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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
63/74

26-合体

 自分と同じ高度までゆっくりと降下してきた黄金の猛禽に、銀の竜が訝しげな目を向けた。


(どういう風の吹き回しだ、鳳王よ。お主が人間に肩入れするとは思わなかったぞ)

(僕は別に人間に肩入れしたつもりはないよ。単に利害が一致しただけさ。あのレイフォードとかいう一角獣(ユニコーン)と人間の混血……彼は僕の敵でもあるからね)


 魔力を介した会話からは、鳳王の苛立たしげな感情が伝わってくる。

 その事から、ミツキは鳳王とあのレイフォードとかいう青年の間に、何らかの諍いがあった事を見抜いた。


(まあ、良いわ。理由はともかく、お主が力添えしてくれるのなら心強い)

(りゅ、竜王……)


 黄金の猛禽が、弾かれたように銀の竜へと振り向く。


(竜王が僕の事を認めてくれるなんて……今日は我が生涯で最良の日に違いないっ!!)


 空を振り仰ぐ鳳王。もしも彼が今、人間形態でいたとすれば、きっと晴々とした笑顔を浮かべているに違いない。もしくは、嬉し涙を滂沱の如く流しているだろうか。

 そんな鳳王の姿にしょっぱい視線を向けながら、和人は傍らのミツキに問いかける。


(な、なあ、ミツキ……おまえ、今まで鳳王の事、どうあしらって来たんだよ?)

(う、うむ……鬱陶しいから、基本は無視だな。あやつはすぐに愛しいだの恋しいだのと言い出してうるさくて適わんのだ)


 予想よりも酷い扱いを受けていたらしい鳳王に、和人は心の中でちょっぴり同情した。

 和人が余りにも報われない鳳王に内心で涙していると、彼の元へと白い鷲獅子(グリフォン)もやって来る。


(和人っ!! 目覚めていきなりの戦闘だったけど、体調は大丈夫?)

(ああ、俺なら大丈夫! 心配かけたな)

(茉莉、和人殿。和んでいる場合ではないぞ? これで終わったわけではないのだ)

(如何にも。まだまだ敵の本丸……例のレイフォードとかいう奴を倒しておらん)


 ミツキは言い終わると、再び黄金の猛禽へとその視線を向ける。


(鳳王よ。レイフォードがどこにいるか判るか?)

(もちろんだとも、竜王。僕を誰だと思っているんだい? 幻獣の気配を感知する能力で、僕の右に出るものはいやしないさ)


 黄金の猛禽は、器用に片目だけをぱちりと閉じると、その鋭い嘴を天へ──太陽へと向けた。


(奴ならあそこだ。あそこからじっとこちらを見ている)




