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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
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25-反撃

 突如出現した銀色の光の柱。

 そして、その柱の中から出現した銀の竜。

 権藤は、それが反撃の機会が訪れた事を指し示していると理解した。

 銀の竜の出現は、和人が目覚めた証に他ならない。

 ならば、怪獣たちの無限の再生は途切れた事になる。あの怪獣たちは、和人の魔力を元に再生していたのだから。


「怪獣自衛隊の全隊員に告ぐ。今までよく絶えてくれた。これより、怪獣自衛隊は全力をもって反撃を開始する──総員、反撃開始っ!!」


 権度の反撃開始の指令は、怪獣と必死に戦っていた怪獣自衛隊の自衛官たちの耳に届いた。

 これまで、彼らは権藤の指令により、最低限の抵抗をするだけだった。

 理由はもちろん、今の怪獣相手にどれだけ攻撃を加えても無意味だったからだが、自衛官たちは怪獣が再生するシステムまでは知らない。

 それでも、上からの命令に従い、苦しいながらも最低限の反撃を懸命に試みてきた。

 しかし、その命令は撤回され、全力での反撃が許可された。

 枷を解き放った自衛官たちは、待ってましたとばかりに攻勢に出る。

 怪獣は巨大で強大である。だが、人間も決して無力ではないのだ。

 それを証明するため、自衛官たちはその指を引き金(トリガー)にかけた。




 多連装ロケットシステム自走発射機M270──通称MLRS──数機より、ロケット弾の雨が巨大な百足(ムカデ)──ムカデロンへと降り注ぐ。

 ムカデロンは全長七メートルと小型に分類される怪獣だが、外殻はその身体の大きさに比して強靭であり、ロケット弾の雨をものともしない。

 そこへ、MLRSより更に後方から96式多目的誘導弾システム──通称MPLS──が、誘導弾の追加打撃を加えた。

 このMPLSは、応援要請に応えた近隣の陸上自衛隊の部隊であり、城ヶ崎基地の後方に展開して権藤の指示の元に攻撃に参加したのだ。

 更には至近まで近づいた歩兵たちが担いできた対戦車誘導弾を叩き込み、その後は素早く離脱する。

 このような重火力に晒されたムカデロンの外殻は遂に崩壊し、その身体の内部にまで砲撃の業火が忍び込む。

 こうして身体の内側から高熱の炎に焼かれたムカデロンは、その細長い身体を必死にくねらせながら、真紅の炎に焼かれていった。




 87式自走高射機関砲──通称スカイシューターに搭載された二基の35mm高射機関砲が猛烈な勢いで弾薬を吐き出して行く。

 標的は空中を高機動で移動する巨大な蜻蛉(トンボ)──スカルドンである。

 本来、蜻蛉とは飛ぶことに特化した昆虫であり、その飛翔性の高さと飛行速度は全昆虫の中でもトップクラスである。

 その蜻蛉の特性を受け継いだスカルドンは極めて高速で空を飛び、まるで物理法則を無視したような急旋回・急機動を見せる。

 しかし、捜索レーダー、追随レーダー射撃統制装置が一体となって、デジタル・コンピューターと連動して目標の発見・捕捉・発射までの過程がリアルタイムで計算され、動揺修正も自動的に行われるスカイシューターの35mm高射機関砲は、スカルドンの巨体も相まってその身体を的確に捉える。

