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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
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27-脱落

 最初に仕掛けたのは、茉莉とベリルのコンビだった。

 自分たちより高い高度にいるレイフォードへ向けて、白い鷲獅子(グリフォン)から無数の雷弾が飛ぶ。

 打ち出された雷弾は一斉にレイフォードの巨体のあちこちに突き刺さり、弾けてその身体の各所を破壊する。

 だが、破壊された身体は、見る見る内に復元されていく。


(……あいつの回復能力は健在ってわけか……!)

(うむ。主という魔力の供給源を失って尚、あれだけの回復を見せるとはの……)


 和人とミツキが共に渋い顔を見せる。

 と、レイフォードの肩、腹、右側頭部がぼこぼこと煮立つように膨れ上がると、ぱんという破裂音と共に弾け飛んだ。


(あれは……?)

(あれは鳳王(ほうおう)の仕業だろうて。あ奴の熱操作で、身体の熱を部分的に直接上昇させたのだ)


 和人が隣に近くにいる黄金の猛禽へと視線を移せば、猛禽はどこか人間臭い表情で自慢そうに銀竜を見ていた。

 だが、その傷もまた、見る間に塞がっていく。


(くそっ!! あいつにはどれだけの魔力があるっていうんだっ!?)

(無尽蔵の魔力を持つ主の言うべき言葉ではないが……今だけは同感だな)


 レイフォードの回復能力は、魔力がある限り有効だ。

 となれば、和人たちの取る戦法は必然的に、相手の魔力が尽きるまで攻撃を加え続けるというものになる。

 だが。


(……正直、今の主の魔力は底を突く寸前だ。無駄な攻撃は控えたい)

(……となると……茉莉! ベリル!)

(おっけーっ!! 任せてっ!!)

(心得た、和人殿)


