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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
62/74

25-鳳王

 標的に向かって真っ直ぐに降下する銀竜を横目に、白い鷲獅子は上空に留まったまま地上の怪獣を見定めた。


(ボクたちの標的はあのきらきらした蜥蜴みたいな奴。いいわね、ベリル)

(心得た)


 ベリルが返答すると同時に、空を舞う鷲獅子の周囲に幾つもの雷球が出現する。

 一つひとつの威力は、茉莉たちが雷弾と呼ぶものよりは劣るが、これだけの数で一斉に攻撃すれば、その最終的な攻撃力は雷弾を大きく上回る。

 このような無数の雷球を出現させる事は、以前ならば不可能だった。しかし、茉莉とベリルもまた成長しているのだ。今では雷弾よりも威力の高い攻撃性の魔術を展開できるようになっていた。


(よぉしっ! いっけえええええええっ!!)


 気合い一閃。

 一斉に解き放たれた無数の雷球は、様々な軌道を描きながら地上の怪獣──クリスタードへと殺到する。

 対して、クリスタードも身体の周囲に水晶のような物を無数に出現させ、襲い来る雷球に対する防御とした。

 しかし、水晶の楯は雷球に触れた途端、あっさりと砕け散る。

 水晶の楯を易々と突破した雷球の群れは、そのままクリスタード本体へと襲いかかり、その身体の表面で弾けると周囲に電撃の嵐を巻き起こした。

 無数の雷球が内包していた、膨大な電撃が一斉にクリスタードへと襲いかかる。

 十数秒後、電撃の嵐が納まると、そこには打ち砕かれたクリスタードだった怪獣の身体が無残にも横たわっていた。




 七体もの怪獣に襲われた怪獣自衛隊城ヶ崎基地。

 元々、城ヶ崎基地は怪獣の「通り道」に置かれた基地だけあり、基地の重要な施設は地下に造られている。

 だが、地上施設が皆無という訳ではないが、今回は七体もの怪獣が現れた事で、その地上施設は重大な被害を蒙ることになった。

 それだけではない。

 戦車やヘリといった兵器にも、甚大な被害を受けている。

 もちろん、人的被害も無視できない。多数の重傷者に加え、中には運悪く命を落とした自衛官もいる。

 それでもなお、城ヶ崎基地の自衛官たちは勇敢に怪獣と戦う。

 彼らの奮闘と突如現れた二体の味方の怪獣──これまでのマスコミの報道で、銀の竜と白い鷲獅子は人類の味方の怪獣であると言われていた──により、現れた七体のうち六体までを撃破することに成功した。

 残る怪獣はあと一体。

 だが、この一体が曲者だった。

 強靭な大型怪獣である事に加え、その身体を覆う泥のようなものが怪獣を守る鎧となっている。

 しかも、この泥はまるで意志があるかのように、怪獣の身体からぽたぽたと滴り落ちては、手近な戦車や自衛官たちに襲いかかり、目標を破壊し尽くすと再び本体へと戻って行く。