 太陽を背にして、上空から地上を見下ろしていたレイフォード。

 整っていながらも表情が殆ど動かない彼の顔に、今は若干の驚きが浮かび上がっていた。


「まさか、七体もの怪獣を倒すとは……それに……」


 レイフォードの眼球全てが禍々しい黒に染まった目は、眼窩の銀の竜へと向けられていた。


「あの眠りの呪縛から逃れたのか……」


 彼が和人に施した呪い。レイフォードは、竜王の契約者がその呪いから逃れるとは思ってもいなかった。

 併せて、彼が呪いから逃れた事で、竜王の契約者からレイフォードへと流れていた魔力の供給も失われてしまった。

 今、銀の竜と白の鷲獅子、そして先程彼らと合流した黄金の猛禽が、下からじっとこちらを見上げている。

 その自分へと向けられる三対六個の瞳に、明らかな敵意を込めて。

 足元の幻獣たちが、何を望んでいるかなど今更口にするまでもないだろう。


「良かろう。僕自らが君たちの相手をしよう」


 眼下に滞空する三体の幻獣。

 彼らをここで倒せば、人間側の戦力は大きく減少する事は間違いない。

 無論、先程の彼の配下の怪獣と戦ったように、人間も無力ではない。それでも、やはり人間だけの力では怪獣という脅威に抗うのは難しい。

 故に、レイフォードはここで彼らを殲滅する事を決意した。

 彼らさえ倒してしまえば、人間を根絶やしにするという彼の野望へと大きく近づくのだから。

 決意を固めたレイフォードは、ポケットから二つの石のようなものを取り出す。

 一つは漆黒。もう一つは深緑。

 彼は眼下の幻獣たちを黒い瞳で見下ろしながら、手にした二つの石を纏めてごくりと飲み込んだ。




 城ヶ崎市の沖合いの上空で、突然巨大な魔力が膨れ上がった。

 それはここ、怪獣自衛隊城ヶ崎基地でも当然観測されている。


「城ヶ崎基地の沖合い二十キロ地点の上空で、突如膨大な魔力反応発生!」

「魔力の波動パターン、過去データと照合────出ました! えっ!? こ、これって……っ!?」


 目の前のモニターに映し出された照合結果。それを見たアンジェリーナ・ブラウン二等怪曹は、モニターを見詰めたまま絶句する。

 そんなアンジェリーナの様子に気づいたシルヴィアが、彼女の肩越しにそのモニターを覗き込み、同じように言葉を詰まらせた。


「これは────」

「は、はい、シルヴィア師。検出された魔力の波動パターンは一つではありません! 全部で三つあります!」

「どういう事かね?」


 シルヴィアとアンジェリーナのやり取りを黙って聞いていた権藤が、状況確認の意味も含めてシルヴィアに尋ねる。


「どうやら、上空には魔力の発生源が三つあるようですわ、権藤司令」

「三つだと? それはつまり、更に三体の怪獣が現れるという事か?」

「いいえ。そうではありません」


 シルヴィアはアンジェリーナの手元の機材を操作して、先程の検出結果を司令室の大型モニターへと投影した。

 そこに、シルヴィアたちの言う魔力の波動パターンを視覚化した、一つのグラフのようなものが映し出される。


「一見しただけでは、このように一つのグラフなのですが、実は微妙に波動の違う三つの波が寄り合わさって一つの波動を形成しています。つまり──」


 ごくり、と誰かが息を飲む音が響く。


「──これは三つの魔力源が寄り合わさっている事を示しています。おそらく、この魔力波動の持ち主は、三つの魔力源が一つになっていると推測します。そしてこの魔力波動パターンですが、三つの内二つまでが過去のデータと一致しました」

「で、その二つの過去データは、何のデータなのかね?」

「一つは一号怪獣ベルゼラー。もう一つは獣王(じゅうおう)と呼ばれる幻獣王のものです」




 自分たちがいる高度より遥か上空。

 方角的に現在太陽がある方角で突如膨れ上がった魔力に、和人たちは当然気づいていた。


(どうやら、御大将自らご出陣のようだね)


 鳳王が呟く。

 彼に言われるまでもなく、この場にいる全員がそれを理解していた。

 今、彼らの目の前に現れ出でたもの。

 それは全長八十メートルにも及ぼうかという超大型の怪獣だった。


(あ、あれは……確か獣王とかいう……)

(そうだ。主の言う通り、あれは獣王だ。おそらく、あやつは主から奪った魔力を強引に獣王の魔石に注入し、無理矢理目覚めさせたのだろう)

(そして……あのように歪んでしまったわけだね)


 ミツキの言葉を鳳王が補う。

 和人たちは、巨大でありながらも歪な獣の姿を目の当たりにしていた。

 そのシルエットは以前も見た、狼に良く似た獣王のそれ。だが、本来は四本であるはずの(あし)は、脇腹や下腹からも出鱈目に生え出して、合計十二本にも及んでいる。

 歪みはそれだけではなく、身体中の至るところが骨格を無視した無茶苦茶な造形を見せている。

 だが、その最たるは背中のそれだろう。

 獣王の──巨大な狼の背中からは、別の生物が生えていた。そしてそれは、見間違えようもなく一号怪獣ベルゼラーの上半身だ。

 唯一、それまで見たベルゼラーとの違いは、額から生えた巨大な一本角であろう。

 螺旋を描く、漆黒の一本角。それが何なのか判らぬ和人たちではない。

 今和人たちの目の前には、獣王とベルゼラー、そして一角獣が融合したような姿の巨大な怪獣が出現していた。

 獣王とベルゼラー、それぞれの瞳が敵意を宿して和人たちを見下ろす。

 おおおおおん、と獣王の口から咆哮が轟いた。

 獣王の口から放たれた咆哮は、徐々に魔力を高めていく。


(お、おい、ミツキ! これって……)

(うむ、間違いない。獣王の破砕咆哮だ! 全員散れ! 固まっていては一網打尽ぞ!)


 ミツキの指示に従い、三体の幻獣が素早く散開する。

 そして一瞬前まで彼らがいた場所を、無色の何かが通り過ぎるのを和人を始めとした全員がはっきりと知覚した。

 その後、その下の海面が泡立つように震え出し、一定範囲の海水が一瞬で蒸発した。

 破砕咆哮の震動に揺さぶられ、水そのものが粉砕されたのだ。

 そしてこれこそが、和人たちとレイフォードの最後の戦いを知らせる合図となったのだった。


 『怪獣咆哮』更新。


 いよいよ、こちらも最終決戦へと突入。

 ラスボスが最終形態で姿を見せました(笑)。


 さて、後は一気に最後まで駆け抜けるのみ、です。もう少しだけお付き合いください。


 では、次回もよろしくお願いします。


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