 和人の意図を汲み、鷲獅子の周囲に再び無数の雷弾が出現する。

 そして雷弾は、一斉にレイフォードへと向けて放たれる。

 それは点の攻撃ではなく面の攻撃。

 レイフォードの全身至る所に雷球は着弾し、その身体を削り取っていく。

 雷弾の一発一発は、精々体表を削る程度の威力しかない。しかし、どんなに低威力な攻撃でも、同じ箇所に続けざまに命中させれば、極めて大きな効果を発揮する。

 絶え間なく続く、雷弾による()()()()()の絨毯爆撃。

 それに晒されたレイフォードの巨体は、まるで削岩機にかけられた岩盤の如く、見る間にその原型を失っていく。

 どれぐらい、その爆撃は続いただろうか。

 雷弾が爆ぜる音と、レイフォードの身体が消し飛ぶ音。双方が奏でる爆音が不意に止んだ。

 爆撃が止み、レイフォードの姿が再び和人たちの目に入る。

 今、レイフォードは爆撃によって、骨格とほんの僅かな肉片だけという無残な姿になっていた。

 いや、骨格の大半もまた、雷弾によって削られている。

 そして。

 そして更に、そんなレイフォードへと止めを刺さんと飛来するものがあった。

 だが、それは銀竜の攻撃でもなければ、黄金の猛禽の能力でもない。四つの軌跡が、少し離れた海獣自衛隊城ヶ崎基地から放たれたのだ。

 四つの軌跡は白い噴煙をたなびかせながら、城ヶ崎基地から一直線に上空のレイフォードへと飛翔する。

 三菱電機製造、03式中距離地対空誘導弾。

 城ヶ崎基地から発射された四発のそれは、緩やかな弧を蒼穹に描きながら標的へと突き刺さる。

 閃光。そして轟音。

 空中に咲いた真紅の花が、レイフォードの崩壊寸前の身体を飲み込んだ。




「着弾確認! 誘導弾四発、全て目標に命中しました!」


 03式を操作したオペレーターより、全弾命中の報が城ヶ崎基地の司令室に飛び込んでくる。

 もちろん、司令室でも03式の誘導弾が命中しているのは確認済みである。

 それでも、その結果に司令室に小さな歓声が上がる。


「シルヴィア師、白峰二尉より通信が入っています」


 アンジェリーナが、明人から通信が入った事を告げると、シルヴィアは即座にそれに応じる。


『シルヴィ……いえ、カーナー博士。博士に命じられた魔石の探索ですが、『騎士(ナイト)』の探索能力を用いても発見できませんでした』

「そう。やっぱりね」

『……カーナー博士、博士は魔石が発見できないと判っていたんですか?』

「判っていたってわけじゃないわ。おそらく、そうだろうと思ったの。それで、白峰二尉にその確認を兼ねて探索してもらったのよ」


 シルヴィアが明人に命じたのは、先程撃破した七体の怪獣の魔石の発見である。

 ドロンキーだけは海上で倒されたため、魔石も海中に沈んだと思われるが、残る六体は城ヶ崎基地の敷地内で倒されている。当然、それらの怪獣の核ともいうべき魔石は敷地内に残っているはずなのだ。

 だが、幻獣である『騎士』の対魔探索能力を用いても、魔石は発見できなかった。

 そして、そのことをシルヴィアはある程度予測していたらしい。


「どういう事ですかな、カーナー博士?」


 隣でその報告を聞いていた権藤の質問に、シルヴィアは渋い顔で答える。


「あくまでもこれは私の推測なのですが、怪獣たちの魔石は、全てあのレイフォードという者が回収したのだと思います」

「レイフォードが? しかし、どうやって?」

「具体的な方法は私にも不明ですが、魔術的な方法を用いたのは間違いないでしょう」


 シルヴィアたちは知らないことであるが、かつてレイフォードは海中に没した獣王(じゅうおう)の魔石を、遠隔地より操作して手元に納めた事がある。それと同じ方法を用いれば、彼が倒された怪獣たちの魔石を回収するのは不可能ではない。


「倒されたとはいえ、魔石の魔力がゼロになったわけではありません。おそらく、レイフォードは回収した魔石に蓄えられていた魔力を用いて、再生しているのではないでしょうか」


 シルヴィアの言うように、倒された怪獣の魔石には残存魔力がある。倒された事で魔石に蓄えられた魔力の多くは失われるが、それでもゼロになるわけではない。それも巨大な怪獣の残存魔力である。その残った魔力は、シルヴィアクラスの魔術師数人分の魔力を含有する。

 その魔石が七つもレイフォードの手にあるとすれば、自身とベルゼラー、そして獣王の魔力と合わせると合計された魔力は膨大なものとなるだろう。


「では……?」

「はい。先程の誘導弾では止めとなり得ないと私は考えています」




 空の真ん中で、爆炎が徐々に薄れていく。

 海上を吹き抜ける風が、炎と煙を蹴散らし、その中に隠されていたものを露にする。

 いや、炎と煙を蹴散らしたのは風ではない。

 魔力による破壊の意志を込められた咆哮。それが炎と煙を吹き飛ばしたのだ。

 事実、和人たちは炎と煙が消え去るより早く、狼の遠ぼえのようなその咆哮を耳にした。


(粉砕咆哮……っ!?)

(くっ、あれだけの攻撃を喰らわせてまだ反撃する余地があるのか?)


 粉砕咆哮を警戒し、三体の幻獣はそれぞれ分散する。

 思い思いに飛び去りながら、和人たちは、茉莉たちは、そして鳳王は見た。

 吹き飛んだ炎と煙の向こうに、傷一つない姿で存在するレイフォードを。

 その瞬間、それまで聞こえてきた遠吠えのような咆哮が掻き消えた。

 次いで感じたのは、どん、という音と衝撃。

 獣王の口から放たれた粉砕咆哮が、進路上の空気を破壊しながら突き進んだのだ。

 進路上の空気が破壊されたため、一瞬真空となった場所に周囲から空気が雪崩れ込む。

 先程の「どん」という音と衝撃は、いわゆる「カマイタチ」現象が引き起こされたために生じたのだ。

 もしも粉砕咆哮の進路上にいれば、「カマイタチ」に巻き込まれて全身を切り刻まれていただろう。


(だが、あいつも先程の攻撃で相当魔力を消費したはずさ! ここは一気に畳みかけるべきだね!)