 どのような原理でそのような行動が可能なのかは不明だが、実質、一体の怪獣でありながら無数の敵と戦っているようなものだった。

 ドロンキー。それがその怪獣に与えられた名前だ。


「第八歩兵隊、通信途絶!」

「第三戦車隊、半数が大破! 残る車両も少なくない被害を受けています!」


 次々と舞い込む戦況に、司令官である権藤は込み上がってくる唸り声を噛み殺した。


「全部隊に通達! 迅速に退避せよ! ドロンキーは『騎士(ナイト)に任せる!』」


 権藤の指令を、司令室のオペレーターたちが各部隊へと通達する。

 その光景を確認しながら、権藤は『魔像機(ゴーレム)』の格納庫へと通信を繋いだ。


「白峰二尉。君には無理をさせるな」

「大丈夫です、司令。任せてください」


 通信機の向こうから、明人の明るい声が返って来る。

 『騎士』は今、武器の装換と補給のため一旦格納庫に下がっていた。

 慌ただしい戦況の中、作業員たちがコマネズミの如く動き回り、『騎士』の再出撃の準備を済ませて行く。

 『騎士』の補給の間に操縦者(パイロット)である明人自身も、水分などを補給しておく。

 そして、整備士から再出撃可能のサインが出る。

 操縦席(コクピット)に舞い戻った明人は、相棒である真紅の騎士に語りかけた。


「行くぞ、『騎士』。残る標的は一体だ」

「Yes Sir.」


 明人の声は明るい。戦闘中にやや不謹慎かもしれないほどに明るかった。

 先程、彼はその目で銀の竜の姿を見た。

 それは彼のたった一人の肉親が目覚めた証拠である。憂いのなくなった今、明人は目の前の怪獣を倒すことだけに集中できる。

 操縦席の中、明人は一人その瞳に戦意を湛えて再び戦場へと舞い戻って行った。




 銀の竜より放たれた光弾が、ドロンキーの身体の表面で弾ける。

 だが、それだけだ。光弾がドロンキーに痛打を与えた様子はまるでない。

 銀竜がドロンキーに与える打撃はその殆どが無効化されていた。

 肉弾戦による直接的な打撃は、身体を覆う泥によってほぼ吸収されて痛打となり得ていない。

 それならばと放った光弾もまた、身体の表面で弾けるだけだ。


(くそっ!! あの泥、思った以上にやっかいだな!)


 苛立たしそうな声を上げる和人の肩に、ミツキがそっとその細い手をかけた。


(焦るな、主よ。ただでさえ主の魔力は残り少ないのだ。無駄な消費は避けるが上策だぞ?)


 膨大な魔力を内包する和人だったが、今の彼はミツキの言葉通りに残存魔力が少ない。

 その理由はもちろん、彼の魔力が眠っている間にレイフォードへと流れていたからだ。

 一号怪獣やレイフォードの身体を修復し、七体もの怪獣の覚醒に使われて尚、底を見せない和人の魔力。どちらかと言えば、和人のその魔力量の方が脅威であるとミツキなどは感じているのだが。

 それでもさすがにそれだけの魔力を奪われて、和人の魔力も尽きかけている。


(いいか、主よ。主に残る魔力では、切り札の「光波竜撃(シャイニングブレス)」は使えてあと一回。これ以上魔力を無駄に消費すれば、その一回も不可能になるぞ?)


 ミツキの忠告に、和人はむぅと喉の奥で唸った。

 「光波竜撃」とは、アルナギンゴや獣王を倒した、和人とミツキ最大の攻撃技である。

 ちなみに、この技に「光波竜撃」という命名を行ったのは毅士であった。ミツキがその名をいたく気に入り、以後「光波竜撃」と呼んでいるのだ。

 十数メートルの距離を挟み、互いに対峙する銀の巨人とドロンキー。

 そのドロンキーに、上空より無数の雷撃の雨が降り注いだ。


(茉莉!)


 和人が上空を仰ぎ見れば、そこには空を悠然と舞う白い鷲獅子の姿。

 だが。

 茉莉が放った雷撃でも、ドロンキーに効果的な打撃は与えられない。

 雷撃の衝撃で周囲に飛び散った泥たちが、うぞうぞと蠢きながら本体へと戻って行くのが和人たちの目に映る。

 その光景を見て、ある考えが和人の脳裏を掠めた。


(なあ、ミツキ。あのドロンキーって奴の泥を全部吹っ飛ばし、その後に本体に攻撃したらどうだ?)

(うむ。それは有効そうだな。だが、あの泥を全部纏めて吹っ飛ばすだけの攻撃となると、それこそ「光波竜撃」並みの威力が必要になるが……)


 ミツキの眉がきゅっと寄る。

 今、「光波竜撃」を使ってしまっていいものか。

 間違いなく、この怪獣の裏にはレイフォードがいるだろう。この状況で、切り札とも言うべき「光波竜撃」を切る事が果たして得策か否か。

 判断を迷っていた和人の耳に、以前に聞き覚えのある声が響いたのはその時だった。


(どうやら、お困りのようだね?)


 これに驚いた和人は、思わずミツキを見詰めた。


(今のは……)

(うむ。間違いない。この「声」は鳳王(ほうおう)だ)


 和人とミツキが確認している間も、鳳王の「声」が二人の脳裏に響く。


(そいつは僕が引導を渡してあげるよ。ただし、そこでは場所的に拙い。何とか海……できれば、海の上空がベストだ。そこまでそいつを引っ張り出せないかい?)


