光る。
そして気付くと、先程記入をした紙に、俺の顔がプリントされていた。どうやら、この水晶玉はカメラとプリンターの両方の機能を持っている道具のようだ。
「さて、これでギルド登録は終了」
「え? これだけ何ですか?」
「うん。でも簡単に加入したからって、簡単に脱退は出来ないよ? 勝手な脱退やギルドへの反逆行為は、一発で指名手配犯の仲間入りだからね?」
そ、それは恐ろしい。あれ? 俺、簡単に決め過ぎた?
『言ってなかったが、この世界においてギルド、特に冒険者のギルドに属することは、お前らの世界でいう暴力団に金を借りる行為と危険度では違いがない。だからこそ、登録が簡単なんだ。ギルドが潰れないか立場が上でない限りは、家畜のよう働くことになるな』
初耳だ! 相棒よ、それを先に言ってくれ!
『いざとなったなら、潰せばいい』
発想が乱暴かつ乱雑だぞ!
そんな俺の後悔の近くで、お姉さんは先程の書類を見ていた。
「ふーん。リョウマか。私はラシア。一応、このギルドでは親方の次に偉いから。呼称は『姐さん』で。ちゃんと敬うんだぞ?」
ギルドのサブマスターってことだろうか。
というか、そんなに可愛らしくウインクしないで欲しい。
さっきの今では、反応に困る。




