プロローグ
神に選ばれることが幸運だとは限らない。
■■■
「あれ? どこだ、ここ」
「よお、目ぇ覚めたか」
「貴方、誰ですか?」
「神様」
「へ?」
「すげえ分かりやすく言うとな、お前死んだんだよ」
「じゃあ、ここは死後の世界?」
「覚えてないか? お前、車に撥ねられたんだよ」
「うわ、分かりやすい死に方してるなあ、僕。……ああ、思い出した。本読みながら道歩いてたら急に意識が飛んだんだった。信号無視で死んだのか。間抜け過ぎるだろう」
「そう言うな。二度目の人生与えてやるから」
「二度目の人生?」
「そうだ。実は神様の間では最近、死者に特殊な能力付けて異世界に飛ばすのが流行していてよ」
「神様にも流行ってあるんですね」
「まあな。一種の育成ゲームみてえなもんだ。競争すんだよ、どんだけ強い転生者作れるか。だからルールもあるんだ」
「ルール?」
「ポイント制なんだよ。マニュアルがあってよ。そこにどんな能力が何ポイントからあるから、合計百ポイントになるまで能力を選べるんだ」
「うーん。一度死んだ以上、このチャンスを楽しむしかないですか。参考までに聞くんですが、僕ってどんな世界に飛ばされるんですか?」
「お前の思い描くファンタジーな世界で合ってるぞ。聖霊や魔獣も魔法も聖剣も召喚も錬金術も迷宮も神殿もあるぞ。ちなみに、お前以外にもこの何人かの転生者を飛ばす予定なんだ」
「へえ。何でまた?」
「この転生者作るゲームは、一般的に数人の転生者を作った方が競争や協力で強くなる傾向にあるらしい」
「さては、初心者ですね」
「何故分かった」
「マニュアル読みながら説明されたら誰だってそう思いますよ。さっさと僕に百ポイント分の能力付けて異世界とやらに飛ばしてください」
「それが神様に対する態度かよ。罰当たりめ。てか、付ける能力はお前が選ぶんだよ。どうせ俺も初心者だからな。どんな能力を付けたらいいかなんて分からん」
「大雑把な」
「そう言うな。とりあえず好きなもの言ってきな。出来る出来ないはこっちで決めるから。漫画で見たような能力、小説で読んだような道具、テレビでしか見ないような容姿、映画でしかないような運命、歴史にしか出て来ないような技術。何でもござれだ。特に、お前は俺が初めて転生させる人間だ。ある程度のワガママは聞いてやるよ」
「そうですね……それじゃあ」
「おう」
「料理の腕を上げてください」
「…………え? ごめん、もう一回言ってくれないかな? あれ? 俺神様なのに幻聴が聞こえたよ? 何でも好きな能力や道具や容姿や運命や技術をやるって言ったのに、いの一番に料理の腕を上げたいって言ってきたよ、こいつ。そんなはずないよね? 聞き違いだよね?」
「料理の腕を上げてください」
「何でだあああ! 何で料理上手になりたいんだよ、お前は! 異世界いくんだぞ! 勇者じゃなくて、料理人でも目指す気かあ!」
「僕って一番の楽しみが食事で、二番目が読書なんですよ」
「飯と本があれば生きていけるってのか!?」
「はい。だから二番目には『無生物の心を読む能力』を選ぶつもりでした」
「面白い本を選ぶ為にか」
「いえ、調理道具を使いこなす為です」
「俺何でこいつの担当になったんだよ!」
「うん? 転生者って、神様が勝手に選べるんじゃないんですか?」
「違うって。『生きていれば歴史に名を残したはずなのに早死にしてしまった人間』の中から、抽選で選ばれるんだよ。ちなみに、俺は抽選券が四枚当たった。で、お前は三等クラスの人間」
「それって高いんですか?」
「いや、低い。何せ、三等中の三等だからな」
「確かに低いですね」
「ああ。だが、一等の人間に当たればいいってもんでもねえ。あくまで可能性の話だからな。だからこそお前には頑張ってもらいたいんだよ」
「分かりました、料理は諦めます……あ、死んだ理由が不注意からだから、第六感を鋭くしてもらうことって出来ませんか?」
「あー、あるな。でもどうせなら、何か戦闘能力と合わせた方が割安だぞ」
「んー。なら、剣術とかどうでしょう? 好きな小説に剣士の話があるんで憧れるんですが」
