心配
俺、斉藤龍馬はこの世界の人間ではない。
だが、前の世界の記憶というものが存在しない。一切合切、何も覚えていない。あるいは最初からなかったのか。
歴史や一般教養などの知識はある。だが、それだけだ。
だから、俺にとってこの世界とは全てだ。この世界には、俺以外の転生者が三人ほどいるらしいが、彼らにとっては『前の世界があってこその、今の世界』なのだろう。しかし、俺にとっては『前の世界がないからこその、今の世界』だ。
俺は違うのだろう。この世界のどの人間とも、他の転生者とも。
違い過ぎるのだろう。
この魂に宿す『無限龍』がいい例だ。
かつてこの世界を滅ぼしかけた災厄。二体の竜神と同格の力を持った龍神。四体の竜王とさえ決定的な力量差を持つ怪物。
神の手違いか、あるいは意図的な悪意か。
どちらにしても、俺にとってそれは居心地の悪いものだった。
ただでさえ異物なのに、更に異質な存在になったようで気分が悪い。
最悪だ。
『人聞きが、いや龍聞きが悪いな、相棒よ。俺とお前は文字通り一心同体なんだ。ならばお前の業は俺の業。俺はそう割り切っている。ならばお前もそう割り切れ。俺の罪はお前の罪だ。そして俺の力はお前の力だ。好きに使えといつも言っているだろう?』
そう言われるが、俺には分かる。
お前の力を使い過ぎたら、『俺』は『龍神』になるんじゃないのか?
『どうだろうな。それはやってみないと分からんよ』
間違いなく、成るな。成ってしまうな。
『それをお前は神に望んだはずだが?』
……そうだった。それを覆してこそ、真の英雄だと、俺は神に嘯いたんだった。今思い出したら、何とも言えない台詞だよな、あれ。
そして、俺は今、それに恐怖している。自分の中の強大な力に臆している。何が、英雄だ。俺にそんな資格はないってのに。
だから、友が黙ってやられるのを待っていた。
ならばせめて、俺が、あの蒼い目の剣士を倒すとしよう。
この力を使ってでも。
■■■
ヴァイルが飛鳥にやられた翌日の朝、惨敗して凹むかと思っていたヴァイルだが、そんなことはなかった。むしろやる気に火が着いた感じだ。
「あの女男に目にもの見せてやるぜー!」
と叫んでいた。
まあ、チームのムードメイカーが凹んでいたら話にならないから、良かった。
で、チームの作戦会議。
俺、ヴァイル、マイミ、ジャジャの四人は、町の外れにある原っぱにいた。
「とりあえず、チームリーダーとチーム名を決めようぜ」
ヴァイルがそう言うまで、それを決めていなかったのをすっかり忘れていた。
「うーん。攻撃力過多なチームだから『パワーズ』」
「それ、結構伝説的なチームの名前じゃねえか。リスペクトどころかパクリはまずいって。ボツ」
「リョウマが人、ヴァイルが獣、マイミが魚、俺が鳥だから色んな種族がいるってことで『エレメンツ』」
「それも昔のチームにいる。てか、現代でもそれをリスペクトして命名されたチームは多いから今更感が半端ない。『エレメンツ・リボーン』とか『ネオエレメンツ』かとが有名だしな。ボツ」
「ベタだけどそれぞれの頭文字をとって、『マジャリョヴァ』」
「語感が悪すぎる。順番を変えてもそれっぽい名前にならないな。ボツ」
「俺の名前ってドラゴンって意味もあるんだよ。だから『ドラゴンズ』」
「それだとお前主体のチームみたいになるからダメだろ。ボツ」
「というか何でヴァイルがしきってんだよ。何? お前がリーダー決定なの? そんな話は全く出てないぞ?」
「んだよ。そんなこと誰も言ってないだろ?」
「だったら勝手にボツボツ言うなよ。採用しろは言わないからさ、とりあえず保留くらいってことで地面に書くくらいのことしてくれよ」
「何で俺が」
「そりゃしきってるから」
「いやでも勝手にやってるだけだし」
「「「うざ過ぎるぞお前!」」」
俺達三人は同調した。
「あー、じゃああれだ。先にリーダー決めよう。それからチーム名だ。多数決ってことでどうだろう?」
「いいんじゃねえ? じゃあ言いだしっぺのリョウマから、リーダー候補を挙げてけよ」