 空中機動性に特化したため、防御面では大型に属しながら格段に低いスカルドンは、高速弾の集中砲火に晒され、その身体中を穴だらけにされていく。

 鋭いが薄い翅は破れ、細長い身体も次々に35mm弾に削られる。

 そして遂に翅が千切れ飛び、スカルドンは本来の縄張りである空から大地へと叩き落とされた。

 そこへ今度は10式戦車の120mm滑空砲が降り注ぐ。

 加えて99式自走155mmりゅう弾砲が、その155mmりゅう弾による追撃を行う。

 本来の生息域である空から引き剥がされたスカルドンに、最早再び本来の空へと舞い戻る力は残されていなかった。

 まるで力尽きた蜻蛉に蟻が群がり、やがて蜻蛉をばらばらにして巣穴へと引きずり込むように、自衛官はじわじわと巨体を削り取り、その負の生命力までも減少させていく。

 そして。

 ついに巨大な蜻蛉は力尽き、顔に張り付いていた人間の髑髏がからんと音を立てて大地に転がった。




 その部隊が標的に選んだのは、直立歩行する大熊猫(パンダ)──パンダラシであった。

 いや、もしかするとそれは、パンダ模様のヤマアラシなのかもしれない。

 ヤマアラシのような鋭い棘に覆われたその怪獣は、分類上は小型になるだろう。

 しかしその剣呑な棘の数々が、その怪獣をより凶悪に見せていた。

 そんな小型ながらも凶悪な怪獣に、AH-1S対戦車ヘリコプターの部隊はタイミングを合わせて搭載されていた対戦車ミサイルを一斉に解き放った。

 まるで解き放たれた猟犬のように、目標に向かって邁進するミサイル群。

 レーダー誘導されたミサイル群は、狙い違わず全て怪獣へと命中し、真紅の花を咲かせていく。

 その強烈なインパクトに、怪獣は数歩たたらを踏む。

 そこへ地上から10式戦車部隊が砲撃を加える。

 空と地上から一方的な火力に晒されるパンダラシ。

 だが、パンダラシはその身体に真紅の炎を纏いつかせながら、地上の戦車部隊へと躍りかかった。

 戦車部隊も必死に回避しようとするが、パンダラシはその巨体に似合わず素早い。あっと言う間に肉薄され、その鋭い爪が戦車の装甲を易々と斬り裂く。

 地上の戦車部隊を援護するため、AH-1S対戦車ヘリコプター部隊はロケット弾をパンダラシに打ち込む。

 再びの打撃に、今度は耐えきれずにパンダラシはもんどり打って倒れ込む。

 そこへ止めを刺すように、上空からはAH-1S対戦車ヘリコプターが、地上からは10式戦車が更なる追撃を加えていく。

 柔軟な毛皮も分厚い脂肪も、砲弾の火力に徐々にその防御力を打ち崩されて、遂にはその火力の前に敗北を喫した。

 更なる集中砲火の中、白黒の毛皮を持った怪獣は、一度だけ悲しそうな咆哮を上げ──それっきり沈黙した。




 口から飛び出した炎を、真紅の巨大な騎士はその左手に装備した楯で受け止めた。

 『防炎・反炎』の術式を施した楯は、高熱に解けることなくその炎を受け切る。

 そこへ、今度は吹雪と電撃が襲いかかる。

 騎士はそれらを飛び下がって躱すと、間髪入れずに三つ首の虎──サントラーに接近した。

 そして、右手の長剣を一閃。サントラーの左前肢に斜めに朱戦が走り、どろりとした黒い液体が溢れ出る。

 しかしサントラーはそれを苦痛に感じた素振りも見せず、首の一つが足元にいる真紅の騎士に噛みつこうとその(あぎと)を大きく開けて騎士へと迫る。

 対して、騎士はその鼻面へ手にした剣をカウンター気味に突き出した。

 剣は鼻先へと深々と刺さる。これにはサントラーも苦痛を感じたようで、苦しげな悲鳴のような咆哮を上げた。

 剣を力任せに引き抜いた騎士は、素早く飛びすさると手首に内臓されていたガトリングガンをポップアップ。術式を付与され、貫通力を増した特製の弾丸をサントラーへと浴びせていく。