「剣術か。半分以上、七十ポイントはいるな。でもお徳だぞ。肉体の強化や動体視力の上昇、居合切りや奪刀術の取得もある。お前の希望した第六感だって鋭くなる。名刀に出会える運まで上がるとよ。応用で体術や忍術や馬術も強化される。あらゆる方面で実戦経験をある程度積めば、天下一だ。すぐに『剣聖』と呼ばれるようになるぜ?」
「お徳だ。じゃあそれで」
「さて、早速半分使ったな。残りどうする?」
「そうですね。やっぱり、料理の腕を……」
「あーもー! 分かったよ! 十ポイントでそこらのプロが裸足で逃げ出す腕前だ! ついでに物の心を読む能力も十ポイントだからつけるか! ほれ、残りは十ポイントだぞ!」
「魔法のある世界なら、魔法や錬金術を覚えたいんで、記憶力を上げてください」
「そうだな。十ポイントの奴があるけど、それにするか?」
「いいですね、それで」
「ほいほいっと。さて、これでお前のポイントは使い切った。新しい世界でどんな人生を歩むかはお前次第だ。じゃ、行って来い」
「へ、え? ちょ、ん、何で足元が、え、うわ、ぎゃああああああああああああああ!」
■■■
「うわ、びっくりしたッス! 死んだかと思ったッス!」
「実際に死んでんだよ」
「え? アンタ誰ッスか?」
「神様だよ。ここは死後の世界的な場所」
「うっそお!」
「冷静になって思い出せ。お前は通りすがりの殺人鬼にナイフで刺されて死んだんだ」
「言われなくても覚えてるッスよ! 何で俺が死なないといけないんスか!」
「死人は皆そう言うんだ」
「犯人みたいに言うんじゃねえ! むしろ俺は被害者ッス!」
「ハッハッハッハ、今度の奴は元気がバリバリだな」
「何がおかしいんスか!」
「おかしいんじゃねえ。嬉しいんだよ、やっぱり人間は素直なストレートが一番いい。さっきの奴はひねくれ過ぎだ。本当に欲しい能力を最初に出さないんだからな。それが故意か天然か。まあ、前者だろうけどよ。俺が気付かないとでも思ったのかね」
「はあ? 何のことッスか?」
「こっちの話だ。それよか、お前さ、第二の人生歩く気ないか?」
「第二の人生ッス?」
「ああ。剣あり魔法あり迷宮あり神殿あり伝説ありの、ファンタジーな世界だ。幻想的で魅力的だろう?」
「き、綺麗なお姉さんや可愛い女の子も多いッスか!? それによって、返答は変わるッス!」
「女好きかよ。まあ、いるな。特にエルフはどいつも美人だし、獣人族は獣耳がプリティーだぜ?」
「行くッス! 超行くッス! むしろ積極的に行かせて戴きますッス!」
「おまけに、今なら好きな能力や道具を付けられる」
「……っ! 何でもッスか!?」
「ああ。何でもだ。生きていた頃、漫画やアニメに欲しかった能力はないか?」
「あ、あるッス!」
「よし。それ言ってみろ」
「透視する能力と時を止める能力ッス!」
「……えっと、ごめん。俺は一応神様なんだよ。だから、お前がそれをどういう用途で欲したか分かるんだわ。でも一応は確認しとこうか。理由を言ってごらん?」
「べ、別に女湯を覗き見る為じゃないッスよ!」
「女好きって言うかスケベで、変態だった」
「風が吹いたところで時間を止めて、スカートの中を覗こうとも考えてないッスからね!」
「また外れでーす。さすが三等、欲望が純粋な馬鹿しかいねえ。さっき食欲、今性欲。この次は睡眠欲じゃねえのな? つうかこいつ、生きてたらどんな方面で歴史に名前を残したんだ? 絶対犯罪方面だろ」
「何の話ッスか?」
「うっせえ!」
「ひい! 何で切れてんスか!?」
「はあ……つうか時を止める能力って七十だぞ? 高過ぎるから止めなさい……ん?」
「どうしたんスか? 神様」
「まあ、あれだ。能力って方面じゃなくて道具って要求なら不可能じゃねえ」
「マジッスか!?」
「ああ。『冥府の黒甲冑』ってのがある。六十ポイントの全身鎧でな。全身を透明に出来る上、強度も高い。強い衝撃を跳ね返すカウンター機能もある。戦えば戦うほど鎧も持ち主も強くなり、体力だけでなく魔力も上がる」
