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怪獣咆哮  作者: ムク文鳥
第3部
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15-施術

「断る」


 自分の要求をきっぱりとミツキが断った時、サンドマンはぴくりとその形の良い眉を動かした。


「我の身体は髪の毛一本に及ぶまで、我が契約者たる和人様のもの。その我の胸を和人様以外に触れさせるなど以ての外。もちろん、身体だけではなく心も魂も我の全ては契約者のもの。それは幻獣たるお主にも理解できるものであろうが」

「もちろんにございますとも、竜王様。竜王様程の力を持たないとはいえ、私めとて幻獣の端くれ。契約者を得られた竜王様の心境はよく判ります」

「ではなぜ、我の胸に触れることを望むや?」

「それはそれ、これはこれにございます」


 ご丁寧に荷物を退ける身振りまでつけて、サンドマンはしれっとそんな事を言ってのけた。

 それを見た茉莉など、開いた口が塞がらないといった感じでぽかんとしている。


「先程も申しましたが、私めは無類のおっぱい愛好者……おっぱいフリークにございます。そんな私めからすれば、竜王様のおっぱいは正に神のおっぱい。こんな機会でもなければ、一生触れる事など適いますまい。となれば、この機に乗じて触れてみたい、自由自在に揉みしだきその神の如きおっぱいを心行くまで堪能したい、と考えるのは自然の理というものでございましょう」


 胸に手を当て、慇懃な姿勢で頭を下げるサンドマン。

 そのぴしっとした三つ揃えの服といい、きちんと整えられた頭髪といい、見る者を魅了する甘い容貌といい、いかにも高潔な紳士といった見かけのサンドマン。

 だが、そんな彼の口から飛び出すのはなんとも残念なおっぱい談話。

 茉莉の中で彼が、「残念なイケメン」の烙印を押されたのも当然な成り行きだろう。

 だが、それでも茉莉はミツキの袖を引き、視線だけはサンドマンに向けたまま彼女へと囁いた。


「ちょっと待ってよ、ミツキ! そんな一方的に向こうの要求を断って、あのサンドマンって幻獣の協力を得られなければどうするつもり?」

「ならば、小娘。貴様があやつに胸を揉まれるがいい」

「へ……っ!? い、嫌だよ、ボクっ!! ボクもそ、その……か、和人以外に胸を触らせるつもりはないからねっ!!」


 両手で自分の胸をかき抱き、茉莉は二、三歩ほどミツキから離れる。


「ほれ見るがよい。貴様も我と同じであろうが」

「ううぅ……じゃ、じゃあ、どすうるの?」

「何、簡単な事よ」


 ミツキは、視線を隣の茉莉から少し離れた所でびしっと直立しているサンドマンへと移すと、その口角をにんまりと釣り上げた。




 数分後。ボロ雑巾のような姿でドイツの森の中で倒れ伏し、ぴくぴくと痙攣しているサンドマンの姿があった。

 そんなサンドマンに、彼を蹂躙した張本人であるミツキが魔力を用いた癒しを施す。


「どうじゃ? 助力する気になったか?」

「うう……どの口がそのような事を申しますかな?」


 癒しを施され、再びぱりっとした姿に戻ったサンドマンが、じっとりとした眼をミツキに向ける。

 確かに彼が憮然とした表情を浮かべるのも無理はない。

 ミツキへの助力の見返りとして進言した、彼女の神の如きおっぱいの堪能。だが、彼女はそれに首肯するどころか、理不尽なまでの暴力をサンドマンに見舞ったのだ。


「何を言う。我は先に言い置いておいたはずだぞ? 例え腕尽くでもお主を連れてゆく、とな」

「ですが、竜王様はこうも申されましたな。我にできる事ならばなんでもしよう、と」


 サンドマンに反論され、ミツキは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「では、どうあってもおっぱいを触らせぬ事には我の言う事を聞かぬと言うのだな?」

「依頼された労働に対し、正当なる対価を要求するのは間違っていないと愚考いたしますが?」


 確かに労働を依頼しているのは確かだが、果たしておっぱいを触らせる事が正当な対価だろうか? いや、正当どころか十分セクハラに該当するのでは? と茉莉が頭を悩ませていると、ミツキが腕を組んではぁと深く溜め息を吐いた。


