悪役だって楽じゃない
「クックックッ。よくぞここまで来たものだ。ほめて使わすぞ。ヒーロー諸君」
使い古されたこんな台詞を、俺は頑張っていい声を作って言う。
「くっ、世界征服なんて、そんなことはさせないぞ! 悪の親玉!」
なんだよ。悪の親玉って。魔王って言えよ。最初の時言ったろ俺。
「私の世界征服……誰にも邪魔はできん! たとえおまえでもな! さぁ、こい!」
さぁ、こい! じゃねーよ。こんな奴に関わらなけりゃもっとスムーズにいったんじゃねーの? 世界征服。でもなぁ、なんだかなぁ、悪の親玉としての血が騒ぐんだよなぁ。こいつをスルーしたら面白くないだろってさ。先祖が言ってる気になるんだよね。
「俺が、いや俺たちがいる限り! お前の好きなようにはさせないぞ! いくぞ! みんな!」
「……いや、お前以外みんな帰ったよ? なんかお前が自分の世界に入ってる間に他の奴ら帰ったよ?」
「なん……だと……!」
このレッドの暑苦しさ。マジ半端ない。こいつら5人そろって初めて隊列完成すんのに。
「くっ……やるな! 悪の親玉! だが! 俺一人だとしても!! おまえには負けん!!!」
「……なんもしてねーよ。おまえに呆れて帰ったんだよ」
そう呟いたその時、ツッコミ担当はこの俺だ! と言わんばかりにイエローが草むらから飛び出てきた。
「ちげーよ! おまえらふたりのやりとりに呆れたんだよ! つーか何? 何お前自分のこと棚上げしてツッコミしてんだよ!? お前だって最初になんかキャラ作ってきただろ! 忘れんなよ! 自分のキャラ! しかもなんだよどこだよここ。公園!? 公園なのか!? 子供たちが砂場で遊んでっぞ!? ママさんたちが不審者を見る目つきだぞ!? 俺たちヒーローなのに! ヒーローなのに!」
よく口が回るなーこいつ。さりげなくこの俺にも精神攻撃を仕掛けてくるあたり、やるなイエロー。だが馬鹿な奴だ。自分で墓穴を掘りやがった。
「この場所を指定してきたのはお前らだろ」
「えぇっ!? そうなのかレッド!?」
「……ああ。最近はなかなか物騒な世の中だからな。学校のグラウンドとか提供してくれないんだあんまり。かといって海でやるとな……ブーツん中砂だらけになっちゃうし。テレビ局のスタジオとか借りる金ないしさ」
「そんなの魔王のアジトでいいじゃんか! なぁ! 魔王?」
「バカヤロォッ!」
どがしゃあ!っと音がしてレッドがイエローをぶん殴った。
「おまえ……! おまえ……!! 魔王のアジト知ってるのか!?」
まぁ知るわけねーわな。最近引っ越したし。
「……知ってるよ。閑静な高級住宅街の一軒家。戦闘員だった奥さんと、まだ小さい子供が二人、あと犬も飼ってるな。地下一階、地上二階建の近所でも評判の家だ」
えええええええええぇぇぇっっ!!!? なんで? なんで知ってるの!? 結婚したことも言ってないし。もしかしたらこいつら俺が資産運用で稼いでるのも知ってるのか?
「じゃあわかるよな……? そんなところで戦闘はできないって」
いや、ちょっ、お前も知ってたのオオォ!? あっぶねーわマジこいつら。プライバシーなんてなんのその。へたすりゃ犯罪です。
「……ああ。すまなかったな。配慮が足りなかった」
「いや、俺こそすまん。アツくなっちまった」
「おいおい。おまえがアツいのはいつものことだろう?」
そう言ってふたりで笑い合っている。そろそろ日も傾いてきた。夕方5時くらい。
「今日は鍋にしようぜ」
「いいね。寒くなってきたしね」
「他の奴らも誘おうぜ?」
「あいつら今日バイトだってよ」
そんなことを言いながら二人仲良く帰って行った。あれ? 俺放置されてない?
「…………あっ。やべっ。俺も買い出し頼まれてたんだった。」
今日はキムチ鍋にしよう。