「なんてことッスか!」
「おまけに、持ち主の体と融合するから呪文を唱えるだけで装備出来て、普段は異空間に収納しておけるから荷物にならない」
「ただし、こいつは特定の空間掌握能力とセットでないと使えない」
「なんか携帯の契約みたいッス」
「どこの業界でも似たようなことはあるもんさ。で、その空間掌握能力は無限に物を異空間に詰め込めるから便利だぞ」
「どっかのロボットのポッケみたいなもんスか?」
「ああ。この能力で掌握出来るお前の自己専用空間だから窃盗や損壊の心配もない。無論、誰かに空間の収納物を見られることもない」
「ええ!? つまり他人に見られたら困るものを絶対的に避難出来るってことッスか!?」
「まあ、そういうことになるな」
「エロ本とかも!?」
「だろうな。一つ聞くが、何故それ単体で聞いてきた?」
「女子のパンツとかもッスか!?」
「どうやって入手する気だてめえ! まさか窃盗する気かよ! 今時稀に見るストレートな変態だよ、こいつ!」
「やっほい! 夢が広がるッス!」
「その夢、あと二十ポイント分くらい広げられるぞ。あんま広げてやりたくないけど」
「さっきから気になってたんスけど、そのポイントって何スか?」
「簡単に言うと、お前の夢への抽選券だよ」
「ん? よく分からんス」
「じゃあ理解する必要はねえよ。あれだ、鎧着るんだから体力でもあげとくか?」
「お任せするッス」
「単純に体力上げるだけだと十ポイントで足りるからな。体を鋼鉄化する能力でも持つか? 鎧を毎回戦闘の為に付けるのも面倒だろ」
「お任せするッス!」
「あっそ。よし、二号完成。普通に考えれば一号より馬鹿そうだが、愚直な分成長が楽しみではある。どうなるか。ま、行って来いや」
「はい、え? 急に床がなくなって、え、嘘、何やってんだおいいいいいいいいいいい!」
■■■
「何、ここ?」
「あの世」
「…………、あ、じゃあ死ねたんだ」
「死ねたって言い方もあれだけどな。自殺した訳でもねえのに、死にたかったってか?」
「ええ、そうよ……。ところで、貴方、誰?」
「神様」
「神様? へえ、いたんだ。あたしを助けてもくれなかったのに、神様なんていたんだ。へえ」
「嫌味な言い方だな。けど、あれだぜ? お前の不幸が神様の所為だったとしても、それは俺の責任じゃない。お前がいたのは俺の担当の世界じゃねえし。それに、不幸が神様の責任なんてのは、かなり稀なパターンなんだぜ?」
「…………」
「ま、それは捨てておこうか。本題に入ろう」
「何よ、最後の審判でもやる気?」
「んなことしねえよ。面倒臭い。むしろ逆だな。新しい人生についてだ」
「転生でもしてくれるの?」
「ああ。転生だ。お前のいた世界じゃなくて、俺の担当している世界だけどな。科学よりも魔法の発達したファンタジーな世界だ」
「そこで王子様でも見つけろっての?」
「一々面倒な女だな。むしろてめえが女王様にでもなれって話なんだよ」
「あたし、Sの気はないけど」
「そっちじゃねえよ。リアルな国家の頂点としての女王様だ。まあ、過程は必要だろうけどよ」
「力でもくれるの?」
「ああ。やる。世界を変えることが出来る力をな。まあ、選ぶのはお前の自由だが」
「へえ」
「ポイント制で百ポイント選べるんだが……」
「その百ポイント分、全部魔力に使って」
「……は?」
「だから、百ポイント全部使ってあたしの魔力を最大最強にしてよ」
「うわあ、斬新な発想だな」
「だってあんまり多く能力とかもらっても面倒だし」
「あ、もしかして、死んで自暴自棄になっていたりする?」
「する」
「まあ、いきなり死んだって言われても困るか。けど、この判断は正しいかもしれないな。基本的な魔法でさえ脅威になる。てか、ほとんど無敵じゃねえか。こいつは一本取られたな」
「何言ってんの?」
「お前が意外とすげえ奴だって分かったって話だ。やっぱ三等の欲望連中とは違うわ。二等のことはある」
「三等? 二等?」
「気にするな。あれだ、向こうでお前と同じ転生者を見つけたら分かるはずだ。目印は異常な剣の強さを持った天邪鬼だ」