「お主に引く気がないのは良く判った。となれば仕方ないのぉ……」


 決意を秘めた表情のミツキがそう言った時、彼女たちと対峙していたサンドマンが輝くような笑みを浮かべた。




 オフィスで身なりを整えたシルヴィアと、彼女の準備が整うのを待っていた明人は、そのまま『騎士(ナイト)』のある格納庫へと直行した。

 無論、事前に指令室へと連絡を入れ、権藤へは彼らの目的を告げてある。

 そして明人たちが格納庫へと足を踏み入れると、普段から喧騒絶えないそこは全くの無人であり、シルヴィアの二人の弟子であるブラウン姉妹だけが静かに待っていた。


「シルヴィア師。言われた素材の準備整っています」

「付与術式の魔方陣展開完了です。いつでも作業に入れます」


 彼女たちに言われ、明人は『騎士』の周囲を見回す。そこには用途不明な物体──何かの内臓のようなものが入ったビンや、様々な鉱石、何のものかは不明だが色々な大きさの骨などが散乱し、直立したまま『騎士』が機体を預けているメンテナンスベッドの前の床には、大きな魔方陣が描かれていた。


「一体、何を始めるつもりなんですか、シルヴィアさ──カーナー博士?」

「もちろん、一号怪獣に有効な対策を『騎士』に施すのよ」


 先程の威力偵察で得た一号怪獣の細胞のデータから、最も効果的な術式を『騎士』の武装に施す。それが明人たちが格納庫に来た理由だった。

 そして、明人は積まれた謎物体と『騎士』を何度も見比べる。

 自分の相棒であり愛機であり、そして自我に目覚めてからは掛け替えのない戦友でもある『騎士』。

 確かにシルヴィアの事は信頼しているし信用もしている。だが、彼女には「研究者」もしくは「探求者」としての一面がある事を、明人はこれまで一緒に生活してきて十分知り得ていた。

 そのシルヴィアが『騎士』に何らかの施術を行う。しかも、目に見えて妖しげな素材を用いて。

 明人が嫌な予感を感じるのもむべない事だろう。

 明人が心配そうな視線を向ける中、シルヴィアは直立している『騎士』へと話しかけた。


「『騎士』。あなたの剣を床の魔方陣の上に置いてくれるかしら?」


 シルヴィアに要請された『騎士』の視線が移動する。それは主である明人に、彼女の指示に従うべきかを問うていた。

 そんな『騎士』に明人が一瞬迷いながらも頷くと、真紅の幻獣であり生きる機械でもある彼は愛用の剣を引き抜いた。


「Yes Mom. これでよろしいでしょうか?」


 『騎士』はシルヴィアの指示通り、引き抜いた剣を床に描かれた魔方陣の上に置く。

 それを確認したシルヴィアは、先ほどオフィスで着込んだ衣服を再び脱ぎ始めた。それに合わせ、彼女の弟子である二人の姉妹も同じように衣服に手をかける。

 今、この格納庫に彼ら以外に人影はない。本来なら多くの整備員や作業員が溢れ返っているこの場所が、全く無人なのはこのためであった。

 これから行う施術は、必要魔力の関係で彼女たち三人の魔術師たちが半裸で執り行わなくてはならない。そのため、シルヴィアは権藤を通じて本来ならこの場にいるスタッフの面々を退去させたのだった。

 そして、三人の女性が服を脱ぎ出したのを眼にした明人は、真っ赤になりながらも慌てて彼女たちへと背中を向ける。

 シルヴィアは明人の慌てた様子にこっそりと笑みを浮かべると、下着姿になってビンに入っていた何かの内臓のようなものを掴み出す。

 同様に下着姿になったブラウン姉妹が、様々な鉱石や骨を魔方陣の各所に配置する。

 それを確認したシルヴィアは、内臓を手にしたままつかつかと魔方陣の中に足を踏み入れ、横たえられた『騎士』の剣の真上で、手の中の内臓を握り潰す。

 潰された内臓は、ぶちゅりという異音と共に中に蓄えられていた血よりも遥かにどす黒い液体が、剣の刃の上にぼとぼとと零されていく。

 黒い液体で刃の上に文字のようなものを描いたシルヴィアは、背後に控える弟子たちに頷くと、その場で複雑な印を結び呪文を口にする。

 それに合わせるように弟子たちも呪文を唱え、三者三様の独特な旋律が格納庫の中で木霊する。

 背後から聞こえる美しい旋律に、思わず振り返りそうになった明人を、彼の理性はブレーキを最大に踏み込んで留めた。

 今、振り返ればきっと男にとっての桃源郷が拝めるだろう。

 シルヴィアもブラウン姉妹も、客観的に見て十分美人と呼べる容姿の持ち主たちだ。その彼女たちが半裸で美しい旋律を重ね合わせている。それはまさに、船乗りを死地に迷い込ませるセイレーンの歌声に等しい。