 黄金の猛禽が、その六枚の翼を翻して大空を旋回する。そしてその勢いのまま、進路をレイフォードへと定める。

 巨大な黄金の矢となり、レイフォードへと突き進む黄金の猛禽。その飛翔速度はあっという間に音の壁を超え、周囲に衝撃波を撒き散らしながら鳳王はレイフォードへと突っ込んで行く。

 だが、レイフォードもそれをただ、黙って見ているわけではない。

 獣王の背中から生えているベルゼラーの上半身。そこから無数の触手が飛び出し、迫る黄金の猛禽を迎え撃つ。

 いくら鳳王が空の王者であるとはいえ、突然進路上に張り巡らされた触手の檻を交わすのは不可能。ましてや、音速以上の速度で飛んでいる今、突然の進路変更は例え幻獣王とはいえ無理であり、結果、黄金の猛禽は自ら空中に出現した触手の森の中へと飛び込んでいく。

 それでも空中で何とか身体を捻り、触手の檻を潜り抜けようと試みる鳳王。

 しかし、空中に張り巡らせられた触手の網は厚く、いかに鳳王とはいえその全てを躱すのは無理であった。

 ついに無数の触手が黄金の猛禽の身体を捕らえる。


(か、和人っ!? 鳳王さんが……っ!?)

(お、おい……大丈夫なのか、あいつ……?)


 鳳王が捕らえられた光景を見て、呆然と呟く和人と茉莉。

 だが次の瞬間、鳳王を捕らえた触手の網は一気に爆散した。

 触手に捕らえられる寸前まで纏っていた衝撃波と、鳳王の熱操作によって内部から弾け飛んだのだ。

 しかし、鳳王もまた、無傷ではなかった。

 触手に貫かれたのか、身体の各所に穴が穿たれ、そこから夥しい量の血が流れ出ている。


(無事か? 鳳王?)

(……無様なところを見せてしまったね。ちょっとばかり……調子に乗りすぎたよ……だ)


 触手の網から逃れた黄金の猛禽は、ミツキの問いに苦しそうに答えるとそのまま高度を落としていく。


(申し訳ないが、しばらくここは任せる……傷を癒したら、すぐに戦線に復帰するから)


 鳳王は和人たちにそう伝えると、どんどんと落下してついには海へとその姿を消した。


(お、おい、ミツキ。あいつ大丈夫なのか?)

(心配はいらぬよ、主。あ奴も伊達に幻獣王などと呼ばれておらん。あ奴の言葉通り、暫くしたら戻ってこよう)

(そうか。なら……うおっとっ!!)


 和人は慌てて空中で身を躱した。

 ほんの数瞬まで彼らがいた場所を、獣王の巨大な爪が通過して行った。

 一瞬で距離を殺したレイフォードが、その巨大な獣王の前肢の爪で銀竜を狙ったのだ。

 同時に、ベルゼラーの口から真紅の火炎が吐き出され、こちらは白い鷲獅子へと向けられる。

 だが、こちらは少々距離が離れていたこともあり、鷲獅子はあっさりと炎の腕を掻い潜る。

 次いで、再び一号怪獣の上半身より放たれる無数の触手。その触手は先程鳳王を捕らえたように、鷲獅子へと向けて投網のように広がった。


(茉莉っ!!)


 和人には、先程触手に捕らえられた鳳王と、今の茉莉たちの姿が重なって見えた。

 しかし、鷲獅子は黄金の猛禽よりも勝る最高速度と旋回性能を最大に生かし、迫る触手の網を振りきると背後へと向けて雷弾をばらまいて触手を破壊する。


(主よ! 呆けておる暇はないぞ!)

(お、おう!)


 ミツキの激を受け、銀竜は自らレイフォードの懐へと飛び込んでいく。

 そしてレイフォードもまた、飛び込んで来る銀竜を迎え撃つべく、三度触手を打ち出してこれを撃ち落とそうとするのだった。


 『怪獣咆哮』更新。


 本当なら先週中に更新する予定でしたが、先週は『魔獣使い』や『辺境令嬢』の番外編を書いていたため、今週の更新となってしまいました。


 物語の方は、まず鳳王が脱落。とはいえ、これは半分くらい自滅ですが(笑)

 そして、どんなに攻撃を加えても回復してしまうレイフォード。対して、魔力の殆どを奪われている状態の和人。

 状況はやや和人たちが不利です。


 さて、次回も戦闘は続きます。少しでも迫力のある戦闘を描写するように努力する次第です。


 では、次回もよろしくお願いします。


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