「まあ、ジャジャかな」
「え? 俺?」
ジャジャが自分を指差して、心底意外そうな顔をする。
「この中でもギルドでは長いんだし、リーダーの役目って指示だからな。俺達が陣形組むとなったらどうやってもジャジャが一番後ろになって見通しが効くんだし、指示をし易い立場ではあるよな」
「なーんだ。俺にリーダー的なカリスマがあるのかと思った」
「ここにいる四人、全員どっこいどっこいだし」
「確かに」
マイミが苦笑する。
「じゃあ俺でもいいだろうが」
「いや、お前はないな。何故なら、昨日のあのオカマ野郎の安っぽい挑発をあんなに簡単に買いやがったじゃないか。リーダーがあんな猪突猛進でいい訳がない」
「何言ってんだ。馬鹿にされたんだぞ? 俺個人だけじゃない、俺達が馬鹿にされたんだ。仲間が、チームが馬鹿にされて黙って座っているいるような奴にリーダーなんて務まるかよ」
「だけど冷静さも必要だろ」
「いいや。リーダーは熱血であるべきだ。そして、やばい時はお前らが止めろ」
「リーダーの台詞じゃねえよ!」
ジャジャが突っ込む。
「確かに」
マイミがまた苦笑した。
「誰がなっても変わらないんなら、もうクジで決めないか? それなら後腐れもないし、強運の奴がリーダーになったって感じで納得できる」
「……成る程。それいいな」
マイミの意見に皆、参加した。が、ここにはクジになりそうなものがない。アミダクジだと創った奴が有利になる。
「……もうジャンケンで良くない?」
最早、反論の理由もなかった。
「最初は」
「グー」
「ジャンケン」
「ポン!」
勝負は一発で決まった。驚くことに。成る程、確かにこれは運が味方したとしか思えない。なるべきして、リーダーになったと言える。
俺、チョキ。
ジャジャ、チョキ。
マイミ、チョキ。
ヴァイル、グー。
「よっしゃあああああああああああああ!」
勝どきを上げるリーダー・ヴァイル。
「じゃあ次はチーム名だけど、何かお前には候補あるのか? あれだけ散々人の意見否定しておいて」
「ああ。特にない」
おい。
おそらく二人もそう思ったのだろう。眉をほそめていた。
「じゃあ、さっきまでのお前らが挙げた奴を全部くっつけて……」
は?
「『パエージャ』!」
また微妙なネーミングだ……。
「ひどいな」
「馬鹿みたいだ」
吐き捨てるジャジャと、嘆息するマイミ。
「うるせえ! リーダー命令だ! 俺達のチーム名は『パエージャ』! 決定だ!」
「横暴だな、おい!」
「まあ、それでいいんじゃない? こんなことで時間食っても無駄だしさ」
「それもそうだな。これ以上ない知恵絞ってもいい名前が出るとは思えないしな。分かった。俺達は『パエージャ』だ」
「二人ともそれでいいのか!?」
ジャジャは最後まで不満全開だったが、最後の最後には渋々了承した。
その日は、チームのコンビネーションを考えるだけで終わってしまった。
■■■
「もうすぐ集まるね」
「ああ、集まるな」
「龍馬と乙姫が再会するのか……。無事かな、あいつ」
「あと一ヶ月ってところだが」
「さてどうなるかな」
「運命次第ってところだろうね。彼女と会わない可能性もゼロじゃないんだし」
「まあ、ゼロじゃないけど、限りなくゼロには近いよな」
「気の毒にな」
「同情するなら救ってやれ」
「無理だ」
「というか、嫌だよね」
「心底嫌だ」
「そして、やっぱり無理だ」
「じゃあせめて、見に行ってみるかい?」
「……久しぶりに、下界に下りるか」
「それもありだな」
「わーい」
「僕らには、彼らが何をなすのか見届ける義務がある。ならば、彼らが一堂に集まった瞬間に立ち会うのも役目だと思うんだ」
「そういうことにようか」
「まあ、そういうのも悪くないしな」
「わーい」
「黄色いのは何を喜んでんだ?」
「久方振りに下界で遊べるから嬉しいんだろ」
「百年振りに綿飴食べよっと」
「俺達みたいな人外じゃないと出来ないスケールの話だな」
「違いない」
「さあ、見るとしよう――――時代の行く先を」