 そんな誘惑を必死に押し止める明人の理性。

 彼は公務員であり、国民の安全を与る自衛隊員なのだ。こんなところで覗き見野郎の十字架を背負うわけにはいかない。いや、絶対に背負ってはいけない。

 そんな明人の葛藤を知ることもなく、シルヴィアとその二人の弟子たちは、朗々と歌うように呪文を奏でていく。




 旋律が止み、シルヴィアから「こっち見てもいいわよ」と言われた明人が振り返る。

 それと同時に、『騎士』の近くの机の上にあった内線の電話が鳴り出した。

 突然の騒音に全員がびくりと身体を震わせるものの、その騒音の正体を知ってほっと安堵の溜め息を洩らす。

 その後、女性陣三人の視線が明人へと集中し、その視線の意味を理解した彼はその内線へと手を伸ばした。


「はい、こちら『魔像機(ゴーレム)』格納庫、白峰です」

『白峰二尉か? 権藤だ』

「し、司令っ!?」


 内線の向こうから聞こえて来たその声に、明人は思わず姿勢を正す。


『『騎士』の準備はどうだ?』

「はっ!! 準備は終わりましたっ!!」


 明人はシルヴィアが頷いたのを確認して、そう権藤に返答する。


「では、白峰二尉はそのまま『騎士』に搭乗して待機。カーナー博士とブラウン怪曹たちは至急司令室に来るように伝えてくれ」

「はっ!! 了解しました」


 内線の通話機を置き、明人は権藤の指示を三人に伝える。


「では、私たちは司令室に戻りましょう。ああ、そうそう、白峰二尉」


 明人はシルヴィアが「明人くん」ではなく「白峰二尉」と呼んだため、姿勢を正して上官の言葉を待つ。


「『騎士』の剣に施した施術は、所詮は付け焼き刃のため持続時間(レギュレーション)があまり長くないわ。そうね……起動させてから精々三十分が限界よ。それだけは忘れないで」

「了解でありますっ!!」


 シルヴィアの解説を聞き、それに敬礼で応えた明人は姿勢を正したままくるりと背を向け、『騎士』の搭乗タラップを駆け上る。

 そしてタラップを駆け上り、『騎士』の操縦席(コクピット)へ入る時、ちらりといまだに床に横たえられている『騎士』の剣へと眼をやり、露骨にその眉を歪ませた。

 なぜなら、それまで白銀の輝きを見せていた剣が、今では赤黒く何とも不気味な色に変色していたからだ。




 シルヴィアたちが司令室に着いた時、それは起こった。

 一号怪獣の一部を回収し、解析していた解析施設。その施設が入っている建物の屋根が、突然吹き飛んだのだ。

 その光景を司令室に入ったシルヴィアたちと、権藤を始めとした司令室のスタッフたちは呆然と見詰めていた。

 そして。

 そして吹き飛んだ建物から、煮物の煮汁が鍋から吹きこぼれるように、赤黒い何かがどろりと這い出してきた。

 這い出した何かは次第に寄り集まり、何かの形を形成していく。

 もぞり、とその何かが身を起こす。

 太短い二本の脚で身体を支え、全身のバランスを長い尻尾で補う。

 大きな身体を支える後脚同様、短めの前肢には鋭い爪が並び、形作られた頭部に切れ込みが生じ、そこに剣呑な牙がずらりと並ぶ。

 こうして権藤やシルヴィアたちが見詰める中、第一号怪獣、ベルゼラーと呼ばれるその個体は以前の姿を取り戻して高々と咆哮を上げた。



 『怪獣咆哮』更新しました。


 えー、前回から登場の残念なイケメンことサンドマンは、 澤群 キョウ様の作品『俺のスイートハートは最強のブラックドラゴン』に登場するドラゴンフェチの変態王子様の影響を受け、あのようなおっぱいスキーの変態になってしまいました。

 うん、後悔はしていない。



 さて、当作の当面目標である「文章評価とストーリー評価それぞれ100点超え」は、皆様のおかげをもちまして達成いたしました。

 引き続き、次の当面目標は「お気に入り登録200件突破」にしたいと思います。

 そしていつかは「日間ランキング」入りにっ!! ・・・・・・できたらいいなぁ(笑)。


 では、これからもよろしくお願いします。

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