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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
65/74

28-縄銃


 モニター越しに激闘を繰り広げる巨獣たちを見詰めながら、シルヴィアは必死に頭を回転させていた。

 敵である怪獣は、魔力がある限りどれだけダメージを与えても即座に回復してしまう。

 本来、ミツキたちのような幻獣は、魔力さえあればいくらでも回復するものだ。それでも、あのレイフォードと名乗った怪獣ほどの回復速度はない。

 なんせレイフォードは、身体の核である魔石さえ無事ならば、身体はいくらでも再構成されてしまうのだ。幻獣と言えども、手足といった各パーツを失えばその再生にはそれなりの時間を要する。


「……本当、出鱈目な存在よね」


 モニターに映る、巨大な黒い狼の背中から怪獣の上半身が生えているという異形の姿を見ながら、シルヴィアは誰に告げるでもなく零す。

 あの異形の怪獣がどれほどの魔力を内包しているのか不明だが、このまま攻撃し続けていても埓があかないのも事実である。


「司令。アンジェリーナ怪曹とベアトリス怪曹を少々お借りします。それから、『騎士(ナイト)』に一旦、帰投命令を出してください」


 振り返ったシルヴィアが告げた言葉に、権藤の眉がぴくりと揺れた。


「現状を打開する妙案が浮かびましたかな?」

「ええ。このまま手をこまねいているだけでは、いずれジリ貧になりますから。思いついた事は何でも試してみたいのです」


 力強い視線を自分へと向けるシルヴィアに、権藤はふっとその口元を緩めた。


「承知した。アンジェリーナ怪曹とベアトリス怪曹は白峰二尉に帰投を伝えた後、現状の任務から一時離れてカーナー博士の指示に従え」

「了解しました!」


 全く同じタイミングで返事と敬礼をする二人。この辺り、さすがは双子というべきシンクロ具合だった。




 帰投命令に従い、格納庫へと再び戻った『騎士』から降りた明人は、目の前に鎮座する巨大な兵器を見て目を丸くした。


「何だ……こりゃ……?」

「ああ、これはカーナー博士の指示の元に前々から造っていた特製のワイヤーランチャーですよ」


 通りかかった整備員が、明人の呟きに応えてくれた。

 確かにその整備員が言うように、形そのものはガス圧でワイヤーの付いた鉤状のアンカーを打ち出すワイヤーランチャーに違いない。

 しかし、問題はその大きさだ。

 はっきり言って、人間に扱えるような大きさではない。全長は十メートルを余裕で超え、その重量も下手をすると戦車一両分ぐらいはあるかもしれない。使用されているワイヤーも、その直径が二十センチ以上もある。


「こいつはもしかして……」

「ええ、二尉の考えた通り、こいつは『魔像機(ゴーレム)』で使用する事を前提にしたものですよ」


 整備員の言う通り、『騎士』ならこのワイヤーランチャーを取り回す事が可能だろう。


「しかし、なぜ『魔像機』用のワイヤーランチャーなんかを?」

「さあ? そこまでは自分たちも判りませんね。自分たちは言われた通りのモノを造っただけですから。ああ、そうそう、『騎士』の簡単なメンテナンスと補給が終わったら、このランチャーと一緒に『騎士』を第三格納庫へと移動させるようにとの、カーナー博士からの伝言です」