「訳分かんないわ」
「それでいいさ。まあ、あれだ。好きにしてこいよ、俺の世界で。ま、あの世界の人間は俺が神様をやっていることを知らないんだけどな」
「じゃあ何が神様だと思っているのよ」
「竜さ」
「ドラゴン?」
「そうだ。四体の竜王と二体のの竜神、更に異質な竜がもう一体だ。世界を司る元素も、それに対応して七種類ある」
「こういうのの定番は土、風、火、水の四元素と光と闇の六つしか分からないけど、後の一つは何?」
「全さ」
「善?」
「善悪じゃねえよ。全部の全だ。完全さ。俺の世界では完全と無限こそ究極と絶対であるという真理があるんだ」
「何、それ」
「分かりやすいだろ? 人間がそういう風に真理という名の幻想を作っている工程ってのは、見てみれば意外と面白いんだ」
「悪趣味」
「自覚はあるぜえ? 趣味悪くない神様なんていねえよ。外道の他には、偽善者か道化しかいねえ。どれも神様には不似合いな称号かな?」
「……もういい、早く異世界に飛ばして」
「ノリの悪い女だ。まあ、いいぜ。よろしくやってくれ、お嬢ちゃん」
「そうさせて、あ、足元が、え、や、やめてええええええええええええええええええええ!」
■■■
「……誰だ、俺」
「俺も知らないぜ、お前のことは」
「誰だ、お前」
「神様」
「ふざけてんのか?」
「大真面目だよ。周り見てみろ、こんな白一色の世界、現世にあると思ってんのか?」
「……そっか。俺、死んだのか」
「そんな素っ気ない言い方もあれだな。ちゃんと自分が死んだ理由も覚えてるって証明でもあるんだが。お前何で死んだんだ?」
「神様ならお見通しだろ、どうせ」
「いやいや。神様には何でも分かるって訳じゃねえよ。知ろうとすれば知れるが、本人から聞きたいんだよ」
「言いたくないと言ったら?」
「答えなくていい」
「………」
「てか、俺は知らないんだけどな」
「おい」
「それよか、お前、これから異世界に飛ばしてやるから第二の人生を送れ」
「は?」
「拒否権はねえから」
「……分かった」
「前の三人より素直だねえ。逆に気持ち悪い。そして気に入った。さて、能力をやれるんだがどんな能力がいい?」
「能力ってのも気になるが、前の三人ってのは?」
「お前の他にも三人ほど転生者がいるんだよ。一人は静かな天邪鬼で、もう一人は騒がしい変態、そして面倒臭い女だったな」
「何だ、そりゃ」
「そう言うな。中々面白い三人だったぞ? 参考までに教えるが、最初の一人がまず選んだのは総合力って感じだな。もう一人は可能性だ。そして特化だ」
「総合力に、可能性。特化」
「格好良く言ったけど、前者の二人は自分の欲望に忠実だったで、最後の一人は自暴自棄になって適当に選んだだけだ。後から考えてみると、一人目はダークヒーローにはなれてもヒーローにはなれねえだろうな。二人目はスターにはなれてもヒーローにはなれねえな。どっちも俺の求める主人公からは遠い。三人目はむしろ、ヒロインって感じだな。ヒーローに出会っていい女になっていくんだ。で、お前がヒーロー、主人公だ」
「主人公、か。前の人生では縁のなかった言葉だ」
「だが次の人生ではなれるぜ。お前の人生の主役じゃなくて、お前の世界の主役に。底辺ならぬ頂点に」
「……」
「さあ、選択しろ。お前の望む力は何だ?」
「なら俺は、『目視した能力を自分が使える能力』が欲しい」
「いかにも高そうなのを……、あれ? 何で四十なんだ? やけに安いな」
「四十? 何の話だ」
「ああ。実はお前にやれる能力には限度があって、合計で百ポイントになるように選べるようになってんだが、妙だな。この手の主人公が使うような能力は九十クラスなんだが、こいつは四十。能力を複写する能力、『全能制覇』……。ま、いいか」
「適当だな」
「前の二人にも似たようなこと言われたよ。さて、念願の能力の他に六十ポイント分、何か追加出来るぜ? 具体的には何がいい?」
「てっきり一つだけだと思ってたから、急に言われても。それに、最初の能力があるからどんな能力でも見さえすれば使えるようになるから、欲しい能力って浮かばないな」