 その要請に諾と応えた和人とミツキ。上空の茉莉も今の「声」は届いていたようで、彼女からも応との返事が返ってきた。


(いいか、茉莉。俺たちとおまえたちでこいつを持ち上げ、海の上空まで運ぶぞ!)

(判ったよ、和人!)


 和人は素早く身体を巨人から竜へと変化させる。そして背中の翼を力強く羽ばたかせ、低空を飛行しながらドロンキーへと接近する。

 合わせて、上空からは茉莉とベリルが急降下。

 途中でその進路を変更し、低空を飛び銀竜と速度を合わせて並行する。

 竜と鷲獅子は同時にドロンキーと激突。

 そのまま二体の幻獣は、怪獣の身体を牙や爪でしっかりと捉えてその巨体を持ち上げようと試みる。

 途端、怪獣の体重が竜と鷲獅子の翼にのし掛かっきた。

 衝撃を感じながらも二体の幻獣はその翼に力を込め、ドロンキーを上空へと運び上げようとする。


(ぐ、ぐぅ……)

(がんばれ、茉莉っ!!)


 自身も力を振り絞りながら、和人は茉莉を力付ける。

 だが、ドロンキーは脚部の泥を接着剤のようにして、しっかりと大地に根を張る。

 どうやら、和人たちの企みに気づいているようだ。

 二体の幻獣は必死に翼に力を込め、怪獣の巨体を持ち上げようとする。しかし、竜と鷲獅子の二体がかりでも、ドロンキーを持ち上げる事はできそうもない。


(か、和人……ぼ、ボク、もう……)


 茉莉が悲鳴に近い声を出す。

 和人もまた、力を振り絞っているものの、内心では茉莉と同じ心境だ。


「諦めるなっ!!」


 その時、突然和人と茉莉の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。

 その声の方へと意識を向ければ、自分たちの方へと駆け寄る真紅の騎士の姿。


(に、兄ちゃん!)


 真紅の騎士はドロンキーの足元へ素早く潜り込むと、手にした剣を一閃。同時に迸った魔力の奔流が、地面に張り付いていたドロンキーの泥を一斉に断ち斬った。


 途端、ふわりと浮かび上がる怪獣の巨体。

 三つの巨体はもつれ合うように飛びながら、城ヶ崎基地の敷地を飛び出し、瞬く間に沖合い上空まで到達する。


(よし、そこならいいだろう。早く離れたまえ)


 再び響いた鳳王の「声」に、竜と鷲獅子がドロンキーの巨体を放して離脱した。

 そこへ、上空から黄金の影が舞い降りた。

 黄金の羽毛に包まれた、銀竜にも匹敵する巨大な猛禽。

 がっしりとした太い二本の脚には頑丈で剣呑な爪があり、嘴も爪同様に鋭そうだ。

 そして獲物を真っ直ぐに見詰める瞳には、明らかな意識の輝きが見て取れる。

 だが、何よりも特徴的なのは、その巨体を空に支える三対六枚の翼だ。

 まさに空の王者の風格を漂わせた黄金の猛禽が、ひたとその視線を海へと落下しゆくドロンキーへと定めた。

 その瞬間。

 ドロンキーの身体は、その内側から高温で焼かれた。

 熱を直接操る鳳王の力。

 その力が、泥の内側から直接ドロンキーの身体を焼いているのだ。

 海へと落ちながら、自らを焼く高熱に苦悶の咆哮を上げるドロンキー。

 熱に焼かれたその身体は、端からぼろぼろと炭化していき、海へと落下する前に完全に燃え尽きた。

 ドロンキー撃破。

 それは出現した七体の怪獣を全て倒した事を意味し、その報せを受けた城ヶ崎基地で一斉に歓声が上がった。



 『怪獣咆哮』更新。


 今回は鳳王の幻獣形態がようやく登場。

 実のところ、契約者を持たない彼の力は、ミツキよりも遥かに劣っており、下手をするとベリルよりも下回るぐらいです。

 とはいえ、対ドロンキーに関してはその能力の相性があっさりと彼に勝利をもたらしました。


 さて、ここまで来たら当『怪獣咆哮』もあと少しです。具体的な残りの話数まではまだ不明ですが、何とか年内に完結まで持ち込みたいものです。


 では、次回もよろしくお願いします。


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