「『騎士』でこのデカブツを持って行けって事か?」


 明人の質問に、整備員は頷いて見せた。

 その理由を彼に尋ねたところで、きっと彼もそこまでは知らないだろう。

 そう考えた明人は、『騎士』の整備と補給が終わるのを待って、指示通りに『騎士』にランチャーを持たせて第三格納庫へと向かうのだった。




 シルヴィアに言われた通り、ランチャーを抱えた『騎士』と共に第三格納庫へと到着した明人。

 内部からの操作で開いた扉を潜り抜けた彼の目の前に、ごちゃごちゃとした格納庫の内部が広がっている。

 この第三格納庫は、普段は各種車両や兵器の整備用のパーツや工具などを収納している格納庫である。

 怪獣と戦闘中である現在、本来なら多くの整備員などが行き来していてもおかしくないのだが、なぜかここには人の気配がない。

 そして、その代わりというわけでもないだろうが、ローブ姿の三人の女性たちが格納庫の床に大きな魔法陣を描いていた。


「……この状況……またなのかよ……」


 少し前にも似たような光景を見たのを思い出し、明人は『騎士』の操縦席(コクピット)で深々と溜め息を吐いた。

 そんな明人の心境を知ってから知らずか、魔法陣を描く手を止めたシルヴィアが彼へと指示を下す。


「白峰二尉。そのワイヤーランチャーを魔法陣の中央に置きなさい」

「……了解しました」


 『騎士』を操作し、抱えてきたランチャーを指示通りに魔法陣の中央へと置く。

 そして、それを終えると『騎士』の外部モニターを落とした。

 きっとこれから、外にいる三人の魔術師たちがワイヤーランチャーに何らかの施術を行うのだろう。

 となれば、間違いなくあの三人は半裸、もしくは全裸となるはずだ。

 シルヴィアたちのあられもない姿を見ないようにして、明人は『騎士』の操縦席のシートへと身を委ねた。


「Sir. 私も外部モニターの電源を落とした方がよろしいでしょうか?」


 操縦席に響くのは『騎士』自身の声。

 その問いかけを聞いて、明人は今更ながらとある疑問を感じた。

 ミツキは幻獣であるものの間違いなく女性格だ。そして、明人が知るもう一体の幻獣であるベリルは男性格である。

 となれば、『騎士』にも性別があるのだろうか。


「そう言えば『騎士』。おまえって男か女かどっちだ?」

「No Sir. 私には性別はありません。私が幻獣として覚醒したのは、極めて特殊な例ですから」


 はっきり言って、明人にとっては幻獣なんて存在はいまだに理解の範疇外なのだ。故に、本人が性別がないと言っている以上そうなのだろう、としか明人には判断する材料がない。


「そうだな。取り敢えず、おまえも視覚を遮断しておけ。ただし、それ以外の感覚はそのままだ。どんな連絡が入るか判らないからな」

「Yes Sir.」


 主の命令に従った『魔像機』の、その瞳に該当する部分の輝きが失せる。

 その事に、半裸姿で魔術の行使に集中していた三人の魔術師たちは、全くきづく事はなかった。




 一号怪獣ベルゼラーの上半身から、無数の触手が放たれる。

 放たれた触手は、その一本一本が意志を持つかのように、勝手気ままな軌道を描いて銀の竜と白い鷲獅子(グリフォン)へと襲いかかった。


(──ったくっ!! いつになったらこの触手はネタ切れになるんだよっ!?)


 迫る触手を時に牙て噛千切り、時に爪で切り裂き、時に障壁を張り巡らせて防ぎながら和人が愚痴る。

 彼の視界の隅に、同じように触手に追い回されて空を旋回している鷲獅子の姿が映った。


(いつ……と言われれば、あ奴の魔力が尽きた時、としか言いようがないのぉ)

(だから、それはいつなんだよっ!?)


 一度に迫る数本の触手を、和人は竜の尾をぐるりと振り回して纏めて粉砕する。最近では、翼や尾といった本来ない部位も、こうして自由に使いこなせるようになっていた。


(いくらあ奴とはいえ、内包魔力が無尽蔵というわけではあるまい。いつかはその魔力が底を突く時があろう。しかし……)

(あいつの魔力が尽きるのが先か、俺たちがあいつにやられるのが先か、か……)


 和人がそう呟いた時、突然「ふぃん」という甲高い耳障りのような音がした。

 と同時に、銀竜の身体を激しい衝撃が襲う。


(ぐぁっ!! な、なんだ、一体っ!?)

(震動だ! 獣王(じゅうおう)の力だ!)


 鳳王(ほうおう)が熱を直接操るように、獣王は震動を操る。

 その最たるものが「粉砕咆哮」だが、「粉砕咆哮」は最大の効果を発揮するのに時間を要するという欠点を持つ。

 そのため「粉砕咆哮」を避けるのは難しくはないのだが、今の震動は「粉砕咆哮」ほどの威力はないものの、銀竜の身体を直接揺さぶり、その震動は少なくないダメージを与えた。


(和人っ!! 大丈夫っ!?)

(あ、ああ、大丈夫だ。だけど、ミキサーに入れられる果物や野菜の気持ちが理解できたぜ)


 震動の衝撃で体勢が崩れ、少しばかり海へと落下した身体を立て直しながら、和人は茉莉の質問に何とか答えた。

 相変わらず茉莉は触手に追い回されており、それを撃退するために周囲に雷弾を(ばら)まいている。

 あれでは遠からず、彼女たちも魔力切れを起こすだろう、と和人は震動によって引き起こされた頭痛を必死に噛み殺しながら考えた。


(どうする、ミツキ? このままではこっちが先に力尽きるぞ?)