「好きな漫画のキャラとか想像してみ?」
「好きなキャラか。何でも立ち上がる不屈のヒーロー……そうだ。不死身にしてくれよ」
「ふてぶてしいよ。そして不死身ってヒーローって言うか悪役の能力だろ? お前の不屈はなんかせこいぞ」
「うるせえ」
「つうか、お前のイメージする不死身は七十ポイントだ。無理だな……不死身は無理だけど、奥の手として『龍神格化』ってのがあるぜ。これ付けると回復も桁違いに早くなる。そして、いざって時に龍に変身できる」
「そういうのがあるなら、先に教えろよ」
「暴走するぞ、これ」
「暴走するのか。それは嫌……じゃないな」
「え?」
「そういうのに立ち向かってこその、主人公だろ?」
「……」
「暴走なんて、捻じ伏せてやる」
「……くっくっく。いいね、その蛮勇さ、身の程知らずな自信。俺が求めていたのは、そういうのだよ」
「お気に召して何よりだよ、この神様野郎」
「不敵過ぎだろ。さすがは一等賞の死人の魂。こいつは出世か破滅、一か零の大博打だ」
「そりゃどうも」
「英雄になってこい」
「おう、やってやる」
「ところで、まだポイント残ってんだが、まだ何かないか?」
「雰囲気台無しだな。今、明らかにこれから送り出す感じだったじゃねえか」
「悪い悪い。で、さっさと決めろ」
「適当に主人公的要素でも付けてくれ」
「分かった。じゃあ『功罪誘発』で」
「へえ、トラブル……何だって!? トラブルメーカー!?」
「十ポイントで主人公的要素ってそれくらいしかねえんだ。喜べ。退屈しない人生になるぞ。安心しろ、休める程度に安息の時間はあるらしい。まあ、本当に僅かな安息らしいが。自分から動かなくても、世界の流れがお前に向かうぞ。時代はお前と供にある! 死ぬまで波乱万丈だ」
「え、ちょ、待て、他に何かあるだろ!」
「うるせー。さっさと行け」
「まだ話は終わって、は? 下がなく、え? このやろおおおおおおおおおおおおおお!」
■■■
「どうだ? 初の転生者を作った感想は? お前、一人だけ一等賞の死人当たったんだよな?」
「ああ。例の死因不明の奴な」
「どんな奴だった?」
「意味不明な奴だった」
「あっそ。で、お前さ」
「おう」
「何考えてんの?」
「何のことかな?」
「とぼけるな。一人目には、肉体に『鬼神』を刻んだ」
「さあて、あいつは力を欲したから安くて凶悪なのをくれてやっただけだ」
「二人目には、便利な鎧と偽って『破壊神』を封じている異物を与えた」
「あれ? 俺、鎧の能力は伝えたけど、前歴については伝えてなかったっけ?」
「三人目には、単純な魔力強化だけを願われたはずなのに、精神に『邪神』を巣食わせた」
「いいじゃねえか。そっちの方がより強化出来るんだから」
「四人目には、こともあろうに龍神、しかも『無の龍神』を魂に宿させた。よりにもよって、『属性を司る龍が守護する世界』に『無』を送り込むことがどれだけ狂った行為か想像出来ない訳じゃないよな? 神として」
「俺は本人の了承を得たぜ?」
「確かにポイントは全員百ポイントジャストだが、内容を意図的に隠してそんな異能の力を授けるなんて、神様としてあるまじき行為じゃないのか? それに、『功罪誘発』なんて正気の沙汰じゃない。マニュアルにも書いてあるだろうが。『転生者には極力与えないでください』ってよ」
「かっかっか。ルールは犯してねえよ。説明は端折ったが、端折るくらいは皆やってんだろ? ちゃんと『最低限』の説明はやったぜ? それにトラブルメーカーを与えたところで、それを罰するルールはねえじゃん?」
「……最低限? 最低の間違いだろ、問題児が」
「問題児? 上等だな!」
「お前……!」
「はははははははははははははははははは!」
「畏れろ、人間! 狂え、世界! 歪め、歴史! 英雄が多勢の味方とは限らないし、勇者が世界を救うとも限らないし、天才が歴史を前向きにするとも限らない! さあ、絶望と崩壊、そして狂気を、全てにばら撒いてこい!」