 ぼっぼっぼっと小気味良い音と共に、サントラーの身体の至る所に丸い銃創が刻まれる。

 騎士は腕をやや下へと向け、銃創をサントラーの脚へと集中させた。

 途端、四本の脚は銃創で埋め尽くされ、がくりとサントラーがつんのめる。

 だが、サントラーも怪獣だった。

 体勢を崩しながらも、サントラーの三つの口からそれぞれ炎・雷・吹雪が吐き出され、真紅の騎士へと襲いかかる。

 この三種類の攻撃に対し、騎士は身体の全面に障壁を展開して防御した。

 幻獣として自我に目覚めた真紅の騎士。騎士もまた、日々成長しているのだ。

 銀の竜王や白の鷲獅子から魔力の扱いを学んだ騎士は、今ではこのように自分や主の魔力を用いて障壁を展開させる事ができるようになった。

 障壁に阻まれ、炎と雷と吹雪が四散する。

 その直後、発射されたミサイルのような加速で再びサントラーへと接近する騎士。

 騎士が装備している長剣に、魔力を帯びた光が宿る。

 騎士の主が剣に予め付与されていた術式を展開、その術式に込められていた魔力を一気に解放する。

 サントラーと騎士の距離は約十五メートル。それだけの距離をおいた状態で、騎士は手にした剣を振りかぶった。

 剣に宿る魔力の輝きが一際強くなる。

 剣が振り下ろされると同時、光は剣が延長するかのように長く伸び、十五メートルという距離を超えてサントラーの巨体に到達した。

 ずぶり、と音を立てて、光の刃はサントラーの身体に食い込んでいく。

 光の剣──一号怪獣を切り裂いたのと同じ、魔力による斬撃──は、ずぱりとサントラーの身体を縦に両断した。

 真っ二つに斬り開かれ、魚の開きのような形で左右に倒れるサントラーの巨体。

 どん、という轟音と共に、サントラーの命もまた瞬時に斬り捨てられていた。




「ムカデロン、スカルドン、パンダラシ、サントラー、共に沈黙!」


 アンジェリーナ二等怪曹の報告に、司令室のスタッフは歓声を上げた。

 いや、この怪獣自衛隊城ヶ崎基地に所属する全職員たちも、倒れた怪獣たちを見て歓声を上げている。


「これで残るはタコキングとクリスタード、そしてドロンキーだな」


 にやりと口角を上げ、権藤が満足げに呟く。

 だが、残るタコキングとクリスタードは中型、ドロンキーに至っては大型に分類される怪獣である。

 その三体の総合的な破壊力は、既に倒した四体よりも遥かに大きい。

 だが。

 だが、人間にもこれに十分に対抗する戦力はあるのだ。

 権藤の目が、モニターの中の銀の竜を注視する。

 今、モニターの中では銀の竜に続いて白い鷲獅子までその姿を現し、共にゆっくりと上空を旋回している。

 権藤にはその姿が、まるで猛禽が地上の獲物を狙っているかのように見えた。

 そして、権藤のその考えを裏付けるかのように、銀の竜と白い鷲獅子は一気に急降下する。

 銀の竜はタコキングへと。白の鷲獅子はクリスタードへと。

 銀の竜が光に包まれる。その光が薄れた時、竜は消え失せて巨人が現れた。

 巨人は足先を標的であるタコキングへと向け、彗星のように光と共に落下する。

 眩しいばかりの魔力の光。

 その光から逃れるように、タコキングは二十本近い足を身体を取り囲むように曲げて防御姿勢を取る。

 ずがん、と重々しい音がモニター越しに権藤の耳朶を打つ。

 上空から落下した巨人の蹴りは、タコキングの足を数本吹き飛ばすも本体には届かなかったようだ。

 だが、その吹き飛ばした数本の足でさえ、見る間に再び生えそろう。どうやら、このタコキングには自前の再生能力があるらしい。

 その光景を見た巨人は、拳に光を纏わせて防御体勢の上からタコキングを乱打する。

 だが、タコキングのその軟体な身体は打撃に強く、どれだけ乱打してもその防御は崩れない。

 自分の攻撃が無効だと知った巨人が、一旦タコキングから離れて距離を取る。

 そして、巨人は権藤たちが見詰める中、拳ではなく手刀の形にした手を天へと掲げた。

 その手刀に、再び魔力の光が宿る。

 巨人は天へと掲げた手刀を、タコキングへと向けて一気に振り下ろした。

 手刀から迸る魔力の光。

 光はタコキングへと到達すると、その鉄壁の防御の上から彼の怪獣を真っ二つに斬り裂く。

 その光景は、先程サントラーを二枚に下ろした騎士のそれと酷似していた。




「い、今のは……」


 その光景を目にしたベアトリス二等怪曹が呆然と呟いた。

 彼女には、今の銀の巨人の攻撃が先程の真紅の騎士の攻撃と同じだと判ったのだ。


「──どうやら彼は、白峰二尉の先程の魔力撃を見て、それを真似たみたいね」


 ベアトリスの心境を見抜いたように応えたのは、たった今、着替えを済ませて司令室へと戻ったシルヴィアだった。


「で、ですがシルヴィア師! 白峰二尉の魔力撃は見ただけで真似できるような技術じゃありませんよっ!?」

「あら、それを言ったら白峰二尉だって、誰に教わったわけでもないのに魔力撃を使ったわよ?」

「そ、それは……」


 師の言葉に反論できず、アンジェリーナが沈黙する。

 そんな彼女ににこりと微笑むと、シルヴィアは呆れたように言葉を吐く。


「……やれやれ。本当にとんでもない兄弟ね。あれだけの高等技術を、方や思いつきで実行し、方や見ただけで真似ちゃうんだから」


 白峰兄弟の魔術師としての才能はいかほどだろうか。

 それを考えると、シルヴィアは感心するやら呆れるやら複雑な心境だった。

 彼女たちが白峰兄弟についての論議を交わしている内に、白い鷲獅子もまた、標的と定めたクリスタードを撃破していた。

 鷲獅子は上空から一方的に電撃を喰らわせ、まさにクリスタードを瞬殺したのだ。

 これで撃破した怪獣の数は六。

 残るは大型のドロンキー一体のみとなった。



 『怪獣咆哮』更新しましたー。


 いやあ、連載しているものが一本しかないって楽だね! これまでずっと複数連載していたから、一本だけってのがこんなに気軽だとは。

 今までは一本終わったらすぐに次へ、と慌ただしかったからなぁ。


 さて、今回は主に人間が怪獣に抗うシーンにスポットを当ててみました。

 ネットで必死に自衛隊の装備について調べ上げ、少しでもリアルさを出そうと努力してみましたが、ミリタリー関係に詳しい方々にはどのように映ったでしょうか。

 もしも矛盾点などありましたら、お気軽に指摘ください。当方、自衛隊関係など殆ど無知なので指摘は大歓迎です。


 前回の更新から今回までの間に、お気に入り登録が30件近く増えました。

 登録してくださった皆様、本当にありがとうございます。一週間も経っていないのに、これだけの登録数が増えたのは『怪獣咆哮』連載以来初めての快挙です。


 これからも各種支援に応えるようにがんばります。

 次回もよろしくお願いします。


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