(むぅ……とは言え、正直打つ手がないのぅ)


 きゅっと形のいい眉を寄せながら、ミツキが苦悩の表情を見せる。

 もしも和人に十分な魔力があれば、「光波竜撃(シャイニングブレス)」で力押しも可能だろう。しかし、今の彼の魔力では、「光波竜撃」は一回放つのが精々。無駄打ちすることは許されない。

 かといって、威力の小さな攻撃をちまちまと加えたところで、相手が消耗する気配は全くない。確かにこれではミツキが言うように打つ手がなかった。


(和人! 茉莉くん! 聞こえるかっ!?)


 対処方法を悩んでいた和人の耳に、魔道パスを通じた兄の声が響く。


(兄ちゃんっ!? 急にどうしたんだよっ!?)

(シルヴィアさんが──いや、カーナー博士が立案した作戦がある。協力してくれ!)

(シルヴィアさんが……? そりゃあいいけど、どうすればいいんだ?)

(あいつの……確かレイフォードだったか? あいつの動きをほんの少しでいい、止めてくれないか?)


 兄のその要請に、和人はあまり深く考える事もなく応と答えた。

 兄である明人。そして既に義姉(あね)と認識しているシルヴィア。

 その二人が何かしようとしているのだ。彼にはそれを疑問に思ったり、不審がったりするつもりは全くない。

 そしてそれは、和人だけではなく、茉莉、ミツキ、ベリルも同じ思いで。

 二人と二体は、思いを一つにして行動する。そこに打ち合わせや相談など必要ない。それほどまでに、二人と二体は理解し合っていた。

 白い鷲獅子が飛行速度を更に上昇。背後に迫る無数の触手を一時的に振り切る。

 そして、鷲獅子と触手の間に銀の竜が飛び込んで、障壁や光弾で迫る触手を破壊する。

 その間に鷲獅子は、今まで触手の迎撃に回していた雷弾を、レイフォードへの攻撃へと向けた。

 和人の残存魔力が少ない事は茉莉も承知している。そのため、残存魔力が多い茉莉がフォワード、和人がディフェンスを受け持つ。二人は特に相談などする事もなく、ごく自然に自分の役割を理解していた。

 今までを遥かに上回る数の雷弾が鷲獅子の周囲に出現する。茉莉とて残された魔力は決して多くはない。それでも、残された魔力の半分以上を雷弾へと変換し、それを一斉に解き放つ。

 その様子はまさに雷光。光り輝く尾を引きながら、無数の雷弾はレイフォードへと降り注ぐ。

 レイフォードとて、その攻撃をむざむざと受けたりはしない。身体の周囲に障壁を張り巡らし、迫る雷弾から身を守ろうとする。

 障壁と雷弾がぶつかり合い、周囲に激しい光が迸り、轟音が大気を震わせる。

 レイフォードが張り巡らせた障壁は強固なものであった。しかし、雨のように降り注ぐ雷弾は、徐々にその障壁を摩耗させ、ついには穴を穿つに至った。

 障壁を突き抜けた雷弾は、今度はレイフォードの身体を削っていく。

 しかし、レイフォードは無限とも言える回復力で、削られた身体を端から修復する。

 さすがのレイフォードといえども身体中に刻まれるダメージを回復させるため、その動きは空中に釘付けとなってしまう。

 そして、それこそが茉莉とベリルの狙いなのだ。

 轟音と共に降り注いでいた雷弾が、不意に止んだ。

 その事をレイフォードが不審に思うよりも早く、再び高速で飛来した何かが彼の身体へと突き刺さった。

 その飛来物の速度は、高速ではあるものの鷲獅子の雷弾に比べれば遥かに遅い。それでも、動きを止められていたレイフォードには、その飛来物を身体を捻って躱す事も障壁で防ぐ事もできず。

 飛来物は鈍色の尾を引きながら、獣の背中に生えた怪獣の上半身へと突き刺さる。

 いや、尾を引いていたのはそう見えたからではない。その飛来物には本当に鈍い鉄色の尾が存在したのだ。

 その長い長い鈍色の尾は、やや遠くに見える怪獣自衛隊城ヶ崎基地まで続いていた。


 『怪獣咆哮』ようやく更新。


 思ったように筆が進まず、更新が随分と遅くなってしまいました。

 しかし、果たして今年中に完結まで行けるのだろうか? 少々不安になってきました(笑)。



 そういえば、随分と前に当面目標として「総合評価1000点オーバー」を掲げましたが、いまだに達成されておりません(笑)。

 一体、いつになったら達成できるやら。なんとか、完結するまでには達成したいものです。



 では、次回もよろしくお願いします。


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